こんにちは、税理士の高荷です。
今回は、相続税に関する障害者控除の解説です。
障害者控除は、所得税や住民税限定の優遇措置ではありません。
相続税の障害者控除も、遺産を相続した相続人が障害者である場合に、相続税による日常生活等への負担を軽減する目的で設けられている制度です。
この制度は、相続税の金額を直接減らしてくれる制度(税額控除)になりますので、適用要件を満たす場合には、必ず活用したい制度と言えます。
今回の内容では、相続税における障害者控除の適用要件から計算方法まで、総合的に解説したいと思います。
尚、所得税及び住民税の障害者控除について、こちらの記事でまとめています。
また、相続税の仕組みと計算方法については、下記の記事でまとめていますので、これらも併せて参考にしてください。
相続税の障害者控除を受けるための要件
まずは、相続税の障害者控除を受けるための要件から確認します。
相続税の障害者控除は、以下に掲げる要件を全て満たす場合に適用することができます。
- 相続人が障害者である
- 相続時に国内に住所がある
- 法定相続人である
- 85歳未満である
この4つの要件の内容について、順番に解説します。
要件①【相続人が障害者である】
この要件は、相続税の障害者控除を受けるための前提条件になります。
被相続人(故人)が障害者であっても、相続人(相続財産を受け取る人)が障害者でなければ、この規定の適用は受けられません。
勘違いしやすいポイントなので、注意してください。
また、障害者に該当するかどうかについては、税法上その要件が定められています。
さらに、障害の程度により障害者の区分がされているので、下の表で確認してください。
【障害者の区分の一覧】
区分 | 内容 |
---|---|
一般障害者 |
|
特別障害者 |
|
要件②【相続時に国内に住所がある】
続いては、相続開始時に相続人の住所が日本にあることが要件になります。
尚、税法上「住所」とは、生活の本拠としている場所(実際に生活している場所)を指します。
住民票や戸籍のあるなしは、基本的に関係ありません。
例えば海外で勤務している日本人の場合は、日本ではなく海外が生活の拠点になりますが、勤務期間が1年以内の場合は、日本に住所があると判断します。
要件③【法定相続人である】
法定相続人とは、民法において相続財産を受け取る権利があると認められている相続人のことを言います。
この法定相続人になれるのは、配偶者と血族に限られます。
また、法定相続人には優先順位があり、民法で定める順位を使います。
民法で定める優先順位の高い人から法定相続人になります。
法定相続人の優先順位
1位 | 配偶者 | 配偶者は、必ず法定相続人になる |
2位 | 血族 | 優先順位が高い人から、法定相続人になる |
血族内の優先順位
1位 | 子供、代襲者である孫・ひ孫・養子 |
2位 | 父母(父母が亡くなっている場合には祖父母) |
3位 | 兄弟姉妹 |
- 同じ順位の人が複数いる場合は、全員が相続人となります。
- 先順位の人が1人でもいる場合は、後順位の人は相続人になれません。
- 代襲者とは、例えば、親よりも子が先に死亡してしまった場合に、亡くなった子に孫がいれば、孫が親の立場を引き継いで相続人となります。この場合の孫を代襲者(代襲相続人)といいます。
要件④【相続人が85歳未満の障害者である】
障害者である相続人が85歳未満であるかどうかは、この後説明する控除額の計算に関わってきます。
尚、念のため付け加えておきますが、満85歳未満です。
以上が、相続税の障害者控除を受けるための要件になります。
コラム満年齢と数え年
年齢の数え方には、満年齢と数え年という2つの数え方があります。
この2つの年齢の数え方について、簡単に解説します。
【満年齢とは】
生まれた日を0歳として、誕生日が来るごとに年を重ねていく数え方です。
私たちが通常使う年齢の数え方になります。
「あなた何歳?」と聞かれたときに答えているのが「満年齢」です。
【数え年とは】
対して数え年とは、生まれた日を1歳として、元旦を迎えるごとに年を重ねる数え方です。
還暦以外の長寿のお祝いは、この数え年を使います。(還暦は、満60歳のお祝いだそうです)
因みに、満年齢の数え方ですが、正確に言うと「誕生日の前日」に1歳年を取ります。
ですから、4月1日が誕生日の人は、3月31日に1歳年を取ります。
そのため、4月1日生まれの人は「早生まれ」と言われ、4月2日以降に生まれた人よりも学年が1つ上になります。
4月1日生まれの事を「早生まれ」と言いますが、中には「遅生まれ」と呼ぶ人もいるそうです。
正しくは、早生まれです。
1/1~4/1生まれの事を「早生まれ」と言います。
障害者控除の控除額
次に、相続税の障害者控除の控除額の計算方法について解説します。
障害者控除の控除額の計算は、障害者の区分(一般障害者・特別障害者)により控除額が変わります。
一般障害者の控除額
一般障害者の場合は、下記の方法により計算した金額が控除額になります。
特別障害者の控除額
特別障害者の場合は、下記の方法により計算した金額が控除額になります。
具体的な計算例
それでは、相続税の障害者控除額の計算について具体的な金額を使って解説していきますが、計算をする前に1つ注意点があります。
この点に注意して、次からの解説をお読みください。
例1)
相続開始時に35歳7ヶ月の一般障害者であった場合
【計算式】(85歳 - 相続開始時の年齢)× 10万円
- 85歳 - 35歳7ヶ月 = 49年5ヶ月 ⇒ 切り上げで50年
- 50年 × 10万円 = 500万円 ∴控除額500万円
例2)
相続開始時に68歳11ヶ月の特別障害者であった場合
【計算式】(85歳 - 相続開始時の年齢)× 20万円
- 85歳 - 68歳11ヶ月 = 16年1ヶ月 ⇒ 切り上げで17年
- 17年 × 20万円 = 340万円 ∴控除額340万円
控除しきれなかった場合の障害者控除額の取扱い
相続税の障害者控除を適用した場合に、相続税額から控除しきれなかった障害者控除額がある場合(つまり、相続税額 < 障害者控除額)には、その控除しきれなかった金額を、他の相続人(※)の相続税から控除することができます。
例)障害者である相続人Aさんの場合
相続税300万円 - 障害者控除額500万円 = △200万円
- Aさんの相続税はゼロ
- 余った△200万円は、他の相続人(※)から控除
控除することができる他の相続人とは
上記の※印で示した「他の相続人」とは、次の人に限られます。
ここで言う扶養義務者とは、次に掲げる人たちになります。
扶養義務者の注意点
- 実際に扶養をしているかどうかは関係ありません
- 戸籍上で配偶者、祖父母・父母・子・孫及び兄弟姉妹に該当すれば、扶養義務者になります。
- 3親等内の親族で、家庭裁判所が扶養義務を負わせた者も扶養義務者になりますが、単なる「3親等内の親族」では扶養義務者になりません。
この規定は、扶養義務者であることが要件なので、すべての相続人に対して適用できるわけではありません。
具体的な計算例
相続税の障害者控除を適用した場合に、相続税額から控除しきれなかった障害者控除額がある場合(つまり、相続税額 < 障害者控除額)について、計算例を使用して解説します。
例)
- 特別障害者である長女Aさん(45歳)の相続税500万円
- 障害者ではない次女Bさんの(40歳)の相続税500万円
- 長女Aさんの障害者控除額
(85歳 - 45歳)× 20万円 = 800万円- 長女Aさんの相続税額
500万円 - 800万円 = ゼロ 余り△300万円- 次女Bさんの相続税額
500万円 - 300万円 = 200万円
このように、控除しきれなかった障害者控除額を利用することで、他の相続人の相続税額も減額できる場合があります。
過去に障害者控除を受けたことがある場合
最後に、過去に相続税の障害者控除を受けたことがある人が、再度相続をする場合について解説します。
相続税において、過去に障害者控除を受けたことがある場合には、次の相続の時に過去の分を差し引いて控除額を計算する必要があります。
そのため、相続税の障害者控除を受ける場合には、過去に控除を受けたことがないかどうかを確認しておくことが重要になります。
具体的な計算例
過去に相続税の障害者控除を受けたことがある場合の、次の相続時における障害者控除額は下のようになります。
- 今回の障害者控除額
- 前回の障害者控除額 - 前回の障害者控除により控除された相続税額
- 上の2つのうち、いずれか小さい金額
- 前回の障害者控除により控除された相続税額には、扶養義務者から控除した分も含めます
例)
一般障害者であるCさん(50歳)の場合
- 前回の相続時 40歳 障害者控除額 450万円
- 今回の相続時 50歳 障害者控除額 350万円
- 前回の相続時(相続税 250万円)
250万円 - 450万円 = ゼロ- 今回の相続時(相続税 300万円)
300万円 - 200万円(※)= 100万円- ※印の計算
350万円 > 450万円 - 250万円 = 200万円
尚、平成27年(2015年)より前の障害者控除では、一般障害者の控除額は1年当たり6万円(特別障害者は12万円)でしたが、この例では一律10万円として計算しています。
以上で、相続税における障害者控除についての解説を終わります。