こんにちは。税理士の髙荷です。
今回は、所得税の減免制度について解説します。
地方税(個人住民税)に関する減免制度については、知っている人も多いかもしれませんが、所得税においても一定の要件に該当すれば、税金が減免されます。
普段あまり活用することのない制度ですが、減免制度の内容を理解しておくと、もしもの時に役に立つと思います。
この所得税の軽減免除制度の内容について、適用要件や控除額の計算、確定申告書の手続方法などを解説します。
災害減免法による所得税の軽減免除の概要
災害減免法による所得税の軽減免除制度について、その適用要件と減額又は免除される所得税の金額について解説します。
災害減免法による所得税の軽減免除制度の適用要件
災害減免法による所得税の軽減免除制度は、次の要件に該当する場合に限り適用することができます。
【災害減免法による所得税の軽減免除制度の適用要件】
- 災害によって受けた住宅や家財の損害金額が、その時価の2分の1以上であること
- 災害にあった年の所得金額の合計額が1,000万円以下であること
- 災害による損失額について、雑損控除を受けていないこと
この3つの要件を満たす場合に限り、所得税の軽減免除制度が適用できます。
それでは、それぞれの適用要件について、1番から順番に解説します。
災害によって受けた住宅や家財の損害金額が、その時価の2分の1以上である
所得税の減免制度を受けるための1つ目の要件は、損害金額が時価の1/2以上であることです。
この要件に出てくる時価とは、次の金額のことを言います。
【時価とは】
時価とは、災害によって損害を受けた家や家財を、今買うとした場合の価格を言います。
従って、損害を受けた家や家財の損害金額が、今買うとした場合の価格の1/2以上であることが要件の1つになります。
また、この制度の対象となる住宅とは常時起居する住宅をいい、家財とは日常生活に通常必要な家具、じゅう器、衣服、書籍その他の家庭用動産をいいます。
但し、別荘や書画、骨とう、娯楽品等で生活に必要な程度を超えるものは含まれません。
災害にあった年の所得金額の合計額が1,000万円以下である
災害減免法による所得税の軽減免除制度の適用要件の2つ目として、その年の所得金額の合計額が1,000万円以下であることが挙げられています。
所得金額の合計額とは、次の金額を言います。
【所得金額の合計額】
所得金額の合計額とは、総所得金額(純損失、雑損失、居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失及び特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除後)、分離課税の土地等に係る事業所得及び雑所得の金額、特別控除後の分離課税の長(短)期譲渡所得の金額、申告分離課税の上場株式等に係る配当所得の金額、上場株式等に係る譲渡損失及び特定中小会社が発行した株式に係る譲渡損失の繰越控除後の申告分離課税の株式等に係る譲渡所得等の金額、先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除後の申告分離課税の先物取引に係る雑所得等の金額、山林所得金額及び退職所得金額の合計額をいいます。
(出典 国税庁 災害減免法による所得税の軽減免除)
非常に難しく書いてありますが、上記の内容の全てに該当することは、まずありません。
従って、一般的には次の金額が「所得金額の合計額」になると思って下さい。
所得金額の合計額とは、次の①~⑭の所得のうち、自分が該当する所得の合計金額です。
①利子所得、②配当所得、③不動産所得、④事業所得、⑤給与所得、⑥譲渡所得、⑦一時所得、⑧雑所得、⑨山林所得、⑩退職所得、⑪土地建物等の譲渡所得、⑫上場株式等に係る配当所得、⑬上場(一般)株式等に係る譲渡所得、⑭先物取引に係る雑所得(⑨~⑭は申告分離課税の対象)
- 各種繰越控除がある場合には、その繰越控除後の所得金額になります。
サラリーマン等の給与所得者であれば、通常は⑤のみが所得金額の合計額になります。
個人で事業を行っている人であれば④番、不動産の賃貸収入がある人は③番になり、株式等の取引をしている人は⑫番や⑬番も該当します。
この「所得金額の合計額」が1,000万円以下であることが、災害減免法による所得税の軽減免除制度の2つ目の適用要件になっています。
災害による損失額について、雑損控除を受けていないこと
災害減免法による所得税の軽減免除制度の適用要件の最後は、雑損控除の適用を受けていないことです。
雑損控除とは、確定申告における所得控除の1つであり、今回の軽減免除制度と同じく災害等による損害を受けた場合に適用できる、もう一つの税制になります。
雑損控除については、こちらの記事で詳しくまとめています。
【確定申告】雑損控除の仕組みと確定申告書の書き方及び控除額の計算方法
この「雑損控除の制度」と、今回の「災害減免法による所得税の軽減免除制度」は選択適用になっています。
従って、両方の制度の要件を満たしている場合には、どちらか有利な方(税金が少なくなる方)を採用することができます。
但し、次の注意点があります。
- 雑損控除は、災害の他、盗難や横領による損害についても適用できるが、今回の災害減免法による所得税の軽減免除制度は、災害のみの損害に限られる
- 雑損控除は、所得税の計算における所得控除の規定であるが、今回の災害減免法による所得税の軽減免除制度は、所得税を直接減額(免除)してくれる
- 雑損控除は、控除しきれない金額がある場合には翌年以降3年間繰越控除ができるが、今回の災害減免法による所得税の軽減免除制度は、1年間のみの減免制度である
- 雑損控除は、所得税だけでなく住民税においても適用されるが、今回の災害減免法による所得税の軽減免除制度は、所得税のみの規定である。
雑損控除制度と災害減免法による所得税の軽減免除制度は選択適用(有利選択)できるため、これらの注意点も加味して、選択する制度を検討する必要があります。
尚、地方税(住民税)については、地方税独自の軽減免除制度が存在します。
災害による被害を受けた場合に、所得税において軽減免除制度の適用を受けた際には、地方税についても別途減免制度を受けられる場合があります。
地方税(住民税)の減免制度については、こちらの記事で解説しています。
個人住民税の減額・免除を受けるための要件と手続【申請方法と必要書類】
災害減免法による所得税の軽減免除制度の減免額
続いては、この制度を適用した場合に受けられる、税金の軽減額及び免除額について解説します。
災害減免法による所得税の軽減免除制度の減免額は、次のように規定されています。
【災害減免法により軽減又は免除される所得税の金額 】
所得金額の合計額 | 軽減又は免除される所得税の額 |
---|---|
500万円以下 | 所得税の額の全額 |
500万円を超え750万円以下 | 所得税の額の2分の1 |
750万円を超え1000万円以下 | 所得税の額の4分の1 |
このように、災害減免法による所得税の軽減免除制度は、所得税の額を直接減額又は免除してくれる制度なので、災害にあった場合の税金負担がかなり軽減されることになります。
災害減免法による所得税の軽減免除の手続等
最後に、災害減免法による所得税の軽減免除の適用を受けるために必要な手続について解説します。
災害減免法による所得税の軽減免除の適用を受けるためには、確定申告書等に適用を受ける旨、被害の状況及び損害金額を記載して、納税地の所轄税務署に確定申告書等を提出することが必要になります。
尚、確定申告書に記載する損害金額は、保険金や損害賠償金などによって補てんされる金額を控除した金額を記載する必要があります。
また、確定申告書とともに提出する添付書類として、次のような書類が挙げられます。
- 被害を受けた資産、取得時期、取得価額の分かる書類
- 被害を受けた資産の取壊し費用、除去費用などの分かる書類
- 被害を受けたことにより受け取る保険金等の金額が分かる書類
- 市町村から交付された、り災証明書 など
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