こんにちは。税理士の高荷です。
過去2回にわたり、医療費控除の対象となる医療費の範囲について、個別事例を用いて解説してきました。
今回は、その最後として、過去2回の内容ではお伝え出来なかった部分について解説したいと思います。
具体的には、禁煙治療や視力回復センターの費用、漢方薬やサプリメントの購入及び相続に係る医療費等を取り上げて解説します。
医療費控除の対象になるのか?ならないのか?の判断は、基本的に自己判断になります。
そのため、医療費控除の対象範囲をしっかりと把握しておくことが必要です。
確定申告の時期が近づいてきますので、医療費控除で悩む納税者の参考になれば幸いです。
尚、過去2回の医療費控除に関する記事は、こちらです。
医療費控除の対象となる医療費の範囲
最初に、基本的な医療費控除の対象範囲について確認したいと思います。
医療費控除については、2017年分の確定申告から大きな改正が行われています。
この改正により、医療費のお知らせ(医療費通知)の添付が可能になり、確定申告の手続が簡略化されました。
一方で、「セルフメディケーション税制の導入」という少しややこしい制度も加わっています。
しかし、医療費控除の対象となる医療費の範囲について変更はないため、まずはどのようなものが医療費控除の対象になるのか、その基本的な範囲を解説します。
尚、今回の内容は「医療費控除」についての解説のため、セルフメディケーション税制については言及していません。
セルフメディケーション税制については、下記の記事で詳しく解説しているので、そちらを参照してください。
医療費控除とセルフメディケーション税制の有利判定【制度の仕組みと控除額の計算方法】
一般的に、医療費控除の対象となる医療費は、次に掲げるものとされています。
【医療費控除の対象となる医療費】
- 医師等の診療等の対価
- 通常必要であると認められる金額
- 保険金等により補填される金額を除いた金額
- 一般的に支出される水準を著しく超えない金額
- 納税者及び納税者と生計を一にする配偶者・親族に係るもの
一般的な医療費の範囲は、上記のように定められていますが、これだけでは納税者が判断に迷うケースも考えられるため、次のような具体的な範囲も設けられています。
【医療費控除の対象となる医療費の具体的な範囲】
- 医師による診療・治療の対価
- 歯科医師による診療・治療の対価
- 上記1.及び2.については、特定健康診査及び特定保健指導に係る自己負担額のうち一定のものを含む
- 治療・療養に必要な医薬品の購入対価
- 病院、診療所、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、指定介護老人福祉施設、指定地域密着型介護老人福祉施設又は助産所へ収容されるための人的役務の提供の対価
- あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師による施術の対価
- 保健師、看護師、准看護師又は特に依頼した人による療養上の世話の対価
- 助産師による分べんの介助の対価
- 介護福祉士による喀痰(かくたん)吸引等及び一定の研修を受けた認定特定行為業務従事者による特定行為に係る費用
- 介護保険制度の下で提供された一定の施設・居宅サービスの自己負担額
- 医師・歯科医師・施術者又は助産師(以下、「医師等」と言います)による診療・治療・施術又は分娩の介助(以下、「診療等」と言います)を受けるために直接必要な次の費用
- 医師等による診療棟を受けるために必要な通院若しくは医師等の送迎のための通常必要な費用、入院若しくは入所の対価として支払う部屋代、食事等の費用又は医療用器具等の購入、賃貸若しくは使用に関し通常必要な費用
- 日常最低限の用を足すために供される義手・義足・松葉づえ・補聴器・義歯等の購入費用
- 傷病によりおおむね6ヶ月以上寝たきりで医師の治療を受けている場合に、おむつを使う必要があると認められるときのおむつ代
- 身体障害者福祉法・知的障害者福祉法・児童福祉法等の法律の規定により都道府県知事又は市町村長に納付する費用のうち、医師等による診療等の費用に相当するもの及び上記a.とb.に相当するもの
- 骨髄移植推進財団に支払う骨髄移植のあっせんに係る患者負担金
- 日本臓器移植ネットワークに支払う臓器移植のあっせんに係る患者負担金
- 高齢者の医療の確保に関する法律に規定する特定保健指導(一定の積極的支援によるものに限ります。)のうち一定の基準に該当する者が支払う自己負担金
今回の内容は、主に次の点に焦点を当てて、医療費控除の対象になるのかどうかを判定していきます。
- 医師による診療・治療の対価かどうか
- 治療・療養に必要な医薬品の購入対価かどうか
- 納税者及び納税者と生計を一にする配偶者・親族に係るものかどうか
医療費控除の対象となる医療費の具体例
それでは、ここからは具体的な事例を用いて、医療費控除の対象になるのか否かを解説します。
前述したとおり、今回の内容は、次の具体的事例を取り上げます。
- 禁煙治療に係る費用
- 視力回復センターへ支払った費用
- 漢方薬やサプリメント・ビタミン剤等の購入費用
- 相続財産で支払った被相続人の医療費
- 結婚した娘の医療費
いずれも、医療費の範囲に含まれるのかどうか判断に迷う事例だと思うので、是非今回の記事を参考に、確定申告に役立ててください。
禁煙治療に係る費用
医療費控除の対象となる医療費は、医師等による診療・治療を受けるために直接要した費用である必要があります。
ここで取り上げる禁煙治療とは、呼気中の一酸化炭素の測定や禁煙補助薬の処方を受けるなど、医師の指導に基づいてニコチン依存症を改善することを言います。
ニコチン依存症は、放っておくと重大な合併症等を引き起こしかねない病気(依存症)の一種であり、その治療に係る費用は医療費控除の対象になると認められています。
禁煙治療に係る費用は、保険の適用の有無によって次のように区分され、医療費控除の対象となります。
【禁煙治療に係る医療費】
- 保険が適用される禁煙治療
- 保険診療分のうちの自己負担分が医療費控除の対象となる
- 保険が適用されない禁煙治療
- 自己負担額の全額が自費診療分として医療費控除の対象となる
尚、保険が適用される禁煙治療とは、下記の要件を全て満たす治療を言います。
- スクリーニングテストでニコチン依存症と診断される
- 喫煙本数 × 喫煙年数 = 200以上である
- 禁煙治療について医師から説明を受けて同意している
上記a.~c.の要件を満たさなければ保険の適用はありませんが、医師の下で禁煙治療を行うのであれば、自費診療分として医療費控除の対象になります。(保険の適用の有無は、医療費控除の対象になるかどうかの判断材料には含まれていません)
このように、禁煙治療については保険の適用の有無に関わらず、医療費控除の対象となりますが、あくまでも医師の指導の下で行われることが前提であるため、次のようなケースでは医療費控除の対象にはなりません。
【禁煙治療が医療費控除の対象とならない場合】
医師からの指導によらず、自己で禁煙治療品等を購入した場合の購入費は、医療費控除の対象にはなりません。
視力回復センターへ支払った費用
一般的に視力回復センターは、医療機関としての届出がなく、また眼科医を擁さずに機器等を使った眼のトレーニングで、視力の回復を図る機関です。
このような、医療機関として公的に認められていない機関に支払う費用は、医師等へ支払う治療等の対価には該当しないため、医療費控除の対象にはなりません。
【視力回復センターへ支払った費用】
医療機関ではない視力回復センターへ支払った費用は、医療費控除の対象となる医療費には含まれません。
尚、医師が治療を行う医療機関については、必ず知事に届け出ることになっています。
漢方薬やサプリメント・ビタミン剤等の購入費用
治療・療養に必要な医薬品の購入費用は、医療費控除の対象に含まれます。
この「医薬品」とは、医薬品・医療機器等の品質・有効性及び安全性の確保に係る法律(医薬品医療機器等法、旧薬事法)第2条第1項に規定する医薬品を言いますが、「医薬品」に該当するものであっても、疾病の予防又は健康増進のために供されるものは医療費控除の対象にはなりません。
漢方薬やサプリメント・ビタミン剤等の中には、上記の「医薬品」に該当するものもありますが、一般的には病気の予防や健康増進のために用いられるケースが多いものと思われます。
例えば、元々体が弱く(虚弱体質)、それが原因で仕事や学校生活に支障をきたすような人が、ビタミン剤やホルモン剤、又は朝鮮人参等の漢方薬を薬局で購入し服用しているような場合があります。
これらの薬剤は、医師の処方に基づくものではありませんが、本人にとっては欠かせない薬であると言えます。
しかし、上記のようなケースでは、現実的な病気の治療のために薬を服用しているとは言い難く、あくまでも疾病又は健康不良に備える予防薬又は増進剤としての服用と捉えることになります。
また、実際にあった裁判で、「不妊治療のため医師の指導に基づき購入したサプリメントは、医療費控除の対象となる医療費には該当しない」とされた判決もありました。
これらのことを踏まえると、薬剤の購入が医療費控除の対象になるかどうかのポイントは、次の点に絞られます。
【薬剤の購入費用が医療費控除の対象になるかどうかのポイント】
- 医薬品医療機器等法(旧薬事法)に規定する医薬品に該当するかどうか
- 治療を目的とした購入であるかどうか
つまり、旧薬事法に規定する医薬品を、治療の目的のために購入・服用した場合のみ、医療費控除の対象になると考えてください。
ここに、医師の指示や指導があったかどうかは関係ありません。
具体的に解説すると、まず漢方薬やビタミン剤は、基本的に「医薬品」に該当するものがほとんどです。
そのため、後は「治療のためのものかどうか」で、医療費控除の対象になる医療費に含まれるかを判断することになります。
【漢方薬やビタミン剤の医療費控除の取扱い】
漢方薬やビタミン剤は、「医薬品」に該当するものがほとんどのため、後は「治療に要するものかどうか」で、医療費に含まれるか否かを判断します。
因みに、医師から処方された漢方薬は、ほぼ100%医療費控除の対象になると思ってもらって構いません。
但し、「医薬品」に該当しない漢方薬・ビタミン剤(特に市販のもの)は、最初からオミットされます。
一方、サプリメントはというと、こちらは基本的に「医薬品」ではありません。
そのため、例え医師の処方であっても、医療費控除の対象にはならないと捉えてください。
【サプリメントの医療費控除の取扱い】
サプリメントは、「医薬品」ではなく「健康食品」に該当します。
そのため、市販のサプリメントは勿論、医師の処方によるサプリメントであっても、「医薬品」に該当しない限りは、医療費控除の対象になりません。
因みに、栄養ドリンクについて「医薬品であれば医療費控除の対象になる」と伝えているサイトがありますが、一般的には健康増進・滋養強壮のために飲むものなので、医療費控除の対象になるとは考えづらいです。
尚、前述した内容ですが、念のために付け加えておくと、「医薬品」に該当するものであっても、病気の予防・健康増進に使用されるものは医療費控除の対象にはならないので、注意してください。
相続財産で支払った被相続人の医療費
重病で入院していた父親が死亡した場合、その死亡後に入院費用等の医療費を父親の銀行預金から引き出して支払ったケースでは、その医療費は父親(被相続人)が支払ったものとされるのでしょうか。
父親が支払ったとされた場合には、死亡した父親の準確定申告において医療費控除の対象になりますが、このようなケースではどのように取り扱われるのでしょう。
医療費控除は、医療費が現実に支払われた時において、その医療費を支払った人が、医療費控除を受けることとされています。
また、預金を引き出して医療費を支払った場合には、特段の理由がない限り、その預金者が支払ったものとして医療費控除を適用します。
こう考えると、亡くなった父親の預金を引き出して支払った医療費は、父親が支払ったものとして差し支えないように思えますが、相続が絡んでくると話が変わります。
預金者が死亡し相続があった場合には、その預金は「相続人(相続する人)」のものとなります。
従って、相続があった時点(父親が死亡した時点)で、その預金者は、父親の預金を相続した人に変わります。
そのため、死亡した人の預金から引き出して支払った医療費の取扱いは、次のようになります。
【相続があった場合の医療費の取扱い】
- 死亡した人の預金を引き出して医療費を支払ったのが、死亡前の場合
- 死亡した人が支払った医療費として取り扱う
- 死亡した人の預金を引き出して医療費を支払ったのが、死亡後の場合
- その預金の相続人が支払ったものとして取り扱う
尚、上記2.のケースにおいては、その預金の名義が相続人の名義に変更されたかどうかは関係ありません。
名義変更がされていなくても、相続人が支払った医療費となります。
もし、上記の死亡した父親の預金を長男が相続するのであれば、長男が支払った医療費として、長男の医療費控除の対象になります。(但し、父親と生計を一にしていた場合に限ります)
【準確定申告とは】
所得税の確定申告は、その年の1月1日から12月31日までに生じた所得について、翌年の3月15日までに確定申告をすることになっています。
但し、年の途中で死亡した人の場合には、相続人が、1月1日から死亡した日までに確定した所得金額及び税額を計算して、相続の開始があったことを知った日(基本的には死亡した日)の翌日から4ヶ月以内に申告と納税をしなければなりません。
これを、準確定申告といいます。
尚、確定申告をしなければならない人が、翌年の1月1日から確定申告期限(原則、翌年3月15日)までの間に、確定申告書を提出しないで死亡した場合には、前年分、本年分とも相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に準確定申告をする必要があります。
また、相続人が2人以上いる場合には、原則として各相続人が連署により準確定申告書を提出します。
相続税の計算については、下記の記事で詳しくまとめているので参考にしてください。
相続税の仕組みと計算方法【財産評価から基礎控除、税率、特例、納税額まで】
また、所得税の確定申告については、当ブログの「確定申告」のカテゴリーの記事を参照してもらえれば、詳しく理解できると思います。
結婚した娘の医療費
最後に、生計を一にしている親族に関する医療費の取扱いについて解説します。
医療費控除の対象となる医療費の範囲には、「納税者及び納税者と生計を一にする配偶者・親族に係る医療費」も含まれます。
この場合の「生計を一にする配偶者・親族に係る医療費」とは、次のいずれかの現況に応じて判定します。
- 医療費を支払うべき事由が生じた時
- 医師等による診療等を受けた時、又は医薬品の購入をして服用等をした時
- 現実に医療費を支払った時
上記1.か2.のいずれかの際に生計を一にしていた配偶者・親族に係る医療費であれば、納税者の医療費控除の対象とすることができます。
従って、例えば今年の11月に結婚し、他家へ嫁いでいった生計を一にしていた長女の医療費(20万円)を、父親が同年の6月に支払っていたようなケースであっても、上記に照らせば、父親の医療費控除の対象とすることができます。
医療費を支払うべき事由が生じた時(又は、現実に医療費を支払った時)において、長女は父親と生計を一にしていたので、他の医療費控除の要件を満たしていれば、問題なく翌年の確定申告において、父親の医療費控除の対象にできます。
尚、上記のケースにおいて、父親が長女の医療費(20万円)を、クレジットカードにより6月から毎月2万円ずつ分割払い(10回払い)していた場合にはどうなるのでしょうか。
クレジットカード払いの医療費については、下記のように取り扱うこととされています。
【クレジットカードによる医療費の支払い】
クレジットカードによる医療費の支払は、「窓口でクレジットカードを利用して治療費を支払った日」が支払いの日になります。
クレジットカード代金の引き落としの日ではありません。
従って、20万円の医療費を10回払いで支払ったとしても、窓口でクレジットカードを利用した日が医療費の支払日となるため、長女の医療費(20万円)全額を、翌年の確定申告において父親の医療費控除とすることができます。
考え方としては、長女の医療費20万円は、クレジットカード会社が立替払いをしてくれており、父親が毎月支払う2万円は、病院への支払ではなく、クレジットカード会社への支払(返済)とみなすためです。
以上で、医療費控除の対象となる医療費の範囲についての解説を終わります。
医療費控除の確定申告書の書き方については、下記の記事で詳しく解説しています。
前述したセルフメディケーション税制の記事と併せて参考にしてもらえればと思います。