こんにちは。税理士の高荷です。
そろそろ道行く人々や通勤電車などで、咳き込む人が目立ち始める季節になります。
軽い風邪の症状であれば、病院には行かずに市販薬を使って治療する人も多いと思います。
そこで今回は、昨年から導入された医療費控除の特例である、セルフメディケーション税制について解説します。
昨年からの新しい取り組みなので、まだまだ制度の存在自体を知らない人もいると思います。
この記事を読んで、是非来年の確定申告に役立てて下さい。
「医療費控除とセルフメディケーション税制のどちらを選択すべきか」の選択方法についても、最後に解説しています。
セルフメディケーション税制とは
セルフメディケーション税制とは、次の制度を言います。
【セルフメディケーション税制とは】
健康の保持増進及び疾病の予防への取組として一定の取組を行っている方が、平成29年1月1日以後に、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族のために特定一般用医薬品等購入費を支払った場合には、一定の金額の所得控除(医療費控除の特例)を受けることができます。
特定一般用医薬品等購入費とは、医師によって処方される医薬品(医療用医薬品)から、ドラッグストアで購入できるOTC医薬品に転用された医薬品(スイッチOTC医薬品)の購入費をいいます。
(出典 国税庁 タックスアンサー)
セルフメディケーション税制は、1年間に家庭で購入した市販薬の購入費が12,000円を超えた場合に、確定申告を行うことによって医療費控除と同様の優遇措置が受けられる制度になります。
税制の仕組みとしては、医療費控除と同じなので、医療費控除の特例として位置づけられます。
医療費控除よりも、対象となる金額が少額であるため手軽に利用できるというメリットがあります。
尚、セルフメディケーション税制は、医療費控除と併せて適用することはできません。
どちらか1つの選択適用になります。
セルフメディケーション税制の対象となる市販薬
上でも少し触れましたが、セルフメディケーション税制の対象となる市販薬は、下記のものに限られます。
【セルフメディケーション税制の対象となる市販薬】
スイッチOTC医薬品
スイッチOTC医薬品とは
調剤薬局や薬店・ドラッグストアなどで、処方せんなしに買うことができる薬で、薬剤師や登録販売者からの適切な情報提供を受け、本人の自己責任・自己判断において購入する薬のことをOTC医薬品と言います。
スイッチOTC医薬品は、本来医師によって処方される医薬品(医療用医薬品)を、OTC医薬品に転用(スイッチ)した医薬品を言います。
このスイッチOTC医薬品が、セルフメディケーション税制の対象となります。
現在、約1,700種のスイッチOTC医薬品があります。
厚生労働省のHPから対象となる品目が確認できますが、いちいち確認するのも面倒です。
そのため、スイッチOTC医薬品には、そのパッケージに下のようなマークが付いています。
【セルフメディケーション税制の対象となるスイッチOTC医薬品のマーク】
- このマークが付いている医薬品は、スイッチOTC医薬品に該当します。
但し、このマークを付けることが義務化されているわけではないため、マークが付いていないスイッチOTC医薬品もあります。
マークが付いていない薬がスイッチOTC医薬品に該当するかどうかは、厚生労働省のHPで確認するか、店頭で販売者に確認してください。
厚生労働省のHP
セルフメディケーション税制の適用要件
セルフメディケーション税制の適用を受けるためには、下記の要件を満たす必要があります。
【セルフメディケーション税制の適用要件】
その年に、下記のいずれかを実施していること
- 保険者(健康保険組合、市区町村国保等)が実施する健康診査(人間ドック、各種検診・健診等)
- 市区町村が健康増進事業として行う健康診査(生活保護受給者等を対象とする健康診査)
- 予防接種(定期接種、インフルエンザワクチンの予防接種)
- 勤務先で実施する定期健康診断(事業主検診)
- 特定健康診査(いわゆるメタボ検診)、特定保健指導
- 市町村が健康増進事業として実施するがん検診
尚、上記の要件は、確定申告をする本人が実施する必要があります。
配偶者や家族が健康診断等を受けていても、確定申告をする本人が受けていなければ、セルフメディケーション税制は適用できません。
セルフメディケーション税制の控除額
セルフメディケーション税制で控除できる金額は、下記の算式により計算した金額となります。
【セルフメディケーション税制の控除額の計算方法】
スイッチOTC医薬品の購入額 − 12,000円 = 控除額(最大88,000円)
このような計算になるため、スイッチOTC医薬品の購入額が12,000円を超えていないと、控除額がゼロになってしまい適用することができません。
また、本家の医療費控除に比べると、控除額は少なくなるのが一般的です。
セルフメディケーション税制の手続
セルフメディケーション税制の適用を受けるためには、確定申告をする必要があります。
確定申告をする際に、下記の書類を添付、又は提示する必要があります。
【添付、又は提示が必要な書類】
- 健康診断の実施など、適用要件を満たしていることを証明する書類
但し、次の事項が記載されている必要があります
- 健康診断等を行った人の氏名
- 健康診断等を行った年
- 健康診断等を実施した次のいずれかの機関等の名称
- 保険者、事業者の名称
- 市区町村の名称
- 診察を行った医療機関の名称
- 医師の氏名
【セルフメディケーション税制の明細書】
セルフメディケーション税制の明細書は、下記の書類になります。
この書類は、国税庁のHPから入手できます。
以上で、セルフメディケーション税制についての解説を終わります。
尚、セルフメディケーション税制と医療費控除の選択方法については、最後にまとめてあります。
医療費控除制度の概要と誤解されやすい注意点
セルフメディケーション税制に関連して、医療費控除制度についても解説したいと思います。
医療費控除は以前から存在する制度なので、その知名度も高いと思いますが、実は多くの人が勘違いしている内容もあります。
インターネット上にも医療費控除に関する情報は溢れていますが、実際に読んでみると読者に誤解を与えるような表現をしているサイトが多いです。
この章では、医療費控除の概要と、勘違いしやすい医療費控除の注意点について解説します。
医療費控除の概要
医療費控除制度の内容は、下記に掲げるとおりです。
【医療費控除とは】
その年の1月1日から12月31日までの間に、自己又は自己と生計を一にする配偶者やその他の親族のために医療費を支払った場合において、その支払った医療費が一定額を超えるときは、その医療費の額を基に計算される金額の所得控除を受けることができます。
これを医療費控除といいます。
(出典 国税庁 タックスアンサー)
一定の医療費の金額がある場合には、確定申告において所得税の計算上、一定の金額を控除してくれる制度になります。
結果として、所得税が少なくなるのでお得な制度と言えます。
医療費控除の控除額の計算
この医療費控除の控除額は、次の方法により計算します。
【総所得金額等が200万円未満の場合】
1年間に支払った医療費 − ① − 総所得金額等の5% = 医療費控除額
- ① = 保険金等で補填される金額(無ければゼロ)
このように、各人の総所得金額により、控除額の計算が変わります。
また、控除できる最大金額は200万円までとなります。
一般的に、医療費の支払い金額が10万円以上でないと医療費控除は受けられないと思われているようですが、実際には10万円未満でも受けられる場合があります。
医療費控除の手続
医療費控除を受けるためには、確定申告書に次の書類を添付します。
平成29年分以後の確定申告
平成29年分以後の確定申告については、下記の書類を確定申告書に添付します。
【医療保険者からの医療費通知(医療費のお知らせ)が無い場合】
- 支払った医療費の領収書から作成した医療費控除の明細書
【医療保険者から交付を受けた医療費通知に記載がない医療費がある場合】
- 医療費通知書に記載があるもの…医療費通知
- 医療費通知書に記載がないもの…医療費控除の明細書
尚、平成29年分の確定申告から、医療費の領収書の提出は不要になりました。
【医療費通知とは】
医療費通知とは、医療保険者が発行する医療費の額等を通知する書類で、次の全ての事項の記載があるものを言います。
- 被保険者等の氏名
- 療養を受けた年月
- 療養を受けた者
- 療養を受けた病院、診療所、薬局等の名称
- 被保険者等が支払った医療費の額
- 保険者等の名称
- 後期高齢者医療広域連合から発行された書類の場合は、3.を除く
具体的には、全国健康保険協会(協会けんぽ)から送付される「医療費のお知らせ」などが該当します。
尚、インターネットを使用して医療保険者から通知を受けた医療費通知情報で、その医療保険者の電子署名及びその電子署名に係る電子証明書が付されたものも含みます。
【医療費控除の明細書】
医療費控除の明細書は、下記の書類になります。
この書類は、国税庁のHPから入手できます。
平成28年分以前の確定申告
平成28年分以前の確定申告については、次のいずれかの方法になります。
- 医療費の領収書を確定申告書に添付
- 医療費の領収書を確定申告書を提出する際に提示
尚、サラリーマンが医療費控除を適用して確定申告をする場合の、確定申告書及び医療費控除の明細書(セルフメディケーション税制の明細書)の書き方について、下の記事で詳しく解説しています。
参考にしてください。
【確定申告】医療費控除の確定申告書の書き方と記入例【第一表】
医療費控除の確定申告書の書き方【第二表・医療費控除の明細書】
医療費控除の誤解されやすい注意点
この章の最後として、医療費控除の誤りやすい事例を列挙したいと思います。
年末調整で医療費控除はできません
医療費控除を適用するためには、必ず確定申告をする必要があります。
また、医療費控除はスマホでも確定申告ができます。
スマホによる確定申告【スマホによるe-Tax利用の事前準備と注意事項】
医療費控除を適用しても、還付されるのは医療費ではありません
医療費控除を適用して確定申告をしても、還付されるのは「所得税」です。
詳しくは、こちらの記事にまとめてあります。
確定申告における税金の還付の仕組み【医療費控除と源泉所得税】
医療費控除は、所得控除の制度です
医療費控除は、所得税の計算上の「所得控除」という制度になります。
この所得控除制度は、所得税の金額から直接医療費控除の金額を引くわけではありません。
この内容については、こちらの記事で分かりやすくまとめてあります。
所得税の計算の仕方についても解説しているので、是非参考にしてください。
【確定申告】住宅ローン控除の仕組みと控除額の計算方法【適用要件、手続方法、必要書類など】
医療費の金額には、交通費を含めることができます
通院のための電車代やバス代も、医療費控除の対象になります。
電車やバスなどの公共交通機関には領収書がありません。
そのため、その都度メモしておくか、後日ネット等で交通費を調べて集計してください。
また、子どもの通院など付き添いが必要な場合には、付き添いの交通費も対象になります。
さらに、タクシー代については、緊急を要する場合や、通院のための介助タクシー代は医療費控除の対象になります。
前述した、医療費控除の明細書に「通院交通費」などとして、金額を記載してください。
尚、マイカーで通院した場合のガソリン代や駐車場代については、医療費控除の対象にはなりません。
本人だけでなく、家族の分も対象になります
確定申告をする本人の医療費だけでなく、配偶者や子供等の家族の医療費も含めることができます。
保険の対象であるかどうかは関係ありません
医療費控除の対象になるか否かの判断基準は、治療であるかどうかです。
保険の適用・不適用は関係ありません。
そのため、子供の歯列矯正や、治療のために行う大人の歯の強制なども対象になります。
以下、誤解されやすい医療費控除の対象になる治療をまとめてみました。
【医療費控除の対象になる治療などの一覧】
- 歯のインプラント治療
- 視力回復のレーシック手術
- 治療のための鍼灸・指圧・整体
- 出産費用(定期検診や検査などの費用含む)
- 不妊治療(検査代、薬代、マッサージ代など含む)
- 治療のための市販薬の購入
尚、医療費控除の対象となる医療費の範囲については、下記の記事で詳しく解説しています。
基本的に、治療目的の医療費は全て含まれます。
逆に言うと、上記に掲げるものでも、健康・美容目的や予防目的で行われるものは、対象になりません。
その年に支払った医療費のみが対象になります
医療費控除は、その年の1月1日から12月31日までの間に支払った医療費が対象になります。
その年中に治療を受けたか否か、で判断するのではありません。
特にクレジットカードで支払いをする場合には、注意が必要です。
クレジットカードの場合は、「窓口でクレジットカードを利用して治療費を支払った日」が支払いの日になります。
クレジットカード代金の引落日ではありません。
5年間遡って確定申告をすることができる
医療費控除による確定申告を忘れた場合には、5年前までであれば遡って確定申告をすることできます。
但し、確定申告そのものをしていなかった場合に限ります。
確定申告をしてしまった後であれば、更正の請求という手続きをとることになります。
詳しくは、こちらの記事でまとめています。
住宅ローン控除の記事ですが、医療費控除に置き換えて読んでください。
住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)の確定申告を忘れた場合の対処法
確定申告はしたけれども住宅ローン控除の適用を忘れてしまった場合の対処法
以上で、医療費控除の概要と注意点についての解説を終わります。
続いて、セルフメディケーション税制と医療費控除の選択方法を解説します。
セルフメディケーション税制と医療費控除の選択方法
ここまでセルフメディケーション税制と医療費控除の内容等を解説してきましたが、解説の最後として、セルフメディケーション税制と医療費控除の選択方法についてお話しします。
セルフメディケーション税制と医療費控除は、どちらか一方の選択適用です。
そのため、スイッチOTC医薬品の購入と医療費の支払いの両方がある場合には、どちらを選択した方が有利になるのか迷う場合があると思います。
その場合には、下記の手順により選択してください。
【セルフメディケーション税制と医療費控除の選択手順】
順番 | 内容 | 備考・判定 |
---|---|---|
① | 年間の医療費の合計額を集計 | 治療代や薬代、スイッチOTC医薬品の購入など全て合算 |
② | ①の年間の医療費 - 88,000円 | - |
③ | スイッチOTC医薬品代の合計額を集計 | - |
④ | ② と ③ を比較 | - |
⑤ | ② > ③ の場合 | 医療費控除を選択 |
② < ③ の場合 | セルフメディケーション税制を選択 | |
② = ③ の場合 | どちらでも好きな方を選択 |
- 総所得金額等が200万円以上の人を対象にしています。
セルフメディケーション税制と医療費控除の選択についての最大のポイントは、次の点です。
スイッチOTC医薬品が、セルフメディケーション税制と医療費控除の両方の対象になるため、上記のような判断で選択することになります。
尚、セルフメディケーション税制を適用するためには、健康診断や予防接種の実施といった要件が必要になります。
この健康診断や予防接種に掛かった費用は、医療控除の対象にはならないことに留意してください。(「治療」のための費用ではないため)
最後に、参考として年間医療費の合計額による判断基準を掲載します。
年間の医療費の合計額 | 判定 |
---|---|
100,000円以下 | セルフメディケーション税制が有利 |
100,000円超、188,000円以下 | 上の選択手順で選択 |
188,000円超 | 医療費控除が有利 |
- 年間医療費の合計額は、治療代や薬代、スイッチOTC医薬品の購入など全て合算した金額