こんにちは、税理士の髙荷です。
さて、今回は「お酒」のお話です。
世の中にはお酒が大好きな人が大勢いて、毎日の晩酌を欠かさない人や、「お酒がないと生きて行けない」という人もいるでしょう。
そういえば、かつての会社の後輩も言ってましたっけ…
飲まなきゃやってられませんよ~
ということで、お酒のお話しなのですが「酒税」に関することではありません。
今回は、「お酒の産地」に関する内容を取り上げて解説したいと思います。
ワインに代表されるように「酒 = 土地(産地)」で評されることも多く、その地方のお酒を飲むことは、その土地を知り、歴史や文化を楽しむことだとも言われています。
そのため、お酒の容器のラベルには産地が記載されているわけですが、日本で造られるお酒についても、「産地 = ブランド」として定着しているものがあります。
このような、産地が有するブランド価値を保護するなどの目的で、一部の日本のお酒にはその産地とともに「地理的表示(GI、Geographical Indicationの略)」が付されています。
「地理的表示(GI)」は、国が認めた生産品に限り付すことができるもので、生産品の産地と併せて表示されます。
つまり、生産品が真正な産地品であることを公的に証する、いわば「国のお墨付き」と言えるものです。
(出典 農林水産省ホームページ 地理的表示及びGIマークの表示についてより)
地理的表示(GI)は、お酒だけでなく他の農林水産物食品についても付され、上図のようなマークが表示されているものが地理的表示(GI)の認可を受けた食品類ということになるのですが、実は、酒類と他の農林水産物食品では、地理的表示(GI)の取扱いが異なります。
- 酒類以外の農林水産物食品の地理的表示(GI)
- 農林水産省が管轄し、農林水産大臣が指定します。
- 上図のGIマークは、こちらの農林水産物食品に付されます。
- 酒類の地理的表示(GI)
- 国税庁が管轄し、国税庁長官が指定します。
- 上図のGIマークは、酒類には付されません。
- 国税庁は財務省の外局にあたります。
どういった理由で管轄する機関が分かれているのか、詳しい事情までは知りませんが、おそらく酒税との兼ね合いで、お酒に関する地理的表示(GI)は国税庁が受け持っているのだと思います。
因みに、酒類の製造免許や販売免許についても、許認可は国税庁(税務署)が行います。(酒類業界は、国税庁が管轄しています)
前置きが長くなりましたが、お酒に関する地理的表示(GI)については、お酒好きでもご存知ない方が多いかと思い、且つ国税庁が管轄しているということで、今回取り上げて解説することにしました。
尚、前述したように、国税庁は酒税だけでなく酒類全般に関して管轄しているので、その点も覚えてもらえたらと思います。
税金とは関係ない話ですが、最後までお付き合いください。
尚、こちらも税金とは直接関係のない話ですが、公的年金の仕組みやマクロ経済スライドについてまとめた記事です。
併せて参考にしていただければと思います。
国民年金と厚生年金の仕組みを歴史的背景も交えて分かりやすく解説します
マクロ経済スライドとは?その仕組みと計算方法を分かりやすく図解します
酒類の地理的表示(GI)とは
【酒類の地理的表示制度とは】
地理的表示制度は、酒類の確立した品質や社会的評価がその酒類の産地と本質的な繋がりがある(主として帰せられる)場合において、その産地名を独占的に名乗ることができる制度です。
この制度は、ヨーロッパを中心に古くから国際貿易の主要産品として取引されてきたワインの原産地呼称制度を起源とするものです。
日本では、WTO(世界貿易機関)の発足に際し、ぶどう酒と蒸留酒の地理的表示の保護が加盟国の義務とされたことから、国税庁が「地理的表示に関する表示基準」を平成6年に制定し、国内外の地理的表示について適正化を図ってきたところです。
国内の地理的表示としては、焼酎の「壱岐」、「球磨」、「琉球」、「薩摩」、清酒の「白山」、ぶどう酒の「山梨」の6産地を指定してまいりましたが、更なる制度の活用のため、平成27年10月に見直しを行い、地理的表示の指定を受けるための基準の明確化を行うとともに全ての酒類を制度の対象としました。
また、地理的表示として規定された一定の基準を満たした酒類であることを消費者が容易に見分けることができるよう、地理的表示を名乗る酒類には、そのラベルに「地理的表示○○」等の表示を行うことを義務化しました。
酒類への地理的表示の使用は、正しい産地であるかどうかを示すだけでなく、その品質についても一定の基準を満たした信頼できるものであることを示すこととなります。
(出典 国税庁 酒税課 酒類の地理的表示活用の手引き 一部抜粋)
簡単に言うと、お酒の地理的表示(GI)は、次のことを目的に創設・実施されている制度だと考えてください。
- 公的に認められた正しい産地であること証するため
- 一定の基準を満たして生産されたお酒であることを証するため
- 地域ブランド品を保護するため(独占表示が可能です)
- 消費者が地域ブランド品を適切に選べるようにするため
地理的表示(GI)を活用することで、生産者側のブランド価値を保護することができ、さらに向上させることができます。
また、消費者側からは、ブランド産地のお酒であることを容易に見分けることができ、購入時の利便性に繋がります。
冒頭で、お酒の地理的表示は、国税庁長官が指定すると述べましたが、これは、原則として産地からの申し立てに基づいて行われます。
産地からの申し立てを受け、次のような要件を満たしているか検討し、国税庁長官が指定することで、地理的表示(GI)は認められます。
- 酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性が明確であること
- 酒類の特性があり、それが確立していること
- 酒類の特性が酒類の産地に主として帰せられること
- 酒類の原料・製法等が明確であること
- 酒類の特性を維持するための管理が行われていること など
尚、地理的表示(GI)は、慎重かつ厳正に審理された公的な証明であるため、不正使用や産地偽装などが行われた場合には、行政が取締りを行い不正競争防止法違反や詐欺罪として扱われる場合もあります。(地理的表示は、知的財産権の一種です)
さらに、これも前述したとおり、酒類の地理的表示(GI)には、農林水産省が指定する地理的表示のような「GIマーク」がありません。
そのため、表示方法としては、下図のように表示されています。
(出典 国税庁 地理的表示のリーフレットより一部抜粋)
このように、決まったマークがあるのではなく、産地名とともに「地理的表示」・「Geographical Indication」・「GI」のいずれかの文字が併記される表示形式となります。
そのため、産地独自のGIマークを作成して、ラベルに表記するといった方法も可能です。
ですから、地理的表示(GI)の指定を受けている酒類は、必ず上記3つのいずれかの文字が表記されているので、消費者にとっては視認し易い制度と言えるでしょう。
参考【酒類について】
酒税法において酒類とは、アルコール分1度以上の飲料(飲用に供し得る程度まで水等を混和してそのアルコール分を薄めて1度以上の飲料とすることができるものや水等で溶解してアルコール分1度以上の飲料とすることができる粉末状のものを含みます。)をいいます。
ただし、アルコール事業法の適用を受けるもの(同法の規定する特定アルコールを精製し又はアルコール分を90度未満に薄めたもので、明らかに飲用以外の用途に供されると認められるものを含みます。)や医薬品医療機器等法の規定により製造(輸入販売を含みます。)の許可を受けたアルコール含有医薬品・医薬部外品などは酒税法上の酒類から除かれます。
(国税庁 種類の定義より)
また、酒類は、次の3つに分類することができます。
- 醸造酒
- 日本酒・ビール・ワイン
- 蒸留酒
- 焼酎・泡盛・ウイスキー・ブランデー・ウォッカ・ジン・ラム
- 混成酒
- ベルモット・リキュール・みりん・合成清酒
尚、上記には含まれていませんが、よく聞くお酒の種類として「清酒」があります。
清酒は、日本酒の一種として考えてもらって差し支えないかと思います。(以下に、酒税法による清酒の定義を掲載しておきます)
「清酒」とは、次に掲げる酒類をいう。
- 米、米こうじ及び水を原料として発酵させて、こしたもの
- 米、水及び清酒かす、米こうじその他政令で定める物品を原料として発酵させて、こしたもの(1.又は3.に該当するものを除く)
但し、その原料中当該政令で定める物品の重量の合計が米(こうじ米を含む)の重量を超えないものに限る- 清酒に清酒かすを加えて、こしたもの
現在の日本における地理的表示の状況
現在の日本における地理的表示(GI)の指定状況は、下図及び下表のようになっています。
(出典 国税庁 地理的表示のリーフレットより一部抜粋)
番号 | 名称 | 産地 | 指定日 | 酒類 |
---|---|---|---|---|
① | 北海道 | 北海道 | 平成30年6月28日 | ぶどう酒 |
② | 山形 | 山形県 | 平成28年12月16日 | 清酒 |
③ | 山梨 | 山梨県 | 平成25年7月16日 | ぶどう酒 |
④ | 白山 | 石川県白山市 | 平成17年12月22日 | 清酒 |
⑤ | 灘五郷 | 兵庫県神戸市灘区、東灘区、芦屋市、西宮市 | 平成30年6月28日 | 清酒 |
⑥ | 球磨 | 熊本県球磨郡及び人吉市 | 平成7年6月30日 | 蒸留酒 |
⑦ | 壱岐 | 長崎県壱岐市 | 平成7年6月30日 | 蒸留酒 |
⑧ | 薩摩 | 鹿児島県(奄美市及び大島郡を除く) | 平成17年12月22日 | 蒸留酒 |
⑨ | 琉球 | 沖縄県 | 平成7年6月30日 | 蒸留酒 |
⑩ | 日本酒 | 日本国 | 平成27年12月25日 | 清酒 |
- 平成31年(2019年)3月時点のデータです。
- 各地理的表示の詳細は、「名称」欄のリンク先を参照してください。(薩摩のみ、該当サイトがありません)
- 地理的表示「日本酒」については、後述します。
現在の日本における地理的表示(GI)は、上記のように全10種類となっています。(日本酒は、国の地理的表示なので、それを除けば9種類です)
平成27年度の見直しにより、全ての酒類が対象となったことを考えれば「案外少ないな」という印象を受けます。
関西では超有名な「灘の酒」も、指定されたのが平成30年ですから、もう少し多くてもいいのではと思いますが、これも、原則自己申請(申し立て)であることが影響しているのでしょうか。
さらに、地理的表示について国税庁が示している留意点として、次のような文章があります。
地理的表示の指定により、その産地の酒類のうち生産基準を満たした酒類だけが独占的に産地名を名乗ることができることとなります。
また、酒類販売業者等が行う広告における表示や店頭での販売促進のための表示等においても、適切に地理的表示を表示した酒類のみが産地名を名乗って販売することができることとなります。
他方、地理的表示の指定は、生産基準を満たさない酒類を製造している産地内の酒類製造業者や、それらの酒類を取扱う酒類販売業者等の事業活動に影響を及ぼす可能性があることに留意が必要です。
このようなことを踏まえ、地理的表示の指定に当たっては、検討の段階から産地内の酒類製造業者の合意形成を図っていただくことが肝要です。
また、地理的表示の指定を受けた後にどのように地理的表示を継続的に活用していくかについても十分に検討を行う必要があります。
(出典 国税庁 酒税課 酒類の地理的表示活用の手引き 一部抜粋)
上記のように、地理的表示(GI)の対象となり得るお酒を製造・販売している事業者だけではなく、周りの他の製造・販売事業者なども十分考慮に入れたうえで、申し立てを行う必要があると説いています。
このようなことも、現在9種類しか地理的表示として指定されていない理由かもしれません。
地理的表示「日本酒」について
最後に、前章でも少し触れた「日本酒」の地理的表示について解説します。
最初の「酒類の地理的表示(GI)とは」の章で述べたように、地理的表示(GI)は海外の影響とWTOの影響を受けています。
そのため、日本の代表酒である「日本酒」についても、その国際的ブランド価値の向上や輸出促進の観点から、地理的表示(GI)として指定されているのです。
日本酒を地理的表示(GI)として指定した目的は、次の効果を期待してのものです。
【地理的表示「日本酒」の効果】
地理的表示「日本酒」として表示を行うためには、原料の米に「国内産米のみ」を使い、且つ「日本国内」で製造された「清酒」でなければならないとされています。
そして、このことは、下記の効果をもたらすと期待されています。
- 外国産の米を使用した清酒や日本以外で製造された清酒が国内市場に流通したとしても、「日本酒」とは表示できないため、消費者にとって区別が容易になる。
- 海外に対して、「日本酒」が高品質で信頼できる日本の酒類であることをアピールできる。
- 海外においても、地理的表示「日本酒」が保護されるよう国際交渉を通じて各国に働きかけることにより、「日本酒」と日本以外で製造された清酒との差別化が図られ、「日本酒」のブランド価値向上を図ることができる。
尚、地理的表示「日本酒」を酒類の容器又は包装に表示する場合には、「地理的表示」・「Geographical Indication」・「GI」のいずれかの文字を併記する必要はありません。
また、日本酒は、米を原料としていれば日本産米でなくても名乗ることができます。(他の一定要件を満たしていることも必要ですが)
ただ、地理的表示を行うためには、日本産の米を使用しなければならないので、その点で、正に日本独自の「日本酒」としてのブランド化と言えるでしょう。
この地理的表示の効果かどうか分かりませんが、平成30年度の清酒の輸出状況は、対前年比119%となり、9年連続で過去最高を記録しているそうです。
(出典 国税庁 酒のしおり 平成31年3月)
ここまで解説したように、地理的表示(GI)の指定を受ければ、地域ブランドを独占表示でき、他の酒類との差別化を図ることができます。
我々消費者も、品質の良い美味しいお酒を選ぶことができ、双方にとって利点があります。
ただ、一方で、同地域内において地理的表示の基準を満たさない酒類を取り扱う事業者に対しては、大きな影響を及ぼす可能性もあります。
そうなると、地域としての酒産業の衰退につながる恐れも出てきます。
実際、酒税の税収は、ここ20数年あまり緩やかな減少傾向にあります。
そのため、地理的表示が一般化しているヨーロッパなどへの輸出効果を狙っている部分もあるのでしょうが、いずれにしろ、日本の酒産業の衰退ではく、更なる発展につながるような効果を期待したいと思います。