こんにちは。税理士の高荷です。
会社を経営する上で、在庫管理は非常に重要な要素になります。
過剰な在庫を持つことは、会社にとって悪影響を及ぼしますが、なぜ過剰な在庫が危険なのかをしっかりと理解している人は少ないと思います。
そこで今回は、過剰な在庫が会社経営に与える悪影響の仕組みと、その改善方法を解説します。
過剰在庫が与える悪影響とは
では早速、過剰在庫がなぜ会社経営に悪影響を与えるのかを説明します。
過剰な在庫が、会社に与える悪い影響は、以下の3点です。
- 資金繰りの悪化
- コストの増加
- 利益の圧迫
そのどれもが、会社経営に非常に重大なダメージを与えるものになります。
それでは、それぞれの内容を順番に解説します。
過剰在庫が招く資金繰りの悪化
余分な在庫を持つことで生まれる悪影響3つのうち、最も深刻なものは、この資金繰りの悪化と言えます。
この資金繰りの悪化の内容を文章で表すと、次ようになります。
上の文章の内容を、具体的な数字を使って説明します。
【過剰在庫の具体例】 小売業をしているA社の例
A社の当期の経営内容は、次のとおりです。
- 期首の商品在庫 100個(@600円)
- 当期の仕入 1,500個(@600円)
- 当期の売上 1,000個(@1,000円)
- 当期の経費 20万円
- 期末の商品在庫 600個(@600円)
取引は全て現金で行われ、他の要素は無視します。
このA社の当期の財務内容を、下に示します。
【期末商品在庫 600個の場合】
損益計算(利益) | キャッシュフロー(資金) | ||
---|---|---|---|
売上高 | 100万円 | 売上代金 | 100万円 |
売上原価 | △60万円 | 仕入代金 | △90万円 |
経費 | △20万円 | 経費支払 | △20万円 |
当期利益 | +20万円 | 手元資金 | △10万円 |
- 売上原価 = 期首商品在庫 + 仕入高 - 期末商品在庫
∴ 売上原価 =(100個 + 1,500個 - 600個)× @600円 = 60万円
A社は、当期の売上個数が1,000個のところ、商品を1,500個仕入れてしまっています。
この段階で、過剰な在庫600個が期末に残っています。
上記の表から分かるとおり、A社の当期利益は20万円の黒字となりましたが、キャッシュフローは△10万円となり、手元資金が不足状態になってしまいました。
では、販売個数と同数の仕入を行っていたら、どうなっていたでしょうか?
【適正在庫の具体例】 小売業をしているB社の例
B社の当期の経営内容は、次のとおりです。
- 期首の商品在庫 100個(@600円)
- 当期の仕入 1,000個(@600円)
- 当期の売上 1,000個(@1,000円)
- 当期の経費 20万円
- 期末の商品在庫 100個(@600円)
取引は全て現金で行われ、他の要素は無視します。
【期末商品在庫 100個の場合】
損益計算(利益) | キャッシュフロー(資金) | ||
---|---|---|---|
売上高 | 100万円 | 売上代金 | 100万円 |
売上原価 | △60万円 | 仕入代金 | △60万円 |
経費 | △20万円 | 経費支払 | △20万円 |
当期利益 | +20万円 | 手元資金 | +20万円 |
- 売上原価 = 期首商品在庫 + 仕入高 - 期末商品在庫
∴ 売上原価 =(100個 + 1,000個 - 100個)× @600円 = 60万円
B社は、売上個数1,000個に対して、商品を同数の1,000個仕入れています。
その結果、期末の在庫は100個となりました。
この場合には、B社の当期利益は20万円の黒字となり、キャッシュフローも+20万円で、手元資金が残ることになります。
A社とB社の違いは、下記の点と言えます。
- A社…商品は残っているが、資金が残らない
- B社…商品は残らないが、資金は残っている
これをまとめると、このようになります。
- A社は、資金が商品に置き換わった
- B社は、商品が資金に置き換わった
チェック!上記の場合においても、A社は翌期に残った在庫(600個)を販売することで、資金繰りを改善することができます。
しかし、当期に売れ残った商品が、翌期に必ず売れるとは限りません。
また、資金がショートしてしまっているため、販売活動自体ままならないかもしれません。
もちろん、過剰在庫600個が無事に売れて、資金繰りが改善されれば良いのですが、このような危険性をはらんだ経営が、良い経営方法と言えないことは確かです。
そして、過剰な在庫600個のうち、売れ残ってしまったものは「不良在庫」になります。
過剰在庫に係るコストの増加
小売業や流通業などは、商品を安く仕入れて高く売ることが商売の基本です。
ですから、ある程度の在庫は確保しておかなければなりません。
在庫を確保しておくメリットとしては、次のことが挙げられます。
- 商品の品切れを防ぐことができる
- 急な需要の増加にも対応することができる
- 大量に仕入れることで、商品の単価を安くできる
- クレームや不具合に対応できる
このようなメリットがある一方で、過剰な在庫を抱えてしまうと、それに比例するようにコストも増加します。
在庫を持つということは、それだけで下記のコストが発生することになります。
- 保管
- 維持
- 管理
- 移動
これらのコストは、在庫の大きさと個数に比例して増加します。
つまり、在庫が増えれば増えるほど、その在庫に係るコストが増加することになります。
前章で述べたように、過剰な在庫は資金繰りの悪化をもたらします。
そのうえで、さらに在庫に係るコストが増加したらどうなるでしょうか?
それは、さらなる資金繰りの悪化につながることになります。
過剰な在庫が利益を圧迫する
上の章で述べた、過剰な在庫に係るコストの増加は、会社の利益を圧迫します。
それと同時に、会社の利益を圧迫するのが、下記の要素です。
売れ残った過剰在庫が「不良在庫」になることは、既に述べたとおりです。
不良在庫とは、簡単に言うと「もう売れる見込みのない」在庫のことを言います。
この不良在庫を処分するためには、2つの方法が考えられます。
- 廃棄処分にする
- たたき売る
不良在庫は、会社に存在しているだけで悪影響を及ぼします。
なるべく早く処分することが求められるため、上記のような方法が採られることが多くなります。
不良在庫を廃棄する場合の注意点
不良在庫を処分する方法の1つとして、廃棄処分があります。
例えば、不良在庫500万円を廃棄した場合には、会計処理としてはこのようになります。
借方 | 貸方 |
商品廃棄損 500万円 | 商品 500万円 |
この仕訳により「商品廃棄損」という費用が発生し、会社の利益が減少することになります。
さらに、廃棄した商品の仕入代金500万円が無駄になってしまいます。溝に捨てたようなものです。
しかし、この不良在庫の廃棄処分には、1点だけ良い部分があります。
それは、
ということです。
費用が計上されて会社の利益を圧迫するということは、逆に言えば、利益が減って税金も減ることになります。
ですから、仕入れた代金は溝に捨てることになりますが、会社の節税方法としては有効になります。
今回は節税方法の解説ではないため詳細は省きますが、不良在庫の廃棄処分を節税方法として取り上げているサイトも多いので、それらのサイトを参考にしてください。
チェック!商品廃棄損は税務調査で狙われます
不良在庫を処分した場合には、商品廃棄損等の勘定科目を使って会社の費用に計上します。
そのため会社の節税になるのですが、不良在庫の廃棄処分は、高い確率で税務調査時に追及されます。
虚偽の廃棄処分として、多額の費用を計上することが簡単にできてしまうからです。
税務調査で追及されたときに、適正な廃棄処分であることが証明できなければ、その商品廃棄損等の費用は、否認されることになります。
そこで、不良在庫を処分する場合には、下記の資料を用意してください。
- 廃棄した理由を記載した書類
- 廃止した商品のリスト
(商品名、個数、仕入日、仕入代金など)- 廃棄した商品の写真・動画
(但し、必ず日付が分かるように)- 廃棄方法や廃棄を依頼した業者の詳細資料
(業者からの請求書など)これらの資料は、正当な理由があって在庫を処分したことの証明になる資料です。
これら以外の方法で証明ができるのであれば、その方法を用いても構いません。
また、どの業種であっても、これらの証明書類は必要になります。
不良在庫をたたき売る場合の注意点
もう一つの不良在庫の処分方法は、たたき売りです。
要するに、通常の販売価格よりも著しく低い価格で売りさばいてしまうことです。
この場合には、下記のことに重点を置いてください。
不良在庫は、会社に存在するだけで会社の利益にも資金繰りにも悪影響を与えます。
ですから、原価割れを起こそうが、利益が無かろうが、とにかく売り切ることが大事です。
- 不良在庫を無くすこと
- 少しでも資金を回収すること
この2点に重点を置いてください。
但し、業種によっては、次のようなデメリットもあります。
このようなデメリットが考えらる場合には、たたき売りとともに、廃棄処分にすることも検討してください。
チェック!どうしても不良在庫が処分できない場合
上記の方法を使用しても、どうしても不良在庫が処分できない場合には、下記の方法を使うことができます。
商品評価損の計上
在庫になっている商品などの棚卸資産について、下記に掲げる事項に該当する場合には、商品評価損を計上して、帳簿上の価額を時価まで下げることができます。
- 仕入価格など帳簿上の金額に比べて、実際の価額である時価が明らかに下落している場合
例えば、@1,000円で仕入れた商品の時価が、現在200円まで低下しているような場合には、1,000円と200円の差額800円を評価損として計上することができます。
借方 貸方 商品評価損 800円 商品 800円
この方法も、商品廃棄損と同様に会社の節税方法として勧められている方法です。
尚、商品評価損を計上できるのは、次のケースに該当する場合です。
- 季節商品などが売れ残った場合で、通常の価額では今後販売することができない場合
- 同じシリーズの新製品が発売されたことによって、従来の商品が今後通常の方法で販売することができない場合
- 破損、型崩れ、たなざらし、品質変化などによって、今後通常の方法で販売することができない場合
しかし、この商品評価損を計上するうえで、最も重要であり最も難しいことは、次のことになります。
その商品の時価を客観的に証明できるか?
この点さえクリアできれば、有効な節税方法であると言えますが、この時価を立証するのは非常に難しいのです。
さらに、単なる物価変動や過剰生産、建値の変更等の事情によって時価が低下しただけでは、評価損の計上は認められません。
何をもって、その商品の時価とするのかも重要です。
税務調査においても、評価損の計上根拠を詳細に調べます。
時価の根拠をきちんと証明できなければ、確実に否認されます。
ですから、他のサイトでは「評価損を計上すれば節税になります」と簡単に謳っていますが、
実務上は、それほど簡単なことではないのです。
過剰在庫の改善方法
ここまで、過剰在庫が会社の経営に与える悪影響について解説してきました。
次からは、過剰在庫を改善する方法について解説します。
尚、全ての業種に当てはまる方法になりますので、業種ごとに区分はしていません。
当たり前であるが故に実践されていない改善方法
一般的に過剰な在庫を改善するためには、次のようなことが必要だと言われています。
- 適正な在庫量の見極め
しかし、具体的にどのようにすれば良いかを解説しているサイトは、ほとんどありません。
- 過剰在庫が問題になっている ⇒ 適正な在庫管理をしましょう ⇒ 終わり
何の役にも立ちませんね。
在庫管理をするための、ちょっと難しい計算式や分析方法もあります。
しかし、それらを紹介したところで、どれだけの中小企業が実践してくれるのかは疑問です。
現実的に考えて、中小企業でも実施できるような在庫管理方法が求められます。
従業員が10名以下の中小企業においては、それほど多種多量の在庫を抱えている会社は、あまり無いと思います。
そこで今回は、中小企業に取り入れて欲しい、当たり前ではあるけれども、あまり実践されていないであろう、在庫管理方法について解説します。
在庫を管理する上で、最も重要なことは以下の3つです。
- 在庫の保管場所があること
- 在庫の出入りを正確に把握すること
- 正確に記帳(記録)されていること
そして、これら3つの点が、中小企業に実施して欲しい在庫管理方法になります。
これら3点の事が出来ていなければ、いくら在庫の管理システムソフト等を導入しても、宝の持ち腐れになります。
ここから、この3つの事項について解説していきます。
在庫の保管場所の確立と整理整頓
これは、在庫管理の基本中の基本になります。
しかし、意外とこれらのことができていない中小企業は多いのです。
在庫を管理する場所を確保する
これは、非常に重要です。
仕事場の中で、他の資料や備品などと一緒に、雑然と在庫を保存しているような会社も多かったりします。
本格的な倉庫とまでは言いませんが、別の部屋や別の場所など「在庫の保管場所」として独立するスペースを確保することをお勧めします。
在庫を管理する場所の整理・整頓をする
在庫の保管場所が確保できたら、その場所に在庫を整理整頓して保管します。
整理整頓の基準は、会社の任意で構いませんが、パッと見た時に、どこにどの商品があるのかが分かるように整理整頓することが大事になります。
そのためにも、分類棚の設置や保管場所の固定など、明確なルールを決めておいた方が良いでしょう。
在庫をデータ化するためにも、まずはこれらの基本が築かれていることが前提になります。
在庫の出入り(移動)の正確な把握
在庫の移動の管理については、徹底して管理することが望まれます。
つまり、
- いつ
- 誰が
- 何を
- どこに
- どんな理由で
移動したかを、正確に把握できる社内のシステム(体系)を作ることが重要になります。
難しく考える必要はありません。やり方はいたって簡単です。
- 原材料や商品などが入庫したら入庫データを、出庫したら出庫データを入力する。
データの入力方法は、会社のやり易いように決めたら良いと思いますが、大事なのは次の点です。
特に中小企業においては、下記の点を重点的に管理できるようにしてください。
- 社内での在庫の移動
- 在庫の勝手な持ち出し
チェック!在庫管理にバーコードシステム
中小企業においても、取り扱う商品などが多い場合には、バーコードやQRコードのシステムを導入するのも効果的な方法と言えます。
ハンディスキャナと在庫管理システムを連動させて、入出庫現場で現物を目視しながら数量を登録すれば、手入力による時間のロスやミスを防ぐことができます。
正確に記帳(記録)する
実地棚卸の結果と帳簿上の在庫の数字が合っていないということも、ありがちな事象です。
実地棚卸の結果と帳簿上の在庫の数字が合わない最たる原因は、以下の2点です。
- タイムリーな情報(伝票・データなど)入力ができていないこと
- 在庫と情報(伝票・データなど)を一致させる意識が欠如していること
これらの問題を解消するためには、会社全体で次の仕組みを作ることが必要になります。
前の章でも述べましたが、在庫が移動する際には、必ず移動情報が記録される必要があります。
在庫を持ち出してから後で記録する方法では、情報のミスとロスを発生させる可能性が高まります。
そのため、データを入力(伝票を起票)しない限り、在庫を持ち出せないような仕組みを作るなどして、在庫の移動と伝票(データ)が、セットで動くことを意識させることが重要になります。
在庫管理で重要なこと
この章では、過剰在庫を防ぐための在庫管理の方法として、以下の3点について解説しました。
- 在庫の保管場所があること
- 在庫の出入りを正確に把握すること
- 正確に記帳(記録)されていること
何となくお気づきかもしれませんが、今回解説した方法は、
会社の経営にとっては、過剰在庫を減らすことよりも大事なことがあります。
在庫の適正な管理をすることが、結果的に過剰在庫の削減につながります。
無理に過剰な在庫を削減することを考えるのではなく、自社の経営に適した在庫管理の方法を見つけることの方が、将来的な会社経営に必ず役に立ちます。
以上で、過剰在庫が会社経営に与える悪影響とその改善方法についての解説を終わります。
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