こんにちは。税理士の高荷です。
小規模な中小企業や個人事業者なら、一度は耳にしたことがあるもしれません。
- 小規模企業共済
- 経営セーフティ共済
実際に節税効果があったり、退職金の代わりになったりという噂?がありますが、その実態はどうなっているのでしょうか?
今回は、この二つの共済制度を比較して、そのメリットとデメリットを浮き彫りにしたいと思います。
小規模企業共済と経営セーフティ共済の概要
早速、この2つの共済制度を比較しながら、それぞれの制度の概要について解説したいと思います。
尚、経営セーフティ共済は、正式には「中小企業倒産防止共済」と言いますが、今回は「経営セーフティ共済」で統一します。
制度の趣旨
最初に、それぞれの制度の趣旨を確認します。
この2つの制度は、似ているようでその趣旨は異なるものになります。
【制度の趣旨】
小規模企業共済 | 経営セーフティ共済 | |
---|---|---|
制度の趣旨 | 小規模企業の経営者や役員、個人事業主などのための、積み立てによる退職金制度 | 取引先事業者が倒産した際に、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度 |
このように、2つの制度の趣旨は明確に分かれています。
- 小規模企業共済…退職金のための制度
- 経営セーフティ共済…倒産に備えるための制度
それぞれの趣旨を理解したうえで、加入を検討する必要があります。
加入資格等
それぞれの加入者、加入資格については、次のようになっています。
【加入資格等】
小規模企業共済 | 経営セーフティ共済 | |
---|---|---|
加入者 | 個人(役員、又は個人事業主)で加入 | 法人、又は個人事業者で加入 |
加入 資格 |
次表①参照 | 1年以上事業を継続している次表②の法人、又は個人事業者 |
最大の違いは、加入者になります。
- 小規模企業共済 … 個人名義で加入
- 経営セーフティ共済 … 事業者名義で加入
尚、ほとんどの小規模な中小企業と個人事業者は、加入資格があります。
一応、参考までに詳細な加入資格を掲載しておきます。
【表① 小規模企業共済の加入資格】
業種 | 従業員数等 | 法人役員 | 個人 |
---|---|---|---|
建設業、製造業、運輸業、宿泊業、娯楽業、不動産業、農業 | 20人以下 | 〇 | 〇 |
卸売業、小売業、サービス業 | 5人以下 | 〇 | 〇 |
企業組合、協業組合 | 20人以下 | 〇 | - |
農事組合法人 | 20人以下 | 〇 | - |
士業法人 | 5人以下 | 〇 | - |
【表② 経営セーフティ共済の加入資格】
業種 | 資本金等の額 | 従業員数 |
---|---|---|
製造業、建設業、運輸業その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
サービス業 | 5千万円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5千万円以下 | 50人以下 |
ゴム製品製造業(自動車、航空機用タイヤ、チューブ製造業及び工業用ベルト製造業を除く) | 3億円以下 | 900人以下 |
ソフトウェア業、情報処理サービス業 | 3億円以下 | 300人以下 |
旅館業 | 5千万円以下 | 200人以下 |
- 1年以上事業を継続している必要があります。但し、法人成りした個人の場合には、通算の事業継続が1年以上であれば加入できます。
- 上記に加え、企業組合、協業組合、共同生産、共同販売等の共同事業を行っている事業協同組合、事業協同小組合、商工組合も対象になります。
掛金
続いては、2つの制度の掛金について説明します。
掛金を支払った場合の取扱いは、このようになります。
- 小規模企業共済…所得控除の項目に含まれる
- 経営セーフティ共済…経費として計上できる
掛金の税制上の取扱いが異なるので、注意してください。
【掛金の取扱い】
小規模企業共済 | 経営セーフティ共済 | |
---|---|---|
掛金 | 月1,000円〜70,000円 (5,000円単位で選択) |
月5,000円〜200,000円 (5,000円単位で選択) |
掛金限度額 | - | 総額800万円まで |
経費の処理 | 所得から控除※1 (所得税) |
経費として計上※2 (法人税・所得税) |
チェック!(※1)所得から控除
所得税の計算上、所得から控除できる「所得控除」という項目に含まれます。
上記の14項目のうちの4番目(小規模企業共済等掛金控除)に該当します。
尚、1年以内の前納掛金も所得から控除できます。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
所得控除を図解で解説しています。
チェック!(※2)経費として計上
法人の場合には、問題なく経費として計上できますが、個人事業者の場合には、次のようになります。
- 事業所得のみ、必要経費として認められます。
尚、掛金を前納した場合にも、1年以内の掛金であれば経費として計上できます。
詳しくは、こちらの記事をご覧ください。短期前払費用を使った節税について解説しています。
解約金
両制度とも解約した場合には、解約金(共済金)を受け取ることができます。
この解約金の取扱いは、次のようになります。
【解約金の取扱い】
小規模企業共済 | 経営セーフティ共済 | |
---|---|---|
解約金 | 個人の所得となる※ | 法人、又は個人事業の収益となる |
- 小規模企業共済 … 個人の所得税計算上の所得となります。
- 経営セーフティ共済 … 法人、個人事業の利益計算上の収益となります。
個人・法人の違いはあっても、どちらも収入として計上されるため、税金の対象となります。
【※ 小規模企業共済の解約金(共済金)の取扱い】
受取り方法 | 所得税の所得区分 |
---|---|
共済金を一括で受け取る場合 | 退職所得 |
共済金を分割で受け取る場合 | 公的年金等の雑所得 |
共済金を一括・分割併用で受け取る場合 |
|
遺族が共済金を受け取る場合(死亡退職金) | みなし相続財産 (所得税ではなく相続税) |
65歳以上の方が任意解約をする、又は65歳以上の共同経営者が任意退任をする場合 | 退職所得 |
65歳未満の方が任意解約をする、又は65歳未満の共同経営者が任意退任をする場合 | 一時所得 |
12か月以上の掛金の未払いによる解約(機構解約)で解約手当金を受け取る場合 | 一時所得 |
ここまでが、小規模企業共済制度と経営セーフティ共済制度の概要になります。
2つの制度のメリットとデメリット
続いては、この2つの制度のメリットとデメリットについて解説します。
それぞれのメリット・デメリットをまとめると、次のようになります。
【2つの制度のメリット・デメリット】
小規模企業共済 | 経営セーフティ共済 | |
---|---|---|
メ リ ッ ト |
個人所得の節税になる | 取引先の倒産時に借入ができる |
将来の退職金として積み立てられる | 取引先が倒産していなくても借入ができる | |
退職金として受取るため税金が優遇 | 掛金を全額経費として計上できる | |
万が一の際に借入ができる | 解約返戻金の戻り率が優秀である | |
デ メ リ ッ ト |
解約時期によっては解約金が元本割れする | 積み立てられる金額に限度がある |
一時所得として受取った時の税負担が増える | 解約のタイミングによっては、税負担が増加する | |
減額した場合、減額分は運用されない | 借入に関するデメリット | |
あくまでも退職金を想定した制度である | - |
次から、それぞれの制度のメリット・デメリットを個別に解説します。
小規模企業共済のメリットとデメリット
小規模企業共済制度は、小規模な中小企業の経営者や個人事業者のための退職金制度だと説明しました。
特に、個人事業者には退職金がありませんので、事業を止める日まで退職金に相当するお金を貯めていけるというメリットがあります。
それでは、上記の内容も踏まえて、まずは小規模企業共済のメリットから解説します。
小規模企業共済のメリット
小規模企業共済のメリットは、大きく分けると以下の4つになります。
- 個人所得の節税になる
- 将来の退職金として積み立てられる
- 基本的には退職金として受取るため税金が優遇される
- 万が一の際に借入ができる
以上の4つのメリットについて、それぞれ解説していきます。
個人所得の節税になる
やはり最大のメリットは、この「節税」になると思います。
小規模企業共済は、最大で月7万円の掛金を支払うことができます。
月7万円の掛金であれば、1年間で84万円です。
この84万円を、自分の所得から控除することができるのです。
法人の役員であれば、年末調整を思い浮かべてもらえれば良いかと思います。
年末調整で、会社に生命保険などの書類を提出しますが、生命保険の控除額はせいぜい5万円~10万円くらいです。
例え、保険料を100万円払っていたとしても、5万円~10万円程度です。
因みに、配偶者控除の控除額も最大で38万円です。
小規模企業共済の掛金は、これらの控除と同じ種類になるため、比べてもらえれば如何に84万円が大きい金額か判ってもらえると思います。
将来の退職金として積み立てられる
この章の冒頭でも述べましたが、個人事業者は退職金を受け取ることができません。
そのため、保険商品などを利用して退職金相当額を積み立てている人もいるかと思います。
この小規模企業共済は、節税をしながら退職金の積み立てができる点が、他の保険商品よりも優れている部分になります。
前述したとおり、生命保険などの控除額はそれほど多額にはなりません。
そのため、同じ退職金を積み立てる商品としては、小規模企業共済の方が優れていると言えます。
また、法人でも退職金規定がない会社もあります。
小規模な中小企業であれば、役員であっても退職金を会社からは支給できないこともあるかもしれません。
そのような場合にも、この小規模企業共済は有用になります。
退職金は税制上優遇されている
小規模企業共済の解約金(共済金)は、基本的には退職金か公的年金として受取ることになります。
どちらの場合であっても、税制上は優遇されていますので、税金の負担はそれほど重くなりません。
尚、この点については、後述するデメリットにて詳しく解説します。
尚、退職金の税金についてまとめた記事はこちらです。
万が一の時に借入できる
小規模企業共済には、貸付制度があります。(小規模企業共済を利用する側からは、借入制度)
しかし、小規模企業共済は、基本的に借入をすることが目的ではないため、万が一の時に利用する制度だと思って下さい。
ただ、こういった貸付制度があることは、経営者や個人事業者にとって安心材料になると言えます。
尚、小規模企業共済には、一般貸付制度の他6種類の貸付制度があります。
小規模企業共済のメリットについては、以上です。
小規模企業共済のデメリット
次は、小規模企業共済のデメリットについて解説します。
- 解約時期によっては、解約金が元本割れする
- 一時所得として受取った時の税負担が増える
- 減額した場合、減額分は運用されない
- あくまでも退職金を想定した制度である
デメリットも4つあるので、それぞれについて解説していきます。
解約時期にっては、解約金が元本割れする
小規模企業共済から、お金を受け取る方法としては、下記の方法があります。
- 退職や廃業をする
- 途中で解約する
退職や廃業をして貰うのが「共済金」であり、途中で解約して貰うのが「解約金」と思ってもらえれば良いかと思います。
共済金を貰う場合には問題が無いのですが、途中で解約して解約金を貰う場合には、解約時期によって解約金の金額が変わってしまいます。
解約時期(掛金納付月数) | 解約金 |
---|---|
12ヶ月未満 | なし |
1年~20年未満 | 掛金の80%~100%相当額 |
20年以上 | 掛金の120%相当額 |
- あくまでも自分の意志で、途中解約した場合の解約金です。
解約金を満額以上貰おうと思えば、20年以上は掛金を払い続ける必要があります。
一時所得として受取った時の税金
上記の中途解約した場合の解約金とも関連しますが、解約金を一時所得として受取る場合には、税金の負担が増えてしまうので注意が必要です。
前の章でも掲載しましたが、再度下の表をご覧ください。
【小規模企業共済の解約金(共済金)の取扱い】
受取り方法 | 所得税の所得区分 |
---|---|
共済金を一括で受け取る場合 | 退職所得 |
共済金を分割で受け取る場合 | 公的年金等の雑所得 |
共済金を一括・分割併用で受け取る場合 |
|
遺族が共済金を受け取る場合(死亡退職金) | みなし相続財産 (所得税ではなく相続税) |
65歳以上の方が任意解約をする、又は65歳以上の共同経営者が任意退任をする場合 | 退職所得 |
65歳未満の方が任意解約をする、又は65歳未満の共同経営者が任意退任をする場合 | 一時所得 |
12か月以上の掛金の未払いによる解約(機構解約)で解約手当金を受け取る場合 | 一時所得 |
小規模企業共済の解約金が「一時所得」になるのは、次の2つのパターンです。
- 65歳未満の方が任意解約をする、又は65歳未満の共同経営者が任意退任をする場合
- 12か月以上の掛金の未払いによる解約(機構解約)で解約手当金を受け取る場合
この場合には、退職所得ではなく一時所得になります。
メリットのところで、退職所得は税制上優遇されているので、税金の負担はそれほど重くないと述べました。
しかし、この一時所得として解約金を受け取ってしまうと、かなり税負担が重くなってしまいます。
この点について、具体的な例を挙げて説明します。
例1)退職金として受取る場合
- 年齢…65歳
- 解約金…1,000万円
- 払込期間…20年
- 任意解約
【税金の金額】
(1,000万円-20年×40万円)÷2=100万円×5.105%=51,000円
例)一時所得として受取る場合
- 年齢…60歳
- 掛金総額…1,000万円
- 解約金…950万円
- 自分の意志で任意解約
【税金の金額】
(950万円-50万円)÷2=450万円
(450万円×20%-427,500円)×1.021=482,000円
このように、退職所得と一時所得では、税金の金額が大きく変わってしまいます。
通常、一時所得の税金は、下記の方法により計算します。
しかし、小規模企業共済の一時所得に関しては、上記黄色アンダーマーカーの「収入を得るために支出した金額」が、ゼロになります。
つまり、上の例2)で言うと、掛金総額の1,000万円は計算に組み込むことができないのです。
そのため、一時所得として解約金を受け取る場合には、税金の負担がかなり増えてしまう可能性があることにご注意ください。
因みに、退職金として受取った場合には、税金がかなり低く抑えられることもお判りいただけると思います。
尚、所得税の一時所得の計算方法については、下記の記事でまとめています。
【確定申告】一時所得と雑所得の違い【所得の範囲と税金の計算方法】
競馬に係る一時所得と税金の計算方法【払戻金と馬券購入の関係】
カジノの税金と一時所得の計算方法【ネットの情報は間違いだらけ!?】
減額した場合、減額分は運用されない
小規模企業共済は、その掛金を減額することができます。
ちょっと掛金の負担が大きいな、という場合には掛金の支払いを減額すれば良いのです。
しかし、掛金を減額すると共済金の受取金額に大きな影響を及ぼします。
小規模企業共済に支払った掛金は、中小機構という組織が運用しています。
掛金を減額すると、減額した部分については、その後運用せずに放置されることになります。
たとえば、3万円ずつ毎月掛けていたものを1万円に減額した場合、減額した2万円についてはその運用自体をしてもらえないのです。
更に、減額した掛金の部分は、減額後の期間が納付期間としてカウントされません。
その結果、解約手当金をもらうときに掛金の納付期間が足りず、元本割れしてしまう可能性があります。
従って、後で減額しなくて済むように、最初から無理のない掛金を設定する必要があります。
あくまでも退職金を受け取ることを想定した制度である
小規模企業共済は、退職金の積み立てを目的とした制度です。
ですから、退職金以外の目的、例えば事業保障などを目当てとした役割は期待しない方が良いでしょう。
あくまでも、経営者個人の引退後の生活資金等を積み立てることを目的とした制度であり、事業保障などの他の役割には向いていません。
それらを期待するのであれば、他の保険商品を活用する方が良いと言えます。
以上で、小規模企業共済のメリット・デメリットについての解説を終わります。
経営セーフティ共済のメリットとデメリット
経営セーフティ共済は、取引先事業者が倒産した際に、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度であると説明しました。
法人、又は個人事業者名義で加入することができるため、小規模企業共済とは異なった制度になります。
小規模な中小企業や個人事業者においては、倒産や経営難は決して他人事ではありません。
そこで、賢く経営セーフティ共済を活用してもらうために、そのメリットとデメリットを解説したいと思います。
経営セーフティ共済のメリット
経営セーフティ共済のメリットは、次の4点になります。
- 取引先の倒産時に借入ができる
- 取引先が倒産していなくても借入ができる
- 掛金を全額経費として計上できる
- 解約返戻金の戻り率が優秀である
では、それぞれのメリットについて解説します。
取引先の倒産時に借入ができる
経営セーフティ共済に加入すると、取引先が倒産したことにより売掛金の回収が困難となった場合に、共済金の借入れを受けることができます。
取引先が倒産してしまうと、資金が回収できなくなり、場合よっては自社の資金繰りも悪化して、連鎖倒産という事態になりかねません。
そのような事態を防ぐために、経営セーフティ共済の貸付制度が利用できます。
借入額等は、次のようになります。
- 借入額は、被害額と掛金総額の10倍に相当する額のいずれか少ない額
- 借入額は、原則50万円から8,000万円で、5万円単位の額
借入額の例を挙げると、このようになります。
例)
- 納付済掛金 200万円
- 回収不能の売掛金 3,000万円
【借入額】
3,000万円 > 2,000万円(200万円×10) ∴2,000万円
尚、借入金の返済期間は、次のとおりです。
借入額 | 返済期間 |
---|---|
5,000万円未満 | 5年 |
5,000万円以上、6,500万円未満 | 6年 |
6,500万円以上、8,000万円以下 | 7年 |
- 返済期間は、6ヶ月の据置期間を含んだ期間となります。
取引先が倒産していなくても借入ができる
経営セーフティ共済は、取引先が倒産していなくても臨時に事業資金を必要とする場合であれば、解約金の95%を上限として、一時的な借入をすることが可能になっています。
この一時貸付制度の内容は、以下のとおりです。
【借入限度額】
掛金納付月数 | 借入限度額 |
---|---|
1ヶ月~11ヶ月 | 0円 |
12ヶ月~23ヶ月 | 掛金総額 × 75% × 95% |
24ヶ月~29ヶ月 | 掛金総額 × 80% × 95% |
30ヶ月~35ヶ月 | 掛金総額 × 85% × 95% |
36ヶ月~39ヶ月 | 掛金総額 × 90% × 95% |
40ヶ月以上 | 掛金総額 × 95% × 95% |
掛金総額が800万円の場合 | 800万円 × 100% × 95%(760万円) |
【その他】
- 借入額…30万円以上
- 借入金の使途…事業資金(運転・設備)
- 返済期間…1年
- 返済方法…期限一括償還
- 利率…年0.9%
尚、こちらの記事で、金融機関が融資審査において重視するポイントをまとめています。
融資審査における粉飾決算の見抜き方【銀行が貸借対照表を見るポイント】
掛金を全額経費として計上できる
経営セーフティ共済には税制上の配慮がされていて、掛金は全額が経費として計上することができます。
また、掛金を前納した場合にも、1年以内の掛金であれば経費として計上できます。
経営セーフティ共済の掛金を支払うには、実際のお金が必要ですので、この方法はキャッシュの流出を伴った節税方法になります。
ですから、本当の意味での節税とは言えませんが、掛金を支払うことによって税金が少なくなることは事実です。
解約返戻金の戻り率が優秀である
小規模企業共済の場合には、なかなかシビアな解約金の規定がありました、
この経営セーフティ共済も途中で解約した場合に、解約金を受け取ることができます。
しかし、こちらの方はそれほどシビアではなく、自己都合の解約であっても、掛金を12ヶ月以上納めていれば掛金総額の8割以上が戻ってきます。
更に、40ヶ月以上納めていれば掛金の全額が戻ってくることになります。
つまり、掛金の全額が戻ってくるのであれば、節税分を貯金しているのと同じことと言えます。
【解約金について】
掛金納付月数 | 任意解約 | みなし解約 | 機構解約 |
---|---|---|---|
1ヶ月~11ヶ月 | 0% | 0% | 0% |
12ヶ月~23ヶ月 | 80% | 85% | 75% |
24ヶ月~29ヶ月 | 85% | 90% | 80% |
30ヶ月~35ヶ月 | 90% | 95% | 85% |
36ヶ月~39ヶ月 | 95% | 100% | 90% |
40ヶ月以上 | 100% | 100% | 95% |
- 任意解約
- 共済契約者が任意でいつでもできる解約
- みなし解約
- 個人事業主の死亡や法人の解散・分割の際に、解約されたものとみなす解約
- 機構解約
- 12ヶ月分以上の掛金の滞納や共済金の貸付けなどに不正行為があった場合に中小機構が行う解約
上の表を見てもらえば判るとおり、40ヶ月経過後であれば、いつ解約しても良いことになります。
以上が、経営セーフティ共済のメリットになります。
経営セーフティ共済のデメリット
経営セーフティ共済のデメリットは、次に掲げるものになります。
- 積み立てられる金額に限度がある
- 解約のタイミングによっては、税負担が増加する
- 借入に関するデメリット
それでは、最後にこの3つのデメリットについて解説します。
積み立てられる金額に限度がある
経営セーフティ共済には、掛金として積み立てられる金額に限度があります。
- 月額20万円(年額240万円)まで
- 総額800万円まで
そのため、経費として計上できる金額に限りがあり、月額20万円を掛け金としている場合には、4年目までしか節税効果を受けられないことになります。
しかし、掛金の範囲(5千円~20万円)が広いため、無理のない資金計画で始めるのが良いでしょう。
また、掛金の増額・減額も可能です。
解約のタイミングによっては、税負担が増加する
前述したとおり、経営セーフティ共済は解約金の戻り率が優秀なため、40ヶ月掛金を払い込めば、いつでも掛金の100%が返戻されることになります。
しかし、戻ってきた解約金は法人(又は、個人事業者)の収益として計上しなければなりません。
収益に計上するということは、その分利益が増えることになるので、税金も増えることになります。
今まで掛金を経費として計上して節税してきた分が、一気に課税されてしまう恐れがあります。
それを回避するためにも、次のことに留意して解約するようにしてください。
- 赤字が多く出ている(出そうな)期に解約する
- 繰越欠損金が溜まった状態で解約する
- 戻ってきた解約金を退職金として支給する
このいずれかに該当する際に解約すると、解約金が戻ってきても税金が掛からず、今までの節税も無駄にせずに済みます。
尚、1番と2番の方法については、下記の記事でまとめているので、参考にしてください。
役員報酬と役員借入金を使った繰越欠損金の有効利用【赤字を黒字に変える方法】
借入に関するデメリット
取引先が倒産してしまい売掛金が回収できなくなった場合には、経営セーフティ共済から借入ができることはメリットの章で述べました。
さらに、この借入は無利息になります。
そのため、一見すると、かなりお得な借入に思えますが、実はそうとも言えません。
経営セーフティ共済を主催している「独立行政法人 中小企業基盤整備機構」のサイトに、このような記載があります。
(4)利率
共済金の借入れは無利子です。ただし、借入れ後は、共済金の借入額の10分の1に相当する額が払い込んだ掛金から控除されます。
(出典 中小機構HP 共済金について)
1,000万円借りた場合には100万円分の掛金が、8,000万円借りた場合には800万円の掛金が消えてしまうことになります。
ですから、実質的には利息を払って借入れをしているのと同じことなのです。
仮に取引先が倒産したからといって、すぐに経営セーフティ共済を利用するのではなく、様々な手を尽くた後で、最後に借入をするくらいの気持ちで良いかと思います。
【こちらは住宅手当と社宅家賃の節税効果を比較した記事】
住宅手当と社宅の家賃補助の節税効果を数字で比較【どのくらいお得になるのか計算してみたら・・・!?】
以上で、小規模企業共済と経営セーフティ共済についての解説を終わります。