こんにちは、税理士の高荷です。
今回は、消費税の増税に伴う経過措置のうち、電気料金等に係る経過措置を取り上げます。
消費税の増税に伴い実施される経過措置には様々なものがありますが、電気料金等に係る経過措置は、企業にとっては水道光熱費・通信費等として、会計上欠かせない経費です。
また、一般の消費者にとっても影響が大きいと考えられます。
今回の記事の内容を参考に、消費税の増税に備えてもらえればと思います。
尚、消費税の増税に関する記事については、下記でまとめていますので、併せて参考にしていただければ幸いです。
消費税の経過措置とは
消費税が引き上げられれば、電気料金等に掛かる消費税も8%から10%へ変更されます。
しかし、消費税の増税にあわせて、一部の取引については「税率引上げに伴う経過措置」が実施されます。
この経過措置の内容は、次のとおりです。
一定の要件を満たす電気料金等についても、この経過措置が適用されることになります。
この経過措置の内容は「電気料金等」となっていますが、その範囲は電気料金だけではありません。
電気料金等の経過措置は、次の取引に対して適用されます。
【電気料金等に係る経過措置の範囲】
- 電気の供給
- ガスの供給
- 水道水又は工業用水の供給及び下水道を使用させる行為
- 電気通信役務の提供
- 熱供給及び温泉の供給
- 灯油の供給
このように、大きく分けて6つの取引が対象になります。
特に、4番の「電気通信役務の提供」には、注意が必要です。
この電子通信役務の提供には、現代の生活に欠かせない次のものが含まれます。
【電気通信役務の提供とは】
電話及びインターネット等
現代の生活に欠かすことのできないインターネット、携帯電話、スマホ、Wi-Fi、CATVなどの通信費も、一定の要件に該当すれば経過措置の対象になります。
そのため、われわれの生活にも関わってくる可能性があるので、次から電気料金等に係る経過措置の内容を詳しく解説していきます。
電気料金等に係る消費税の経過措置の内容
それでは、電気料金等に係る消費税の経過措置について解説します。
この、電気料金等に係る消費税の経過措置の内容は、次のとおりです。
電気料金等に係る経過措置
平成31年(2019年)9月30日以前から継続して供給・提供され、平成31年(2019年)10月1日以後に検針その他これに類する行為等で料金が確定するものについては、8%の消費税率を適用する。
但し、平成31(2019年)年10月1日から10月31日までに、検針等により料金が確定するものに限る。
つまり、電気代を例にすれば、下のような電気料金については8%の税率を適用することになります。
- 平成31年(2019年)9月30日以前から継続して電気の供給を受けている
- 平成31年(2019年)10月1日~同31日までの間に検針が終了し料金が確定している
続いては、上記に掲載したこの経過措置の適用要件の内容について、解説します。
継続的に供給し提供する必要がある
電気料金等に係る経過措置は、電気等の供給事業者が、電気等を契約に基づいて継続的に供給し、又は提供する必要があります。
ここでいう「継続的に供給し、又は提供する」とは、電気、ガス、水道の供給等を、不特定多数の者に対して継続して行うことはもちろん、供給規定等に基づく条件により、長期間にわたって継続して供給等することを意味します。
従って、例えばガス管によるガスの供給ではなく、プロパンガスの供給契約で、ボンベに取り付けられた内容量メーターにより使用量を把握し、料金が確定するものも含まれることになります。
支払を受ける権利(料金)を確定する必要がある
この電気料金等に係る経過措置を適用するためには、前述した継続供給の他、支払を受ける料金を確定させる必要があります。
具体的には、平成31(2019年)年10月1日から10月31日までに、検針等により料金が確定しなければなりません。
例えば、電気料金であれば、使用量を計量するために設けられた電力量計を定期的に検針することにより、一定期間における使用量を把握し、これに基づき料金を確定する必要があります。
このように、電気料金等に係る経過措置は、継続供給と料金の確定が、指定された期日までに行われているかどうかで適用の有無を判断することになります。
チェック!消費税の経過措置は選択適用ではありません
消費税の経過措置は、選択適用できるわけではありません。
消費税の経過措置は、強制適用です。
経過措置の要件に該当する場合には、必ず経過措置の税率(8%)を適用しなければなりません。
8%と10%のどちらかを選択して適用できるわけではない
経過措置に該当する場合には、注意してください。
電気料金等に係る経過措置の適用例
続いては、具体的な事例を用いて、電気料金等に係る経過措置の適用方法を解説します。
ここまでは、電気・ガス・水道等の取扱いを例にしてきましたが、ここからは電気通信役務の提供についても解説します。
携帯電話等の料金について
世の中には、非常に分かりにくい料金体系になっている商品やサービスが存在します。
今までは、そういった商品の代表例は「保険」でした。
しかし、近年では「携帯電話(スマホ)」の料金体系も、われわれ消費者にとっては複雑極まりないものとなっています。
ここでは、電気料金等に係る経過措置が適用される携帯電話等の料金について解説します。
携帯電話等の電気通信役務の提供であっても、経過措置に対する原則的な考え方は変わりません。
つまり、まずは下記の要件を満たしていることが、条件になります。
電気料金等に係る経過措置
平成31年(2019年)9月30日以前から継続して供給・提供され、平成31年(2019年)10月1日以後に検針その他これに類する行為等で料金が確定するものについては、8%の消費税率を適用する。
但し、平成31(2019年)年10月1日から10月31日までに、検針等により料金が確定するものに限る。
後は、ぞれぞれの個別事例を上記の要件に当てはめて判断することになります。
では、次のようなケースでは、経過措置の取扱いはどのようになるのでしょうか?
例1)
月々の携帯電話の料金について、下記の料金を一括して請求する場合
- 基本料(定額)
- 付加機能使用料及び通話料(通話量に応じたもの)
尚、他の経過措置の要件は満たしている。
【回答】
この場合の通信料金は、経過措置の対象となります
上記の場合のポイントは、「一括して請求している」という点です。
電気料金等に係る役務の提供は、検針その他これに類する行為等で料金を確定する必要があります。
そのため、定額制の基本料金はこの要件に該当しません。
しかし、通話量に応じて料金を決定する付加機能使用料と通話料と一緒に基本料も請求しているため、全額経過措置の対象になるのです。
もし、料金の請求が「基本料のみ」の場合には、経過措置の対象にはなりません。
インターネット通信料金について
現在のわれわれの生活に深く関わりのあるものとして、インターネットが挙げられます。
携帯電話(スマホ)同様に、インターネットなしの生活は考えられない人も多いかと思います。
そこで、続いてはインターネットの通信料金について、電気料金等に係る経過措置の適用関係を解説します。
インターネット料金は定額の料金制を採っているプロバイダ等が多いかと思います。
先ほど携帯電話等の章でも述べましたが、月々の使用量に関係なく定額料金となっている電気通信役務の提供は、経過措置の対象になりません。
では、電気通信役務の料金設定が多段階定額制となっている場合には、同のように取り扱うのでしょうか?
例2)
「使用量Aまでは○○円、使用量Aを超えた場合には××円とする」といったような段階制定額料金の場合
尚、他の経過措置の要件は満たしている。
【回答】
この場合の通信料金は、経過措置の対象となります
上記の例2)のような多段階制の定額料金は、その使用量に応じて料金の支払を受ける権利が確定します。
そのため、要件を満たせば経過措置の対象になります。
固定電話、携帯電話(スマホ)、インターネット、Wi-FiやCATVなどの電気通信役務の提供に係る経過措置の適用については、次のようにまとめることができます。
【電気通信役務の提供に係る経過措置】
- 使用した分だけ料金が発生する従量制 … 経過措置の対象になる
- 使用量に関わらず料金が決まっている定額制 … 経過措置の対象にならない
- 1.と2.を併用した多段階定額制 … 経過措置の対象になる
- 1.と2.(又は3.)を一括して請求した場合 … 経過措置の対象になる
テナントから受け取る貸しビルの電気代について
最後に、不動産の賃貸借に関連してよくあるケースの経過措置について解説します。
下のようなケースでは、テナントから受け取る電気料金は、経過措置の対象になるのでしょうか?
例3)
自社が所有しているビルの一部をテナントに賃貸している場合
- 自社所有のビルの一部をテナントに貸している
- ビル全体の電気については自社が電力会社と契約している
- 毎月テナントからテナント使用分の電気料金を受け取っている
- 電力会社への支払は自社が行っている
尚、他の経過措置の要件は満たしている。
【回答】
この場合の電気料金は、経過措置の対象とはなりません
電気料金等に係る経過措置の適用要件とされる継続供給は、その供給を不特定多数の者に対して行う契約である必要があります。
上記の例3)の取引は、自社の所有するビルのテナントに、電気等の供給を行う事業者から購入した電気等を販売する取引に該当します。
従って、自社がテナントから受け取る電気代は、不特定多数の者に対して行う電気等の供給契約ではないため、電気料金等に係る経過措置は適用されません。
以上で、電気料金(通信料金)等に係る消費税の経過措置の解説を終わります。
消費税増税後に実施される主な経過措置
参考資料として、今回の消費税の増税に伴って実施される、主な経過措置を紹介します。
消費税増税後に実施される経過措置は、旅客運賃や電気料金等に関するものだけではありません。
1、旅客運賃等
平成31年(2019年)10月1日以後に行う旅客運送の対価や映画・演劇を催す場所、競馬場、競輪場、美術館、遊園地等への入場料金等のうち、平成26年4月1日から平成31年(2019年)9月30日までの間に領収しているもの
尚、旅客運賃等に関する経過措置は、こちらの記事でまとめています。
2、電気料金等
継続供給契約に基づき、平成31年(2019年)10月1日前から継続して供給している電気、ガス、水道、電話、灯油に係る料金等で、平成31年(2019年)10月1日から平成31年(2019年)10月31日までの間に料金の支払いを受ける権利が確定するもの
今回の記事の内容は、この電気料金等に係る経過措置になります。
3、請負工事等
平成25年10月1日から平成31年(2019年)3月31日までの間に締結した工事(製造を含みます。)に係る請負契約(一定の要件に該当する測量、設計及びソフトウエアの開発等に係る請負契約を含みます。)に基づき、平成31年(2019年)10月1日以後に課税資産の譲渡等を行う場合における、当該課税資産の譲渡等
尚、請負工事に関する経過措置は、こちらの記事でまとめています。
4、資産の貸付け
平成25年10月1日から平成31年(2019年)3月31日までの間に締結した資産の貸付けに係る契約に基づき、平成31年(2019年)10月1日前から同日以後引き続き貸付けを行っている場合(一定の要件に該当するものに限ります。)における、平成31年(2019年)10月1日以後に行う当該資産の貸付け
尚、資産の貸付け(家賃)に関する経過措置は、こちらの記事でまとめています。
5、指定役務の提供
平成25年10月1日から平成31年(2019年)3月31日までの間に締結した役務の提供に係る契約で当該契約の性質上役務の提供の時期をあらかじめ定めることができないもので、当該役務の提供に先立って対価の全部又は一部が分割で支払われる契約(割賦販売法に規定する前払式特定取引に係る契約のうち、指定役務の提供(*)に係るものをいいます。)に基づき、平成31年(2019年)10月1日以後に当該役務の提供を行う場合において、当該契約の内容が一定の要件に該当する役務の提供
*「指定役務の提供」とは、冠婚葬祭のための施設の提供その他の便益の提供に係る役務の提供をいいます。
6、予約販売に係る書籍等
平成31年(2019年)4月1日前に締結した不特定多数の者に対する定期継続供給契約に基づき譲渡される書籍その他の物品に係る対価を平成31年(2019年)10月1日前に領収している場合で、その譲渡が平成31年(2019年)10月1日以後に行われるもの
※軽減税率が適用される取引については、本経過措置の適用はありません。
7、特定新聞
不特定多数の者に週、月その他の一定の期間を周期として定期的に発行される新聞で、発行者が指定する発売日が平成31年(2019年)10月1日前であるもののうち、その譲渡が平成31年(2019年)10月1日以後に行われるもの
※軽減税率が適用される取引については、本経過措置の適用はありません。
8、通信販売
通信販売の方法により商品を販売する事業者が、平成31年(2019年)4月1日前にその販売価格等の条件を提示し、又は提示する準備を完了した場合において、平成31年(2019年)10月1日前に申込みを受け、提示した条件に従って平成31年(2019年)10月1日以後に行われる商品の販売
※軽減税率が適用される取引については、本経過措置の適用はありません。
尚、通信販売(インターネット販売)に関する経過措置は、こちらの記事でまとめています。
【消費税10%への増税】インターネット販売(通信販売)に係る経過措置
9、有料老人ホーム
平成25年10月1日から平成31年(2019年)3月31日までの間に締結した有料老人ホームに係る終身入居契約(入居期間中の介護料金が入居一時金として支払われるなど一定の要件を満たすものに限ります。)に基づき、平成31年(2019年)10月1日前から同日以後引き続き介護に係る役務の提供を行っている場合における、平成31年(2019年)10月1日以後に行われる当該入居一時金に対応する役務の提供
10、特定家庭用機器再商品化法(家電リサイクル法)に規定する再商品化等
家電リサイクル法に規定する製造業者等が、同法に規定する特定家庭用機器廃棄物の再商品化等に係る対価を平成31年(2019年)10月1日前に領収している場合(同法の規定に基づき小売業者が領収している場合も含みます。)で、当該対価の領収に係る再商品化等が平成31年(2019年)10月1日以後に行われるもの
(出典 国税庁 タックスアンサー 社会保障と税の一体改革関係)
以上10項目が、消費税の増税に伴って実施される経過措置です。
これらの10項目について、記載されている要件を満たせば、8%の税率が適用されます。
尚、5番、6番、7番、9番及び10番の経過措置については、こちらの記事でまとめています。
消費税増税後の適用税率の判定方法と経過措置の適用要件【消費税10%への増税】
また、上記10種類には含まれていませんが、リース取引に係る経過措置について、別枠でまとめています。