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社内の横領が発覚した場合の過少申告加算税と重加算税の取扱い

可愛いオス猫の図法人税

こんにちは。税理士の高荷です。

テレビや新聞などでも『横領』に関するニュースが報道されます。

ニュースとして取り上げられるのは、大抵大企業の役員や従業員が横領事件を起こした場合です。

 

しかし、横領は大企業だけに起こりえる事ではありません。中小企業でも充分あり得る問題です。

実際、私も過去2件ほど横領の相談を受けたことがあります。

そこで今回は、横領が起こった場合の罰金(附帯税)等を中心に解説したいと思います。

 

尚、罰金(附帯税)の仕組みと計算方法中心の解説のため、横領があった場合の会計処理については解説していません。

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申告後に社内で発覚した横領が一番厄介

一口に『横領』といっても、そのパターンは何種類かあります。

  1. 横領したのが社内の人間なのか、社外の人間なのか
  2. 発覚した横領が当期のものか前期以前のものか
  3. 現金の横領なのか、売上や経費の横領なのか
  4. 会社が把握している取引(売上等)の横領なのか否か

 

組み合わせによっては色々なパターンになりますが、今回は横領の中でも最も厄介と思われる『申告後(つまり前期以前)に社内で起こった横領が発覚』した場合について解説します。

 

一般的に、横領が発覚するまでには時間が掛かるケースが多く、場合によっては税務調査で横領の事実が発覚することもあります。

横領する側もバレないように注意を払っているので、横領が発覚した頃には既に本人が退職していたなんてこともあるでしょう。

当期中に行われた横領が、当期中に発覚することは稀ですが、当期中に発覚した場合の税務・会計上の処理はそれほど難しくはありません。

法的には外部(警察等)が絡むかもしれませんが、会計・税務上は内部(会社と当事者)の問題になるので、それに沿った会計処理をして申告すれば問題ありません。

 

しかし、過年度(前期以前)の横領が発覚した場合には、そうはいきません。

なぜなら過年度の分は既に申告済であるため、会社内部の問題だけではなく対税務署という外部の問題が出てくるからです。

次では、その「対税務署」の問題を解説します。

 

会社側の責任を問われるケースも多い

今回の解説は、あくまでも「税務署」を対象としてします。

そのため、刑法等の取り扱いについては警察や弁護士にご相談ください。

 

さて、過年度の横領が発覚するケースとして考えられるのは、次のようなケースです。

  • 社内で横領の事実を発見する
  • 取引先等外部からの通報
  • 税務調査での発覚 など

 

通常、横領の内容は「売上の隠蔽」や「経費の架空計上」など、横領が発覚することによって会社の利益を増加させる要因が多くなります。

  • 隠していた売上の横領が発覚⇒その分売上が増加 ⇒ 利益の増加
  • 水増しした経費の横領が発覚⇒その分経費が減少 ⇒ 利益の増加

 

利益が増加するということは、税金が増加するということに繋がります。

つまり、過年度の申告を過少申告(利益・税金を事実よりも少なく申告)していたことになります。

 

この横領に関わる過少申告については、それが意図したものでなくても、税務署から次のように取られる可能性があります。

 

脱税

 

 

横領に対する税務署の判断は、非常にシビアです。

例え横領の事実を「会社側が知らなかった」としても、税務署からは「会社ぐるみでの脱税」ではないかと疑われます。

実際の判断は税務署側が下すので、ここでは何とも言えませんが、会社側が本当に横領の事実を知らなくても、税務署側から「責任の所在は会社側にある」と判断されることも少なくないようです。

 

横領が脱税と判断されたら

上でも少し書きましたが、脱税の方法は2つしかありません。

  1. 売上の隠蔽又は仮装
  2. 経費の架空計上又は仮装

細かく言うともっとありますが、それらは全て最終的に上記のいずれかに繋がります。

 

税務署からの指摘により横領が脱税と判断されてしまうと、本税の追徴に加えて罰金が課されます。

  1. 延滞税
  2. 過少申告加算税
  3. 重加算税
    • 場合によっては不納付加算税が課されることもあります。

 

この内、延滞税については、こちらの記事でまとめているので、参考にしてください。

源泉所得税の納付を忘れた場合の延滞税と不納付加算税の取扱い

 

怖いのは「過少申告加算税」で、さらに怖いのは「重加算税」です。

では、その過少申告加算税と重加算税の内容を、次から解説します。

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過少申告加算税

過少申告加算税は、基本的には下の算式により計算します。

 

【過少申告加算税の計算方法】

過少申告加算税 = 修正申告により増えた税金 × 10%

 

但し、修正申告により増えた税金が、下の1.と2.のうち大きい方の金額を超える部分は15%の税率を使います。

  1. 最初に申告した税金の金額
  2. 50万円

 

「但し書き」の部分の意味がよく分からないので、具体的な数字を使って説明します。

 

例)1 10%のみを使う場合

  1. 最初に申告した税金 200万円
  2. 修正申告の税金 300万円
  3. 修正申告により増えた税金 100万円
    (300万円-200万円)

過少申告加算税=100万円×10%=10万円

 

例)1の場合には、修正申告により増えた税金が100万円です。

但し書きにある『最初に申告した税金の金額=200万円』と『50万円』のうちの大きい方である『200万円』よりも少なくなるため、10%の税率のみで計算します。

 

例)2 10%と15%を使う場合

  1. 最初に申告した税金 200万円
  2. 修正申告の税金 500万円
  3. 修正申告により増えた税金 300万円
    (500万円-200万円)

過少申告加算税

①、200万円×10%=20万円
②、100万円×15%=15万円
③、①+②=35万円

 

例)2の場合には、修正申告により増えた税金が300万円です。

但し書きにある『最初に申告した税金の金額=200万円』と『50万円』のうちの大きい方である『200万円』よりも大きくなってしまいます。

従って、200万円を超える部分の100万円に対して、15%の税率が適用されます。

 

このように、過少申告加算税は基本的に「10%と15%」の税率で計算されるので、負担の大きい罰金と言えます。

 

重加算税

過少申告加算税もかなり怖い罰金ですが、さらに怖い罰金が『重加算税』です。

重加算税は、日本の税金に対する罰金(附帯税)のうちで最も重い罰金です。

そのため、重加算税は常に課されるものではありません。

具体的には、脱税行為があった場合に課される罰金が、重加算税です。

 

その重加算税の計算ですが、下記のようになります。

【重加算税の計算方法】

重加算税 = 修正申告により増えた税金 × 35%

 

仮に、修正申告により増えた税額が300万円だとすると、重加算税は105万円になります。

尚、重加算税は他にも「40%~50%」までの税率が課されることがありますが、特別な場合の税率になるため、通常は「35%」と理解してもらって問題ありません。

 

過少申告加算税も重加算税も、比較的簡単な計算なので、憶えておいても損はないと思います。

 

コラム

税務署は重加算税が大好き

さて、重加算税は「脱税行為」と認められた場合に課される罰金だと書きました。

言葉で「脱税行為」と書いてもピンと来ないかもしれませんが、上に書いた通り、「脱税行為 = 売上や経費の仮装・隠蔽行為」です。

税務署は、税務調査等があると『これはジューカ(重加算税のこと)の対象ですね』などと軽々しく言う場合があります。

税務署側としては、できれば重加算税を取りたいのです。

そりゃそうです。

一番多く取れる罰金ですから、何かにつけて「重加算税を取りたがる」傾向にあります。

 

しかし、もう一度「脱税行為」の意味を考えて下さい。

「仮装・隠蔽行為」に該当しなければ、重加算税の対象にはなりません。

「仮装・隠蔽行為」かどうかの判断基準は、『それが故意かどうか?』にあります。

故意ではなく『誤って』してしまった行為は「仮装・隠蔽行為」ではありません。

 

税務調査等で税務署から重加算税の指摘があっても鵜呑みにせずに、まずはよく検討しましょう。

それによって、重加算税が回避できる場合もあります。

 

【こちらは脱税と裏帳簿の関係をまとめた記事】

裏帳簿が無いと会社の経営が成り立たないのです【脱税と裏帳簿】

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過少申告加算税を回避するには

さて、過少申告加算税も重加算税も税務調査等で税務署から指摘された場合に掛かる罰金です。

では、税務署から指摘される前に、自主的に申告(修正申告)をした場合はどうなるのでしょうか?

まずは、過少申告加算税から見ていきましょう。

 

税務調査前に自主的に修正申告した場合

通常、税務調査はその実施前に事前連絡があります。

事前連絡後、双方でスケジュールを調整して税務調査の日程を決めるわけですが、この税務調査の事前連絡があった後に、税務調査の実施日前までに自主的に修正申告をする(以下「事前修正申告」と呼びます)場合があります。

税務調査の資料等を点検していた際に、明らかな売上の計上漏れが見つかった場合などです。

この場合、事前修正申告をすれば、修正申告をした取引に限っては「過少申告加算税」の税率が低くなります。

 

事前修正申告をした場合の過少申告加算税の税率

既に上の章で述べましたが、通常の過少申告加算税の税率は下記のとおりです。

 

【通常の過少申告加算税の税率】

過少申告加算税 = 修正申告により増えた税金 × 10%

 

但し、修正申告により増えた税金が、下の1.と2.のうち大きい方の金額を超える部分は15%の税率を使います。

  1. 最初に申告した税金の金額
  2. 50万円

 

この税率が、事前修正申告をした場合には、下記のようになります。

 

【事前修正申告をした場合の過少申告加算税の税率】

過少申告加算税 = 修正申告により増えた税金 × 5%

 

但し、修正申告により増えた税金が、下の1.と2.のうち大きい方の金額を超える部分は10%の税率を使います。

  1. 最初に申告した税金の金額
  2. 50万円

 

このように「10%と15%」の税率が、「5%と10%」とそれぞれ5%ずつ低くなります。

つまり、税務調査の際に「税務署に指摘されるのが明らかな事項」を「税務調査前に気付いた」場合には、事前修正申告をする方が税率が低くて済むのです。

 

しかし、ここで注意点があります。

 

例え事前修正申告をした場合であっても、税務調査は実施されます。

 

事前修正申告をしたからといって、税務調査が無くなるわけではないので、勘違いの無いようにしてください。

 

調査とは関係なく自主的に修正申告をした場合

前章では、税務調査を前提とした修正申告(事前修正申告)をした場合の過少申告加算税について説明しました。

しかし、税務調査とは無関係に(つまり、税務調査の事前連絡がある前に)自主的に修正申告した場合の過少申告加算税の取扱いはどうなっているのでしょうか?

 

税務調査の事前連絡がある前に、自主的に修正申告をした場合の過少申告加算税は、次のように取扱います。

過少申告加算税は掛かりません。

 

この取扱いは、下記の国税通則法の条文に基づきます。

国税通則法 第六十五条五項

第一項の規定は、修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合において、その申告に係る国税についての調査に係る第七十四条の九第一項第四号及び第五号(納税義務者に対する調査の事前通知等)に掲げる事項その他政令で定める事項の通知(次条第六項において「調査通知」という。)がある前に行われたものであるときは、適用しない。

 

参考までに載せたので、理解してもらう必要はありません。

 

重加算税を回避するには

過少申告加算税の取扱いは上記のようになりますが、重加算税はどうなるのでしょうか?

まず、過少申告加算税と重加算税の基本的な関係を整理します。

 

過少申告加算税と重加算税は同時に課税されない

またまた条文で申し訳ないのですが、下記の条文をご覧ください。

 

国税通則法 第六十八条一項

第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

 

これは重加算税に関する条文ですが、上の黄色マーカーの部分のみご覧ください。

「過少申告加算税に代え」と書いてあります。

つまり、過少申告加算税と重加算税が同時に課税されることは無いのです。

これは、無申告加算税と重加算税の関係に於いても同様です。

 

さらに、この条文から読み取れることは他にもあります。

 

過少申告加算税が掛からなければ、重加算税も掛からない

 

重加算税を回避できるパターンは一つだけ

以上の事から、重加算税を回避する方法は、次の1つだけになります。

税務調査とは無関係に(つまり、税務調査の事前連絡がある前に)自主的に修正申告した場合

 

この場合には、過少申告加算税が掛かりませんので、重加算税も掛かりません。

 

因みに事前修正申告をした場合ですが、前章でも述べたとおり「事前修正申告をしても税務調査は実施される」わけですから、税務調査の際に事前修正申告をした内容についても当然調べられます。

そこで脱税行為と認められれば、過少申告加算税の代わりに重加算税が課されることになります。

 

過少申告加算税の改正

過少申告加算税については近年改正が行われました。

今回の記事で紹介した「事前修正申告」が行われた場合の過少申告加算税の取扱い(5%と10%)は、改正後の取扱いになります。

この取扱いは、下記の期日から適用されています。

平成29年1月1日以後に法定申告期限が到来するものについて適用される

 

平成28年12月31日までは、事前修正申告に関して、過少申告加算税は掛かりませんでした。

しかしながら、今後は改正後の法律が適用されるため、この記事でも改正後の法律で説明しています。

 

尚、平成30年(2018年)及び平成31年(2019年)の税制改正については、下記の記事でまとめているので参考にしてください。

平成31年度(2019年度)税制改正【与党税制改正大綱】

2018年、2019年、2020年以降の税制改正を一覧表でまとめてみた

2020年分以後の所得税に適用される8つの改正【平成30年度の税制改正】

 

横領を回避するには

そもそも過少申告加算税や重加算税の罰金を回避するには、横領等の不正行為をしない(させない)ことが一番です。

しかし、経営者自身が横領をしている場合は別として、通常は会社(経営者)の知らないところで横領が行われます。

 

この社内での横領を完全に防ぐ手立てはありませんが、少しでも横領される可能性を低くする方法はあります。

それらの方法を簡単に紹介して、終わりたいと思います。

  1. 例え信頼している従業員であっても、お金や経理等に関わる業務・管理を一人の従業員に任せきりにしない(複数の従業員で管理)
  2. 経営者自身が、定期的に現金や預金の確認(できれば帳簿の確認も)を行う
  3. 可能な限り、業務を持ち回りにする
  4. 夜遅くまで、一人で残って残業させない

その他にも「現金商売であれば毎日の現金残高を合わせる」ことや「在庫のチェックを増やす」「備品や切手・印紙の補助簿をつける」「交通費の精算方法を見直す」など、細かいことを言えばキリがないかもしれません。

それでも横領が起こってしまったら、まずは警察に相談しましょう。

 

会社は人間同士の信頼関係で成り立っていると言っても過言ではありませんが、信頼関係があるからこそ「横領等の不正ができないような社内環境」を作ることが必要となります。

 

信頼していた部下や同僚に裏切られたときのことを想像してください。
それらの人達を警察に突き出すときのことを想像してください。

未然に横領を防げるのであれば、それに越したことはありません。

 

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