こんにちは。税理士の高荷です。
起業が初めての人に向けての株式会社の設立方法として、シリーズでお伝えしてきた解説も今回で最後の内容になります。
今回は、関係各所への届出書等の提出について解説します。
会社を設立したら、所定の役所を会社を設立した旨の届出を行う必要があります。
この届出書等の提出が終われば、会社設立に関する手続きは終了です。
この記事を通じて、一人でも多くの起業を目指している人の力になれればと思います。
尚、株式会社を設立する前提で、解説します。
株式会社設立の流れ
今までと同様に、まずは株式会社を設立する場合の流れを確認しておきます。
初めて会社を設立する時には、色々戸惑うことも多いと思いますが、焦らずに丁寧にこなしていけば大丈夫です。
株式会社設立の流れは、次の6つの手順で進めていきます。
【会社設立の流れ】
≪STEP①≫
会社の基本事項の決定
≪STEP②≫
定款(ていかん)の作成・認証
≪STEP③≫
資本金の払い込み
≪STEP④≫
設立登記書類の作成
≪STEP⑤≫
設立登記の申請
≪STEP⑥≫
関係各所への届出書等の提出
ステップは6種類あります。
今回は、最後の手続である関係各所への届出書等の提出について解説します。
届出が必要な役所とその種類
会社を設立した場合には、各役所へ所定の届出を行う必要があります。
≪STEP⑥≫
関係各所への届出書等の提出
届出を行う役所と届出書の種類は、次に掲げるとおりになります。
- 税務署
- 法人設立届出書
- 青色申告の承認申請書
- 給与支払事務所等の開設届出書
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
- 都道府県
- 法人設立届
- 市町村
- 法人設立届
- 労働基準監督署及びハローワーク
- 保険関係成立届
- 概算保険料申告書
- 雇用保険適用事業所設置届
- 雇用保険被保険者資格取得届
- 年金事務所
- 健康保険・厚生年金保険新規適用届
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
- 健康保険被扶養者(異動)届
一般的には、上記の届出書等の提出が必要になります。
なかなかボリュームが多い内容なので、順番に確認していきたいと思います。
税務署へ提出する書類
まずは、税務署へ提出する書類から確認します。
税務署へ各種届出書を提出することで、設立した会社が国税の対象になります。
尚、書類の記載内容ももちろんですが、大事なのは届出書とともに提出する添付書類になります。
基本的に、届出書に書く内容は、添付書類に記載してある内容を転載するだけなので、主に添付書類に重点を置いて解説します。
法人設立届出書
法人設立届出書は、法人を設立した旨を税務署に届け出る書類です。
この法人設立届作成の注意点は、次の点です。
- 提出先 … 法人の所在地の所轄税務署
- 添付書類(2019年4月から添付書類が変更になっています)
- 定款のコピー
- 会社に保管してある定款のコピー
- 株主名簿
- 下図参照
- Excel等で作成してください
- 設立時貸借対照表
- 下図参照
- Excel等で作成してください
- 平成29年4月以後、登記簿謄本(登記事項証明書)の添付は不要となりました。
- 「設立趣意書」の添付も必要とされていますが、一般的には提出する必要はありません。
- 定款のコピー
- 提出期限 … 会社設立後2ヶ月以内
【設立時貸借対照表のサンプル】
- 貸借対照表の日付は、設立日を記入してください
尚、法人設立届出書は、こちらのサイトから入手できます。
青色申告の承認申請書
法人の申告の種類には、下記の2種類があります。
- 白色申告
- 青色申告
通常、法人を設立した場合には100%青色申告を選択します。
青色申告の方が、税制上の優遇措置が受けられるためです。
青色申告を選択しなければ、白色申告になりますが、白色申告にしておくメリットは何もありません。
そのため、青色申告の承認申請書を提出して、青白申告を選択しておく必要があります。
青色申告の承認申請書の注意点は、次のとおりです。
- 提出先 … 法人の所在地の所轄税務署
- 添付書類 … 不要
- 記載内容
- □のチェックボックスの2つ目に✔を入れる
- 日付は、会社設立日を記載
- 伝票又は帳簿名 … 以下を記入
-
- 総勘定元帳
- 仕訳帳
- 現金出納帳
- 売掛帳
- 買掛帳 など
- 記帳の時期 … 毎日
- 提出期限 … 次のうち、いずれか早い日の前日
- 設立の日から3ヶ月後
- 設立事業年度終了の日
尚、青色申告の承認申請書は、こちらのサイトから入手できます。
給与支払事務所等の開設届出書
この給与支払事務所等の開設届出書も、法人設立に伴って提出が必要になる書類です。
この書類は、給与を支払う従業員がいる、いないに関わらず提出しなければなります。
つまり、社員が社長だけのひとり会社であっても、提出する必要があります。
給与支払事務所等の開設届出書の注意点は、次のとおりです。
- 提出先 … 法人の所在地の所轄税務署
- 添付書類 … 不要
- 記載内容
- 届出の内容及び理由 … □開業又は法人の設立に✔を入れる
- 従事員数 … 会社の状況に合わせて記入
- 提出期限 … 会社設立後、1ヶ月以内
- その他 … 社長のひとり会社であっても提出しなければならない
尚、給与支払事務所等の開設届出書は、こちらのサイトから入手できます。
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
毎月支払う役員報酬や給与からは、それらに掛かる所得税を源泉徴収しなければなりません。
源泉徴収した所得税は、会社が一括して毎月納付することになります。
しかし、小規模な中小企業など、給与を支払う人が10人未満の会社では、源泉所得税の納付を毎月納付ではなく、半年に1回の納付に変更することができます。
その半年に1回の納付に変更する書類が、この源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書になります。
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書の注意点は、次のとおりです。
- 提出先 … 法人の所在地の所轄税務署
- 添付書類 … 不要
- 記載内容
- 各月の支給金額欄
- 既に給与を支給した場合 … 支給月、人数、金額を記入
- まだ給与を支給していない場合 … 空欄のまま
- 各月の支給金額欄
- 提出期限 … 随時
- その他 … 給与の支払い対象者が10人未満の会社のみ
尚、源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書は、こちらのサイトから入手できます。
源泉徴収(げんせんちょうしゅう)とは
源泉徴収とは、役員や従業員に支払う給料から、その給料に掛かる所得税を天引きすることを言います。
この天引きされた所得税を、源泉所得税と言います。
源泉所得税は、給与から天引き後、会社が一括して納付することになります。
基本的には、毎月1回、給与の支払い付きの翌月10までに納付しなければなりません。
例)
- 10月25日 … 10月分の給与を支給
- 11月10日まで … 10月分の給与に係る源泉所得税を納付
- 以降、毎月同様の処理を行う
源泉所得税を納付するための納付書は、上記給与支払事務所等の開設届出書を提出すれば、税務署から郵送されます。
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書は、毎月納付する源泉所得税を半年に1回の納付に変更してくれる書類です。
具体的には、このようになります。
- 上半期(1月~6月)… 7月10日までに納付
- 下半期(7月~12月)… 翌年1月20日までに納付
このように、半年分の源泉所得税をまとめて納付することができます。
小規模な中小企業などでは、事務作業の簡略化のため、この源泉所得税の納期の特例の承認を受けている企業が多いです。
尚、源泉所得税に関しては、こちらの記事でまとめているので、参考にしてください。
以上で、会社設立後に税務署へ提出する届出書等の解説を終わります。
尚、これらの書類は、1枚ずつ提出するよりも、すべてまとめて提出した方が効率的なので、まとめて提出することをお勧めします。
都道府県及び市町村へ提出する書類
税務署と同様に、会社の所在地がある各地方自治体へも届出書を提出する必要があります。
税務署の管轄は国税ですが、各地方自治体は地方税を管轄します。
各地方自治体へ会社の設立届を提出することで、地方税の対象になります。
尚、地方自治体への会社の設立届は、次の2種類を提出する必要があります。
- 都道府県に対する設立届
- 市町村に対する設立届
例えば、大阪市に会社を設立した場合には、大阪府への届出書と大阪市への届出書の2つが必要になります。
ただ、書類の形式や名称が地方自治体によって異なります。
全地方自治体共通の届出書というものは存在しないため、各都道府県や市町村に問い合わせるか、ホームページ等で確認する必要があります。
ほとんどの地方自治体は、ホームページから該当書類をダウンロードできるようになっていますが、全てではありません。
ここでは、大阪府と大阪市の設立届を見本として掲載します。
【大阪府の法人設立等申告書】
【大阪市の法人設立・事務所等開設申告書】
このように、地方自治体によって、形式や名称が異なります。
尚、添付書類も地方自治体によって異なるので、注意してください。
【大阪府の添付書類】
- 定款のコピー
- 登記事項証明書(登記簿謄本)
【大阪市の添付書類】
- 定款のコピー
- 登記事項証明書(登記簿謄本)
- 株主名簿
前掲の大阪府と大阪市の設立届は、こちらから入手できます。
【大阪府】
【大阪市】
チェック!税務署の書類はPDFのみ
ここまで、税務署及び地方自治体への届出書について解説してきましたが、税務署もほとんどの地方自治体も、届出書をホームページ等からダウンロードすることができます。
多くの地方自治体では、ダウンロードできる届出書の形式として、複数の形式を選択できるようになっています。
例えば、大阪府であれば、PDF、Word、Excelの3種類から好きな形式を選択できます。
一方、税務署はPDFファイルのみの提供になっています。
PDFファイルだと、PDFを編集できるソフトが無ければ手書きする必要があります。
そろそろ税務署も、PDF以外の形式で提供して欲しいものです。
労働基準監督署及びハローワークへ提出する書類
会社設立時に1人でも従業員を雇う場合には、労働保険への加入手続きが必要となります。
労働保険には、次の2種類の保険があります。
- 労災保険
- 従業員が業務上や通勤上で怪我や病気などを受けた場合の保険です
- 労働基準監督署が管轄になります
- 雇用保険
- 従業員が失業したり休業したりした場合の保険です
- ハローワークが管轄になります
このように、労災保険と雇用保険を併せて、労働保険と呼んでいます。
それでは、提出先ごとに必要な書類を確認します。
労働基準監督署に提出する書類
労働基準監督署には、次の書類の提出が必要になります。
- 労働保険の保険関係成立届
- 保険関係が成立した日から10日以内
- 労働保険の概算保険料申告書
- 保険関係が成立した日から50日以内
- 雇用する従業員が10名を超えた場合には、就業規則届が必要となります。
- 保険関係が成立した日とは、事業を開始した日又は初めて従業員を雇った日になります。
これらの手続を自分で行う場合には、会社の所在地を管轄する労働基準監督署に直接出向くことをお勧めします。
基本的に、労働基準監督署では記入方法を丁寧に教えてくれます。
分からないことなどを質問しながら、その場で作成することもできます。
ハローワークに提出する書類
一方、ハローワークには次の書類を提出することになります。
- 雇用保険の適用事業所設置届
- 従業員を雇った日から10日以内
- 雇用保険の被保険者資格取得届
- 従業員を雇った日の翌月10日まで
こちらも労働基準監督署と同様に、これらもハローワークの窓口に直接出向いて、作成することをお勧めします。
ここで紹介した労働保険関係の書類は、その作成等が少々複雑になります。
そのため、自分で手続きをする場合には、労働基準監督署とハローワークに直接出向いて手続きをするのが最良の方法になります。
インターネットで時間を掛けて調べて、時間を掛けて作成するよりも、よほど効率的です。
また、労働保険は厚生労働省が監督しているので、こちらのサイトも参考になると思います。
年金事務所へ提出する書類
最後に、年金事務所へ提出する書類を確認します。
年金事務所では、いわゆる社会保険と呼ばれる保険の手続を行います。
社会保険とは、健康保険・介護保険・厚生年金保険の3種類の総称になります。
また、これらの社会保険は、会社を設立した場合にその加入が義務付けられます。
従業員の有無は関係なく、社長ひとりの会社であっても加入する義務があります。
会社の設立時に、年金事務所での手続きが必要になるものは、次の3つです。
- 健康保険・厚生年金保険新規適用届
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
- 健康保険被扶養者(異動)届
尚、この社会保険も労働保険同様に、会社設立に関連する手続きは少々複雑になります。
そのため、会社の所在地を管轄する年金事務所へ直接出向いて手続きをするのが良いでしょう。
全国の年金事務所の所在地は、こちらで確認できます。
その他、こちらのサイトが参考になると思うので、こちらも利用してください。