こんにちは。税理士の高荷です。
前回の記事では「非課税通勤手当」を利用した節税方法等について解説しました。
今回は「出張手当」を利用した節税方法等を紹介します。
通勤手当も出張手当も「旅費交通費」として、多くの企業に関係する経費になります。
又、出張に関しては国内のみならず国外出張も当たり前の時代です。
ですから「多くの企業で実施できる節税方法」と言えるため、その仕組みから節税方法まで詳しく解説したいと思います。
尚、前回の非課税通勤手当を利用した節税方法の記事はこちらです。
非課税通勤手当(交通費)を利用した節税方法【現物給与を利用した節税】
出張旅費と出張手当の違い
出張手当を使った節税方法について解説する前に、まずは次の事を確認してください。
出張旅費も出張手当も、出張に係る経費なので同じ内容に思えますが、実は内容が異なります。
- 出張旅費 … 出張に掛かった費用を、実費精算したもの
- 出張手当 … 出張旅費規程等の内規で決められた手当
会社によって呼称は様々かと思いますが、一般的には上のように区別されます。
特に「出張手当」の方は「出張日当」や「旅費日当」、単に「日当」という言い方をされたりしますが、内容はみな同じです。
今回の記事内では「出張旅費」と「出張手当」という表現で、統一したいと思います。
以下の内容もそれに沿ってお読みください。
出張旅費とは
それでは、まず出張旅費の内容から解説します。
前述したように、出張旅費の定義は、次のようになります。
- 出張旅費 … 出張に掛かった費用を、実費精算したもの
会社の指示で遠方へ出張に行った場合には、交通費や宿泊代が掛かります。
この出張に掛かった費用は、会社の業務に関わるものなので、当然会社の経費になります。
しかし、無条件で会社の経費になるわけではありません。
従業員からの旅費精算書と領収書を基に実費精算して、はじめて会社の経費として計上することができます。
これは、会社が旅費を先払いする場合でも、出張後に精算する場合でも同じです。
これが、出張旅費になります。
出張旅費は、会社として当然に計上すべき経費です。
従って、これを経費として計上することは、節税には該当しません。
ですから、冒頭で述べたようになるのです。
参考までに、出張旅費の簡単な仕訳を掲載します。(出張に掛かった費用 16,000円)
【会社が先払いする場合】
1、先払い時
借方 | 貸方 |
仮払旅費 20,000円 | 現金預金 20,000円 |
2、実費精算後
借方 | 貸方 |
旅費交通費 16,000円 | 仮払旅費 20,000円 |
現金預金 4,000円 |
【出張後に実費精算した場合】
借方 | 貸方 |
旅費交通費 16,000円 | 現金預金 16,000円 |
出張手当とは
続いては、出張手当に関する解説になります。
出張手当とは、次の内容であると述べました。
- 出張手当 … 出張旅費規程等の内規で決められた手当
具体的には、どのような内容になるのでしょうか。
先ほど解説した出張旅費は、出張に掛かる全ての経費について、実費精算を原則としています。
しかし、実際の出張に掛かる経費は、現地までの交通費と宿泊代だけではありません。
現地での交通費や食費・備品等の購入費や通信費も発生します。
これら全ての経費を実費精算するのが理想ですが、実務上それは理想論でしかありません。
現実的にはこれら全ての経費を精算することは、従業員・会社双方にとって大変な手間になります。
さらに、これらの費用は出張の目的地や期間・役職などによっても変わることから、出張する人の数が多くなればなるほど(会社の規模が大きくなればなるほど)実務上、実費精算が難しくなります。
その問題を解決するために、作られた制度が「出張手当」です。
出張手当は、出張時の費用について社内で旅費規程等の内規を整備し、決められた手当(日当)を出張者に支払うことが認められた制度です。
その特徴をまとめると、次のようになります。
【出張手当の特徴】
- 出張手当は、食事代や備品代・通信費等の雑多な経費を実費精算しなくて済むようにするための制度である
- 実費精算が可能な交通費や宿泊費については、基本的に出張手当の対象にならない
- 出張手当を支給するためには、旅費規程が整備されていなくてはならない
- 旅費規程が無ければ、出張手当は支給できない
出張手当を利用した節税方法と仕訳
それでは、出張手当を使った具体的な節税方法を、仕訳を見ながら説明していきます。
出張手当が節税になるのは、次の理由からです。
- 本来経費ではない費用を、会社側で経費として計上できる
- 出張者が受け取った出張手当には、所得税が課税されない(年収に含まれない)
この節税効果を受けるためには、適正な支給方法と会計処理が必要になります。
出張手当の支給方法は会社が任意に決められるため、いくつかの方法が考えられます。
しかし、一般的には次のような支給方法が多いのではないかと思います。
前章の出張手当の特徴の1番で述べたとおり、出張手当は、実務上の出張費用に対する実費精算の煩雑さを解消する目的で定めるものです。
そのため、金額がはっきりしており、比較的領収書の数も少ない交通費は、出張手当の対象とならないのが普通です。
又、交通費を出張手当として固定額で支給するのは実務上と税務上の観点から、非常に困難だからです。(詳しくはこの後のコラムをご覧ください)
従って、交通費のみ実費精算を行い、その他の費用については別途出張手当を支給するという内容の規定が一般的だと思います。
出張手当が、会社にとって節税になるのは、この点が理由になります。
- 実費精算分の出張旅費
- 別途支給した出張手当
上記の1番と2番を、ともに会社の経費にすることができるからです。
又、出張手当を貰った出張者も所得税が課税されることはありません。
実際に、出張手当を利用した節税を、数字と仕訳使って確認します。
【出張手当を使用した節税の例】
- 出張者は、下図のような旅費精算書を作成する
- 会社側が支給する出張手当は、下記のとおり(下図の黄色部分)
- 宿泊費 … 10,000円
- 日当 … 5,000円
- 交通費62,700円は実費精算
- 出張後に精算
- 食事代・通信費及びその他は記載する必要がないのですが、便宜上記載しています。
【上記出張手当を使用した節税の例の仕訳】
借方 貸方 摘要 旅費交通費 62,700円 現金預金 77,700円 出張費精算 旅費交通費 15,000円 出張日当・宿泊費
- 出張手当(日当・宿泊費)の部分を、「給与」として仕訳をしている例もありますが、「旅費交通費」で問題ありません。
上記の例の特徴(節税)をまとめると、次のようになります。
- 交通費以外の費用(食事代・通信費及びその他の費用)は、精算する必要がない
- 上記の例では、食事代・通信費及びその他の費用(3,830円)が、日当(5,000円)よりも少ないため、差額の1,170円分節税になります
- 宿泊費を出張手当として固定支給(10,000円)する
- そのため、実際の宿泊費が10,000円未満であれば節税になります。
- 逆に、10,000円以上の場合は節税になりません。
- 出張日当・宿泊費として支給した15,000円は非課税になる
- 出張者が受け取った15,000円には、所得税が掛かりません(年収に含まれません)。
この例では、節税額は大したことありませんが、塵も積もれば山となります。
出張が多ければ、それだけ節税に繋がります。
但し、この節税方法は、実際にお金の出金を伴います。
そのため、税金を減らすという意味では節税になりますが、同時に会社のキャッシュが減ることにもなります。
特に従業員の出張が多い場合には、資金繰りが悪化する可能性もあるので注意してください。
しかし、従業員の少ない中小企業で、且つ社長本人の出張が多いというケースでは、会社から出ていくお金は社長個人の懐に入ります。
そのお金を会社に還元できれば、結果的に節税に繋がると言えます。
コラム交通費を通勤手当とするのはムリなのです
前の章で、旅費規程を作成して出張手当を支給する目的は、食事代や備品代・通信費等の雑多な経費を実費精算しなくて済むようにするためと書きました。
そのため、交通費や宿泊費は実費精算が基本だとも。
しかし、旅費規程の内容は会社の任意なので、交通費や宿泊費についても旅費規定により固定の出張手当として支給する旨を定めても構いません。
ただ、実際に旅費規程を作成してもらえば判るのですが、宿泊費はまだしも交通費を固定の出張手当として規定するのは、非常に難しいのです。
まず、出張手当を旅費規程で定める場合には、その金額が「合理的な金額」でなければならないとされています。
具体的には、下記のようになります。
- 役員と従業員の支給額のバランスが取れている
- 同業他社と比べて高すぎない支給額である
ですから、まずは常識的な金額に設定する必要があるということになります。
続いて、交通費を出張手当として支給する際の基準となる材料ですが、これは2つあります。
- 出張先までの距離
- 使用する交通機関(交通手段)
材料としては2つだけですが、この2つを組み合わせる場合を考えてみます。
複数の出張先があり、出張の手段として利用できる交通機関(交通手段)も複数ある場合には、それぞれの組み合わせに応じた合理的な金額を定める必要があります。
さらに、現地で使った交通費も含むことになれば、一層複雑になります。
出張には必ず新幹線や電車を使わなければならないわけではありません。
業務に支障が出なければ、飛行機や車やバスなどを使っても構わないのです。
出張先もずっと一緒というわけではありません。
今後増えることもあるでしょうし、場所が変わることもあるでしょう。
そういったことを全て考慮して、交通費に掛かる出張手当を一律に決めるのは無理だと思いませんか?
私なら、作りません。
【新幹線や航空機のチケットは、消費税の増税に伴う経過措置の対象になります】
旅費規程作成に関する注意点
さて、最後に旅費規程を作成する場合の注意点を解説します。
尚、旅費規程のサンプルは、こちらに掲載しています。
旅費規程そのものは、上のサンプルを参考にしてもらうとして、ここでは作成上のポイントを取り上げて解説します。
出張手当の合理的な金額の決め方
コラムでも書きましたが、出張手当の金額は「通常必要と認められる合理的な金額」でなければなりません。
税法特有の曖昧な表現なので絶対の正解はありませんが、お勧めの方法としては下記の方法があります。
それが無理であれば、私なら次のようにします。
【国内出張 宿泊費+日当の場合】
- 一般従業員 ⇒ 10,000円前後
- 課長クラス ⇒ 12,000円前後
- 部長クラス ⇒ 15,000円前後
- 社長 ⇒ 18,000円前後
あくまでも参考です。
出張手当の範囲を明確にしておく
例えば出張に伴う食事代は、一般的には出張手当に含まれるものと考えられますが、どこかの法律で決まっているわけではありません。
そのため、食事代を出張手当に含むのか含まないのかを、旅費規程ではっきりと決めておく必要があります。
又、食事代だけではなく、どこまでの範囲を出張手当に含めるのか(通信費や備品代など)は明確に記載しておいた方が良いと思います。
明確な線引きがある方が、出張する人も会社側も迷わずに済むので、事務手続きも煩雑になりません。
出張旅費精算書(出張報告書)の作成を義務付ける
出張手当は、旅費規程と出張旅費精算書(名称は何でもいいです)とのセットで支給しましょう。
税務調査の際に、旅費規程と帳簿だけでは出張の裏付けが取れません。
そのため、必ず出張旅費精算書等の作成を旅費規程内で定めて下さい。
出張旅費精算書がなければ出張手当は支給しない旨定めておけば、出張者は必ず作成します。
その際に、必ず責任者(上司や担当部署の責任者、又は社長)の承認を受けるシステムにして下さい。
できれば海外旅費規程も作成しておく
旅費規程を作成するのであれば、同時に海外の出張に対応できる「海外旅費規程」も作成しておくのが望ましいです。
海外への出張は、国内の出張とは異なる部分も多いため、滅多に海外には行かないという場合であっても、作成しておいた方がいざというときに困らずに済みます。
因みに、通常の旅費規程内で海外出張に関する項目を規定していない場合には、通常の旅費規程を海外出張用に準用することはできませんので、ご注意ください。
尚、海外旅費規程のサンプルは、こちらに掲載しています。
最後に簡単な注意点
出張手当を支給することは、会社にとっても出張者にとってもメリットが大きいものになります。
しかし、出張手当の解釈や金額などを取り違えると、逆に両者にとってのデメリットになります。
出張手当は、その回数や金額が多くなればなるほど、税務調査で目を付けられやすくなります。
支給する金額において明確な基準がなく「合理的な金額」とされているため、税務署としても否認できる要素が多いからです。
しかし、一般常識や同業他社の状況等に照らして「合理的な金額」を設定しているのであれば、全く心配する必要はありません。
確かに会社のキャッシュを伴う節税方法ではありますが、無理な設定をせずに利用する限りは、合法的で手軽な節税方法と言えます。
従って、まだ旅費規程等を整備していない会社には、是非活用してもらいたいと思います。
最後に、前回お話しした「非課税通勤費」は社会保険上の収入計算に含まれましたが、今回の「出張手当」は社会保険上の収入計算には含まれません。
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