こんにちは。税理士の高荷です。
法人が青色申告を選択するためには、次の要件を満たす必要があります。
- 一定の帳簿書類を備え付けて取引を記録し、且つその書類を一定期間保存すること
- 税務署に青色申告の承認の申請書を提出して、税務署長の承認を受けること
今回は、この2つの要件のうち、1.の「一定の帳簿の記録と備付け」について解説したいと思います。
法人を設立した場合には、ほぼ100%青色申告を選択するため、この記事を参考に青色申告の要件を確認してください。
尚、「青色申告の承認申請書」については、こちらの記事で解説しています。
株式会社の設立方法【設立手順⑥ ~税務署や年金事務所などへの届出書等の提出~】
青色申告法人の帳簿書類の記載事項
最初に、青色申告を選択する法人(以下、「青色申告法人」と言います)が、帳簿に記載すべき内容について解説します。
青色申告法人は、その資産・負債及び資本に影響を及ぼす全ての取引を記録しなければなりません。
また、この記録は「複式簿記」により整然且つ明瞭に記録され、その記録に基づいて決算を行うこととされています。
青色申告法人の備え付けるべき帳簿にどのような事項を記載すべきかについては、下記のように規定されています。
【法人税法施行規則第54条】
別表二十に定めるところにより 、取引に関する事項を記載しなければならない
別表二十には、法人の帳簿の記載事項として、次の14項目が挙げられています。
【青色申告法人の帳簿に記載すべき14項目】
- 現金の出納に関する事項
- 当座預金の預入れ・引出しに関する事項
- 手形(融通手形を除く)上の債権債務に関する事項
- 売掛金(未成加工料その他売掛金と同様の性質を有するものを含む)に関する事項
- 買掛金(未払加工料その他買掛金と同様の性質を有するものを含む)に関する事項
- 2.から5.までに掲げるもの以外の債権債務に関する事項
- 有価証券(商品であるものを除く)に関する事項
- 減価償却資産に関する事項
- 繰延資産に関する事項
- 1.から4.まで及び6.から9.までに掲げるもの以外の資産(商品、製品、消耗品その他棚卸しにより整理するものを除く)に関する事項
- 売上げ(加工その他の役務の給付等売上げと同様の性質を有するものを含む)に関する事項
- 11.に掲げるもの以外の収入に関する事項
- 仕人れに関する事項
- 13.に掲げるもの以外の経費に関する事項
難しい表現で書いてある部分もありますが、法人が通常の営業活動を行ううえでの取引が、全て網羅されています。
要するに、法人の営業活動の「全て」を帳簿に記載することを要求していると解釈してください。
尚、誤解の無いように付け加えておきますが、上記の14項目は「帳簿への記載事項」であって「帳簿の種類」ではありません。
従って、例えば「現金出納帳」や「売掛帳」などの帳簿書類が14種類必要という意味ではありません。
通常、「仕訳帳」や「総勘定元帳」などの主要な帳簿は作成すると思いますが、帳簿の種類は何種類でもよく、それらの帳簿に上記14種類の項目が記載されていることが要件になります。
また、上記の他にも帳簿の種類等によっては、下記のように細かい規定も存在します。
【青色申告法人の帳簿に記載すべきその他の項目】
- 仕訳帳(取引の発生順に記載)
- 取引の年月日
- 内容
- 勘定科目
- 金額
- 総勘定元帳
- 勘定ごと(※1)の記載の年月日
- 相手方勘定科目
- 金額
- 棚卸資産(※2)
- 各事業年度終了の日に棚卸表を作成
- (※1)「勘定ごと」とは、「取引ごと」又は「仕訳ごと」と解釈してください。
- (※2)棚卸資産については、受払いに関する事項(いわゆる「受払い簿」)の作成は必要とされていません。
青色申告法人の帳簿書類等の保存期間と保存場所
続いては、前章で記録・作成した帳簿書類の保存に関する解説です。
まず、青色申告法人が保存しなければならない帳簿書類等は、次の5種類になります。
【青色申告法人が保存すべき帳簿書類等】
青色申告法人は、上記に掲げる5つの帳簿書類等を、次に掲げる期間、一定の場所で保存しなければなりません。
【青色申告法人の帳簿書類等の保存期間及び保存場所】
- 保存期間 … 原則7年間
- 帳簿
- 帳簿の閉鎖の日(決算日)の翌日から7年間
- 書類
- 受領日(作成日)の属する事業年度終了の日(決算日)の翌日から2月を経過した日から7年間
- 帳簿
- 保存場所 … 納税地
- 納税地
- 一般的には、本社(本店)の所在地
- 受領(作成)した注文書、契約書、送り状、領収書、見積書等の書類
- 受領(作成)した国内の事務所・事業所、支店その他これらに準ずるものの所在地でも可
- 納税地
青色申告法人の帳簿書類等の保存期間は、原則として7年間となっていますが、次の場合には保存期間が延長されます。
【青色申告法人の帳簿書類等の保存期間の例外】
- 平成20年4月1日以後に終了した欠損金の生じた事業年度
- 帳簿書類の保存期間は9年間
- 平成30年4月1日以後に開始する欠損金の生ずる事業年度
- 帳簿書類の保存期間は10年間
また、帳簿書類の保存方法は、紙ベースでの保存を前提としていますが、条件によって次の5つの保存方法があります。
【帳簿書類等の保存方法】
- 原則的な保存方法
- 帳簿書類の保存は、原則として紙媒体によります。
- パソコン等で作成した帳簿書類についても、印刷して紙ベースで保存する必要があります。
- マイクロフィルムによる保存方法
- 保存期間の6年目以降(受領・作成した注文書、契約書、送り状、領収書、見積書等の書類については4年目以降)の帳簿書類は、撮影式のマイクロフィルムによる保存が認められています。
- 撮影式のマイクロフィルムによる保存は、マイクロフィルムリーダーまたはマイクロフィルムリーダープリンターの設置が必要です。
- 電磁的記録による保存方法
- 最初の記録段階から一貫してパソコン等の電子計算機を使用して作成された帳簿書類のうち、一定の要件を満たすものは、サーバー・DVD・CDなどに記録した電子データのまま保存することができます。
- この場合には、管轄の税務署に対して一定の申請書を提出し承認を受けなければなりません。
- 一定の書類のスキャナー読取りの電磁的記録の保存方法
- 棚卸表や決算関係書類、3万円を超える取引の契約書や領収書など、重要性の高い帳簿書類以外のものについては、スキャナーで読取った電子データによる保存が認められています。
- 上記3.と同様に、税務署へ申請書を提出する必要があります。
- 電子計算機出力マイクロフィルム(COM)による保存方法
- 最初の記録段階から一貫してパソコン等の電子計算機を使用して作成する帳簿書類については、一定の要件下で、その電子データの電子計算機出力マイクロフィルム(COM)により保存することが可能です。
- この場合も3.及び4.と同じく、あらかじめ税務署長の承認を受けなければなりません。
商法及び会社法による帳簿の保存期間
ここまでは、税法における青色申告法人の帳簿書類に関する解説を行ってきました。
税法では、帳簿書類等の保存期間は、原則として7年間となっています。
税務調査などを考えれば、この7年間の保存期間を守れば良いことになります。
しかし、実は、税法以外の法律では、この帳簿書類等の保存期間が異なるのです。
【商法における帳簿書類等の保存期間】
商法第19条第3項
商人は、帳簿閉鎖の時から10年間、その商業帳簿及びその営業に関する重要な資料を保存しなければならない
【会社法における帳簿書類等の保存期間】
会社法第432条第2項(株式会社)
会計帳簿の閉鎖の時から10年間、その会計帳簿及びその事業に関する重要な資料を保存しなければならない
このように、商法も会社法も「10年間」を帳簿書類等の保存期間として定めています。
法人は、税法のみを遵守すれば良いのではなく、他の法律等で定められている規定も守らなければなりません。
税法上は7年間の保存期間であっても、他の法律で「10年間」と定められていれば、他の法律の規定に従うことになります。
従って、青色申告法人の帳簿書類等の保存期間は、次のようになります。
【青色申告法人の帳簿書類等の保存期間】
青色申告法人の帳簿書類等の保存期間は、10年間
以上で、青色申告法人の帳簿の保存期間と保存場所及び記載事項についての解説を終わります。