こんにちは、税理士の高荷です。
個人に課せられる税金として有名なものに、「個人住民税(地方税)」があります。
個人住民税は、その地域(地方公共団体)に住んでいる人全員が対象となります。
そのため、年齢・性別を問わず、個人住民税が課せられる範囲の所得がある人は、須らく住民税を納めなければなりません。
一方で、この個人住民税には、その税負担が「免除又は減額」される制度も存在します。
一定の要件に該当する人は、個人住民税が全額免除又は一部減額されるという制度で、各自治体で手続きを行うことにより適用することができます。
今回は、この「個人住民税の減免制度」を取り上げ、適用を受けるための要件や手続方法、さらには申請方法などについて解説したいと思います。
重要個人住民税の減免制度は、各地方公共団体によって制度の内容や適用条件、手続方法が異なります。
そのため、今回解説する内容は、全ての個人及び地方公共団体に適応する内容ではないことを、ご承知おきください。
ただ、基本的な制度の趣旨や内容は同じなので、個人住民税の減免制度に関する一般的な解説としてお読みいただければ幸いです。
尚、個人住民税の計算方法等について、下記の記事でまとめています。
こちらの記事も併せて参考にしてください。
個人住民税を納める人と納めない人、申告する人としない人の違いについて
個人住民税の減免制度とは
個人住民税に限らず、基本的には税金が免除されることはありません。
しかし、全ての国民に一律に税負担を課すことは、各個人の実状や経済状況によっては不公平感が生じることもあり、また税負担による日常生活への影響が多大になることなども考慮して、一部の税金で減額・免除制度が存在しています。
今回解説する「個人住民税」と呼ばれる税金に関しては、下記のような事情がある場合に、その負担が減額・免除(併せて「減免」と言います)されることとなっています。
- 生活保護を受けている場合
- 失業した場合
- 所得が前年に比べ、大幅に減少した場合
- 障害者、未成年者、又は寡婦(寡夫)に該当する場合
- 災害による被害を受けた場合
但し、上記の事情に該当するだけでは、個人住民税の減免は適用されません。
【個人住民税の減免制度の前提条件】
上記の事情に該当するため個人住民税の納付が困難であると、お住まいの地方公共団体から認められる必要があります。
つまり、個人住民税の減免制度の適用を受けるためには、お住まいの各地方公共団体において、所定の手続き(申請)を行い、承認を受ける必要があるということになります。
- 住んでいる地方公共団体に対して、自ら減免申請を行う
- 申請後、各地方公共団体にて収入・資産状況等の審査が行われる
- 所定の申請期日までに、必ず申請しなければならない
このような手続を経て申請が認められれば、減免制度の適用を受けることができるのですが、個人住民税の減免制度については、次の点を理解しておくことが最も重要となります。
【個人住民税の減免制度の重要なポイント】
減免申請をしたからといって、必ず地方公共団体が認定してくれるとは限りません
先ほど述べた通り、減免制度については、申請をした後に「審査」が行われます。
従って、申請をしても、その後の審査に通らなければ減免制度の適用は受けられないのです。
この点はとても重要ですので、必ず念頭に置いて、制度の適用を検討するようにしてください。
それでは、次から具体的な適用要件について解説していきます。
生活保護を受けている場合の適用要件等
最初は、生活保護を受けている場合の減免制度の適用要件等について解説します。
重要尚、減免割合などの減免額は、各地方公共団体で異なるため、今回は「大阪市」の減免制度の内容を例として掲載します。(以下、全て同様です)
生活保護の受給者は、全国で約200万人と言われています。
ただ、受給者数はここ数年横ばいで、高齢者の割合が増加しているそうです。
このような生活保護を受けている人は、一定の要件に該当すれば個人住民税の減免申請を行うことができます。
また、ここで言う「生活保護を受けている」とは、下記のような状況を言い、この状況に該当する人が、個人住民税の減免申請を行うことができます。
【生活保護を受けている場合の減免申請の対象者】
- 生活保護法の規定による各種扶助を受けている人
- 貧困により生活のため公私の扶助を受けている人
尚、上記の要件を満たしていても、本人の所得金額や一定の不動産の所持の有無によって、適用要件が変わります。
【減免割合の例】
- 生活保護法の規定による各種扶助を受けている場合 … 全額免除
- 貧困により生活のため公私の扶助を受けている場合 … 全額免除
【減額・免除対象税額の例】
- 普通徴収
- 当該年度のうち扶助受給期間中に納期限が到来する納期の税額
- 給与からの特別徴収
- 当該年度のうち扶助受給開始翌月から受給終了月までの税額
- 公的年金からの特別徴収
- 当該年度のうち扶助受給開始翌月から受給終了月までの税額
(出典 大阪市 個人市・府民税の減額・免除制度について 以下、全て同)
尚、個人住民税の普通徴収・特別徴収の意味については、こちらの記事を参考にしてください。
失業した場合の適用要件等
続いては、失業した場合の個人住民税の減免制度について解説します。
この失業した場合の個人住民税の減免制度の対象者となるのは、具体的には次の人になります。
【失業した場合の減免申請の対象者】
雇用保険基本手当(失業手当)を受けている人
尚、一般的には自己都合退職や定年退職による失業は、対象となりません。
一方、病気・妊娠・出産等による退職は、対象になる場合もあるようです。(地方公共団体によって異なります)
【所得等基準・減免割合の例】
減免割合 所得等の基準 区分 控除対象配偶者および扶養親族の数 なし 1人 2人 3人 4人 全額免除 前年の合計所得金額 170万円以下 237万円以下 272万円以下 307万円以下 342万円以下 当年の所得見込金額 同上 同上 同上 同上 同上 預貯金等の額 250万円以下 317万円以下 352万円以下 387万円以下 422万円以下 7割減額 前年の合計所得金額 210万円以下 277万円以下 312万円以下 347万円以下 382万円以下 当年の所得見込金額 同上 同上 同上 同上 同上 預貯金等の額 250万円以下 317万円以下 352万円以下 387万円以下 422万円以下 5割減額 前年の合計所得金額 250万円以下 317万円以下 352万円以下 387万円以下 422万円以下 当年の所得見込金額 同上 同上 同上 同上 同上 預貯金等の額 250万円以下 317万円以下 352万円以下 387万円以下 422万円以下
【減額・免除対象税額の例】
- 普通徴収
- 当該年度のうち失業期間中に納期限が到来する納期の税額
- 公的年金からの特別徴収
- 当該年度のうち失業により要件に該当した月の翌月から就職等により要件に該当しなくなった月までの税額
所得が前年に比べ、大幅に減少した場合の適用要件等
3つ目は、所得が大幅に減少した場合です。
前年に比べて所得が大幅に減少した場合とは、概ね次のようなケースを言います。
【前年に比べ所得が大幅に減少した場合の減免申請の要件】
今年の所得が、前年の「半分以下」になる場合
個人事業者で、営業不振や廃業により所得が減少する見込みの人や、給与が大幅に減額されたサラリーマン等、病気・妊娠出産等による休職中で所得が減少する人などが対象となります。
尚、育児休業中の人も対象になる場合があります。
前章の失業中の場合と同様に、自己都合退職や定年退職での失業による所得の減少は、基本的に対象とはなりません。
【所得等基準・減免割合の例】
減免割合※ 所得等の基準 区分 控除対象配偶者および扶養親族の数 なし 1人 2人 3人 4人 7割減額 前年の合計所得金額 170万円以下 237万円以下 272万円以下 307万円以下 342万円以下 当年の所得見込金額 前年の6割以下 同左 同左 同左 同左 預貯金等の額 250万円以下 317万円以下 352万円以下 387万円以下 422万円以下 5割減額 前年の合計所得金額 210万円以下 277万円以下 312万円以下 347万円以下 382万円以下 当年の所得見込金額 前年の6割以下 同左 同左 同左 同左 預貯金等の額 250万円以下 317万円以下 352万円以下 387万円以下 422万円以下 3割減額 前年の合計所得金額 250万円以下 317万円以下 352万円以下 387万円以下 422万円以下 当年の所得見込金額 前年の6割以下 同左 同左 同左 同左 預貯金等の額 250万円以下 317万円以下 352万円以下 387万円以下 422万円以下
- ※所得減少率を乗じた額の、各割合分(7、5、3)の減額
- ※所得減少率 = 1-(当年の見込所得/前年の所得)
【減額・免除対象税額の例】
- 普通徴収
- 当該年度の各納期の税額
- 給与からの特別徴収
- 当該年度の各徴収月の税額
- 公的年金からの特別徴収
- 当該年度の各徴収月の税額
尚、所得とは収入(年収)のことではありません。
一般的に、所得とは次の金額を言います。
【サラリーマン等の給与を貰っている人】
収入金額(年収)- 給与所得控除額 = 所得
【個人事業者等の事業を行っている人】
収入金額(売上)- 経費 = 所得(利益)
この所得の定義や計算方法については、こちらの記事で解説しています。
【確定申告】住宅ローン控除の仕組みと控除額の計算方法【適用要件、手続方法、必要書類など】
【確定申告】アフィリエイト所得の計算方法とアフィリエイト収入・必要経費の集計方法
障害者、未成年者、又は寡婦(寡夫)に該当する場合の適用要件等
4つ目は、障害者、未成年者、又は寡婦(寡夫)に該当する場合の、個人住民税の減免制度について解説します。
障害者、未成年者、又は寡婦(寡夫)に該当する場合の減免制度を実施している地方公共団体は多いので、参考にしてください。
減免申請の対象者は、次のとおりです。
【所得基準・減免割合の例】
減免割合 所得基準 前年中の合計所得金額(給与収入金額) 7割減額 130万円以下(211万5,999円以下) 5割減額 135万円以下(218万7,999円以下)
- 控除対象配偶者及び扶養親族の人数に関わらず、上記の所得基準となります。
【減額・免除対象税額の例】
- 普通徴収
- 当該年度の各納期の税額
- 給与からの特別徴収
- 当該年度の各徴収月の税額
- 公的年金からの特別徴収
- 当該年度の各徴収月の税額
尚、障害者、未成年者、寡婦(寡夫)で、前年の合計所得金額が125万円以下(給与収入204万3,999円以下)の人は、個人住民税が課税されませんが、この「減額・免除制度」とは別の規定になります。(下記の記事を参照ください)
また、寡婦(寡夫)について、離婚慰謝料に係る税金を取り上げて解説しています。
こちらの記事も、併せて参考にしてください。
離婚の慰謝料に税金は掛かる?財産分与と併せて分かりやすく解説します
災害による被害を受けた場合の適用要件等
減免制度の5つ目(最後)は、災害による被害を受けた場合についてです。
この災害による被害を受けた場合の減免制度も、ほぼ全ての地方公共団体で採用しています。
適用要件は、下記の内容になります。
【災害による被害を受けた場合の減免申請の要件】
- 災害により死亡し、又は身体に著しい傷害を受けた場合
- 災害により住宅又は家財につき損害を受けた場合
- 災害により事務所、事業所又は家屋敷につき損害を受けた場合
一般的には、地震・火災・風水害を「災害」として指定している地方公共団体が多いようです。
【要件等基準・減免割合の例】
1、大阪市内にお住まいの方
≪災害により死亡し、又は身体に著しい傷害を受けた場合≫
要件 減免割合 災害により死亡した場合 免除 災害により、回復後(症状が固定したときを含む)において障がい者控除の対象となる障がい者に該当することが見込まれる程度の傷害を受けた場合 9割減額 災害により1か月以上の入院を必要と見込まれる程度の傷害を受けた場合 6割減額
≪災害により住宅又は家財につき損害を受けた場合≫
要件 判定基準 前年の合計所得金額 減免割合 損害額の住宅及び家財の価格に対する割合が7割以上の場合 住宅の床面積の7割以上が損壊、流出、埋没若しくは消失(焼失で消火による損壊を含む。以下同じ。)したもの、又は7割未満であっても全面的に改築しなければ居住の用に供し得ない状態のもの 家財の3分の2以上の損害を受けたもの
750万円以下 免除 750万円超、1,000万円以下 6割減額 損害額の住宅及び家財の価格に対する割合が5割以上7割未満の場合 住宅の床面積の5割以上7割未満が損壊、流出、埋没又は消失したもので、残存部分を改築により居住の用に供し得る状態のもの 3日以上の床上浸水、又は家財の2分の1以上3分の2未満の損害を受けたもの
500万円以下 免除 500万円超、750万円以下 6割減額 750万円超、1,000万円以下 3割減額 損害額の住宅及び家財の価格に対する割合が3割以上5割未満の場合 住宅の床面積の3割以上5割未満が損壊、流出、埋没又は消失したもので、残存部分を改築により居住の用に供し得る状態のもの 2日以内の床上浸水又は家財の3分の1以上2分の1未満の損害を受けたもの
500万円以下 6割減額 500万円超、750万円以下 3割減額 750万円超、1,000万円以下 1割5分減額 2、大阪市内に事務所等があり、その区内にお住まいでない方
≪災害により事務所等の損害を受けた場合≫
要件 判定基準 割合 損害額の当該事務所、事業所又は家屋敷の価格に対する割合が7割以上の場合 事務所、事業所又は家屋敷の床面積の7割以上が損壊、流出、埋没若しくは消失(焼失で消火による損壊を含む。以下同じ。)したもの、又は7割未満であっても全面的に改築しなければならない状態のもの 免除
【減額・免除対象税額の例】
- 普通徴収
- 当該年度のうち災害を受けた日以後に納期限が到来する納期の税額
- 給与からの特別徴収
- 災害による被害を受けた日の属する月の翌月から翌年の5月までの特別徴収税額
- 公的年金からの特別徴収
- 当該年度のうち災害を受けた日以後の特別徴収税額
尚、所得税(国税)の災害による税制上の優遇制度については、こちらの記事でまとめています。
【確定申告】雑損控除の仕組みと確定申告書の書き方及び控除額の計算方法
【確定申告】災害減免法による所得税の軽減免除制度の仕組みと手続方法
減額・免除の申請期限と申請書類
最後に、減免申請の申請期限と申請書類について解説します。
個人住民税における減免制度の申請で注意すべき点は、下記の事項です。
【個人住民税の減免申請で注意すべき点】
減免の申請は、必ず申請期限までに行わなければならない
申請期限を過ぎてしまったら、前述した適用要件に該当していても減免制度が受けられません。(申請を受け付けてもらえず、審査も行われません)
従って、「申請の期限がいつなのか?」を早めに確認しておくことが必要です。
減額・免除の申請期限
減免申請の期限は、一般的に下記の期日になります。
おそらく、ほとんどの地方公共団体で同様の期限を設けていると思います。
【個人住民税の減免申請の期限】
個人住民税の納付期限
尚、災害による被害を受けた場合のみ、特別な申請期限を設けていることが多いと思われます。
大阪市の場合は、次のように規定されています。
【減額・免除の申請期限】
要件 申請期限 1 生活保護を受けている場合
- 普通徴収税額
- 減免を受けようとする納期の納期限
- 給与からの特別徴収税額
- 減免を受けようとする徴収月の前月末日
- 公的年金からの特別徴収税額
- 減免を受けようとする徴収月の前月末日
2 失業した場合 3 所得が前年に比べ、大幅に減少した場合 4 障がい者、未成年者、又は寡婦(寡夫)に該当する場合 5 災害による被害を受けた場合
- 災害のやんだ日の翌日から起算して30日を経過する日
- 申請期限前9日目以後に、上記1又は2の要件に該当した場合には、要件該当日の翌日から起算して10日を経過する日まで期限が延長されます。
- 上記3の要件のうち、所得税の予定納税の減額申請ができる方の申請期限は、当該所得税の減額申請期限にあわせて次のとおり延長されます。
- 6月末日の減額・免除申請期限 … 7月15日
- 10月末日の減額・免除申請期限 … 11月15日
- 上記1~4の要件については、減免を受けようとする最初の納期または徴収月の申請期限(注1・2による期限延長後の申請期限を含む)を経過した場合には、翌納期または翌徴収月からの申請となります。
(出典 大阪市 個人市・府民税の減額・免除制度について)
減額・免除の申請書類
減免申請を行うためには、各地方公共団体で採用している減免申請書に所定の事項を記入し、内容確認のための書類を添付、又は持参する必要があります。
参考までに、大阪市の必要書類を掲載します。
【申請必要書類】
要件 添付書類 記載事項の確認書類(提出または提示) 1 生活保護法の規定による各種扶助を受けている場合 生活保護適用証明書、又は保護決定通知書の写し 不要 貧困により生活のため公私の扶助を受けている場合 減免申請書附表
- 公私の扶助の受給を確認する書類
- 全ての預貯金等金融資産の額を確認する書類 など
2 失業した場合 減免申請書附表
- 雇用保険受給資格者証の写し
- 当年の所得金額(見込)を確認する書類
- 全ての預貯金等金融資産の額を確認する書類 など
3 所得が前年に比べ、大幅に減少した場合 減免申請書附表
- 当年の所得金額(見込)を確認する書類
- 全ての預貯金等金融資産の額を確認する書類 など
4 障害者、未成年者、又は寡婦(寡夫)に該当する場合 減免申請書附表
- 各対象者に該当することを証明する書類
5 災害による被害を受けた場合
- 消防署等の関係官公署が発行する証明書(リ災証明書など)
- 保険会社からの損害額明細書など
不要 (出典 大阪市 個人市・府民税の減額・免除制度について)
以上で、住民税の減額・免除を受けるための条件と手続方法についての解説を終わります。
尚、個人住民税の減免制度の申請を考えている人は、必ずお住まいの地方公共団体で詳細等を確認してから申請を行うようにしてください。