外貨建資産・負債の期末時の換算方法
前章までで、外貨建ての資産・負債(貸借対照表に計上される勘定科目だと考えてください)の円換算の方法(仕訳)について解説しました。
外貨建ての取引については、基本的に「取引発生時の為替相場」で円換算しますが、売掛金や買掛金のように、期末(決算日)において円換算が必要なものもあれば、前受金・前払金のように、決算日の換算を要しないものもあります。
従って、ここでは、外貨建ての資産・負債について、それぞれの種類ごとに、期末時(決算日)の円換算の方法を解説します。
期末時の換算方法の種類
外貨建資産・負債の、期末(決算日)における換算は、次のいずれかの方法によります。
- 取引発生時の為替相場による換算
- 決算日時点の為替相場による換算
上記1.の「取引発生時の為替相場による換算」とは、言い換えれば「期末(決算日)には円換算しない」ということと同じ意味です。
因みに、取引発生時の為替相場のことを「HR(Historical Rateの略)」と呼び、決算日時点の為替相場のことを「CR(Current Rateの略)」と呼びます。
特に覚える必要はありませんが、他の外貨建取引を解説しているサイトなどでも良く出てくる略語なので、参考までに。
また、上記の2つの方法は、法人自ら選択できる場合もあります。
法人自ら選択する場合には、原則として、選択事業年度の確定申告期限までに、所轄の税務署に「外貨建資産等の期末換算方法等の届出書」を提出する必要があります。
この「外貨建資産等の期末換算方法等の届出書」を提出した場合には、法人自ら選択した方法により外貨建取引の期末時換算を行い、届出書を提出していないものについては、法律によって規定される「法定換算方法」により期末時の換算を行います。
それでは、資産・負債の種類ごとに、法人の期末時(決算日)の円換算の方法を解説します。
外貨建債権・債務の換算方法
外貨建ての債権・債務については、次の方法により、期末換算を行います。
【短期外貨建債権・債務】
- 外貨建資産等の期末換算方法等の届出書を提出する場合(法人自ら選択する場合)
- 次のいずれか好きな方を選択できます。
- 取引発生時の為替相場による換算
- 決算日時点の為替相場による換算
- 外貨建資産等の期末換算方法等の届出書を提出しない場合(法定換算方法)
- 必ず「決算日時点の為替相場による換算」になります。
- 債権・債務とは
- 債権とは、売掛金や貸付金など、お金をもらう権利のあるものを言います。
- 債務とは、買掛金や借入金など、お金を支払う義務のあるものを言います。
- 短期とは
- 債権・債務の決済日が、当期末(決算日)の翌日から1年以内に到来するものを言います。
- 売掛金や買掛金は、「短期」に該当しますが、「貸付金・借入金」は、通常「短期」には該当しません。
【長期外貨建債権・債務】
- 外貨建資産等の期末換算方法等の届出書を提出する場合(法人自ら選択する場合)
- 次のいずれか好きな方を選択できます。
- 取引発生時の為替相場による換算
- 決算日時点の為替相場による換算
- 外貨建資産等の期末換算方法等の届出書を提出しない場合(法定換算方法)
- 必ず「取引発生時の為替相場による換算」になります。
- 長期債権・債務に該当するもの
- 長期債権・債務は、短期以外のものになるため、一般的には貸付金・借入金が代表的なものとして挙げられます。
- 長期債権・債務の法定換算方法は「取引発生時の為替相場による換算」なので、間違わないようにしてください。
- 前受金・前払金の取扱い
- 前受金・前払金は、ここに規定する外貨建債権・債務(短期・長期いずれも)には該当しません。
- そのため、期末(決算日)に円換算する必要が無いのです。
外貨建有価証券の換算方法
外貨建有価証券の期末時の円換算の方法は、次のようになります。
【売買目的有価証券】
- 売買目的有価証券は、法人自ら期末の換算方法を選択することができません。
- 必ず「決算日時点の為替相場による換算」になります。
【売買目的外有価証券】
- 外貨建資産等の期末換算方法等の届出書を提出する場合(法人自ら選択する場合)
- 次のいずれか好きな方を選択できます。
- 取引発生時の為替相場による換算
- 決算日時点の為替相場による換算
- 外貨建資産等の期末換算方法等の届出書を提出しない場合(法定換算方法)
- 必ず「取引発生時の為替相場による換算」になります。
- 売買目的外有価証券とは
- ここに掲げる売買目的外有価証券とは、償還期限及び償還金額の定めのあるものを言います。
【上記に掲げる以外の有価証券】
- 売買目的有価証券及び売買目的外有価証券以外の有価証券は、法人自ら、期末の換算方法を選択することができません。
- 必ず「取引発生時の為替相場による換算」になります。
外貨預金及び外国通貨などの換算方法
外貨預金と外国通貨については、それぞれ別々に、期末時の換算方法が定められています。
【短期外貨預金】
- 外貨建資産等の期末換算方法等の届出書を提出する場合(法人自ら選択する場合)
- 次のいずれか好きな方を選択できます。
- 取引発生時の為替相場による換算
- 決算日時点の為替相場による換算
- 外貨建資産等の期末換算方法等の届出書を提出しない場合(法定換算方法)
- 必ず「決算日時点の為替相場による換算」になります。
- 短期とは
- 決済日が、当期末(決算日)の翌日から1年以内に到来するものを言います。
【長期外貨預金】
- 外貨建資産等の期末換算方法等の届出書を提出する場合(法人自ら選択する場合)
- 次のいずれか好きな方を選択できます。
- 取引発生時の為替相場による換算
- 決算日時点の為替相場による換算
- 外貨建資産等の期末換算方法等の届出書を提出しない場合(法定換算方法)
- 必ず「取引発生時の為替相場による換算」になります。
- 長期外貨預金は、短期外貨預金以外のものになり、「取引発生時の為替相場による換算」を行うので、間違わないようにしてください。
【外国通貨】
- 外国通貨は、法人自ら期末の換算方法を選択することができません。
- 必ず「決算日時点の為替相場による換算」になります。
【その他の資産・負債】
- 外貨建取引において取得した棚卸資産・有形固定資産・無形固定資産及び繰延資産は、「取引発生時の為替相場」により円換算します。(決算日には円換算を行いません)
- 外貨建未収収益・未払費用は、「決算日時点の為替相場」により円換算を行います。
円換算のやりかた
最後に、外貨建取引の円換算のやり方を解説します。
外貨建取引の円換算の方法は、次のような「外国為替相場(前掲したものと同じです)」に基づいて行います。
【外国為替相場一覧の例】
上図を見てもらえれば判るように、外国為替相場には、通常「TTS」・「TTB」及び「TTM」と3つの数字があります。
- TTS(Telegraphic Transfer Selling rate)
- 「対顧客電信売相場」のことを言います。
- 銀行が顧客に外貨を売るときのレートであり、顧客の側から見た場合は「買値」となります。
- TTB(Telegraphic Transfer Buying rate)
- 「対顧客電信買相場」のことを言います。
- 銀行が顧客から外貨を買うときのレートをであり、顧客の側から見た場合は「売値」となります。
- TTM(Telegraphic Transfer Middle rate)
- 「電信売買相場の仲値」のことを言います。
- TTSとTTBの間(MIDDLE)のレートをいい、外貨建取引の換算には、通常このレートを使用します。
上記の3.の解説にもあるように、原則的には「TTM」を使用して、円換算を行います。
従って、例えば100ドルの売掛金であれば、100ドル × 110.99円(TTM)= 11,099円、78ポンドの買掛金であれば、78ポンド × 142.64円(TTM)= 11,125円(円未満切捨て)という具合に計算します。
尚、外国為替相場を使って円換算を行ううえで、注意して欲しいことがいくつかあります。
【外国為替相場を使ううえでの注意点】
- 原則として、自社の主たる取引銀行の外国為替相場を使って換算する
- 外国為替相場は、金融機関等のサイトで確認することができますが、参考にするサイトによって微妙に金額が異なります。
- そのため、原則として自社のメインバンクの外国為替相場を使用することになっています。
- 但し、必ずメインバンクでなければならない、というわけではないので、他の金融機関の外国為替相場を使っても構いません。
- 継続して同じ外国為替相場を使用する
- 今日はA銀行の為替相場、次の日はB証券会社の為替相場、明日はC銀行の…というように、使用する外国為替相場を変えることは良くありません。
- 先ほど述べたように、金融機関等によって外国為替相場が異なるため、同じ為替相場を継続して使用しないと、適正な期間損益計算ができなくなります。
- 継続して使用するのであれば、TTS又はTTBを使用しても構わない
- 上記と同じ理由で、継続して使用するのであればTTMでなくても、TTS又はTTBを使って換算していも構いません。
- 外国為替相場は「取引日」の相場を使用するのが原則ですが、継続適用を要件に、次の方法も認められます。
- 取引日の属する一定日の外国為替相場を使用して換算する方法
- 取引月の初日又は前月末日
- 取引週の初日又は前週末日 など
- 取引日の属する一定期間の平均値を使用して換算する方法
- 取引月の前月平均相場
- 取引週の前週平均相場 など
色々ごちゃごちゃと書きましたが、要は「同じ金融機関等」の「同じ外国為替相場」を「継続してずっと」使っていれば問題はありません。
また、過去の外国為替相場も見れるようになっているサイトが多いので、過去にさかのぼって外国為替相場を調べることも可能です。
以上で、外貨建取引の基本的な換算方法についての解説を終わります。