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相続時精算課税
贈与税の課税方式には、次の2つの種類があると述べました。
- 暦年課税
- 相続時精算課税
ここまでは、1番の暦年課税について解説してきたので、ここからは2番の相続時精算課税について解説します。
相続時精算課税とは、簡単に言うと、次の内容になると説明しました。
2.相続時精算課税
相続税精算課税の場合は、1/1~12/31までの1年間に譲り受けた財産から、2,500万円の特別控除ができます。
2,500万円の特別控除をした残額に、贈与税が掛かることになります。
しかしこれだけでは、相続時精算課税の1/10も解説していないため、まずは相続時精算課税の制度の内容から解説します。
相続時精算課税とは
相続時精算課税とは、次の内容の制度になります。
- 贈与者は、60歳以上の父母(又は祖父母)
- 受贈者は、20歳以上の子(又は孫)
- 贈与による財産の金額が、累計2,500万円までは非課税
- 累計2,500万円を超える部分は、一律20%で課税される
- 相続時精算課税を適用した贈与は、相続時に相続財産に加算される
- 相続時精算課税を適用すると、暦年課税に変更できない
- 相続時精算課税を適用するためには、贈与税の申告が必要
相続時精算課税の内容を、ざっと箇条書きにしました。
上記の7つの項目が、相続時精算課税の内容になりますが、さらに相続時精算課税の特徴として、次の点が挙げられます。
後ほど解説しますが、相続時精算課税は節税方法というよりも、税金の支払いを後に伸ばす、先送り制度になります。
それでは、上記の相続時精算課税の内容の7つを、順番に解説していきます。
相続時精算課税の対象者
相続時精算課税が適用できる人は、次に掲げる人になります。
- 贈与者 … 60歳以上の父母(又は祖父母)
- 受贈者 … 20歳以上で、下記のいずれかの人
- 贈与者の直系卑属である推定相続人
- 孫
尚、年齢の判定は、贈与を行った年の1月1日時点で、上記の年齢に達しているかどうかで判定します。
また、相続時精算課税は、贈与者ごとに適用できるため、例えば父からは暦年課税、母からは相続時精算課税とすることもできます。
チェック!贈与者の推定相続人とは
贈与をした日現在において、その贈与者の相続人のうち、最も先順位の相続権(代襲相続権を含みます)のある人をいいます。
適用対象者となるのは、推定相続人のうち20歳以上の直系卑属です。
孫は、推定相続人になる、ならないにかかわらず20歳以上であれば適用対象者となります。
従って、養子縁組をしていない義父母からの贈与は相続時精算課税の制度を適用できません。
この推定相続人であるかどうかの判定は、その贈与の日において行います。
相続時精算課税による贈与税の計算
相続時精算課税のおける贈与税の計算のポイントは、次に掲げる点になります。
- 1年間(1/1~12/31)に贈与を受けた財産の合計額を基に、贈与税額を計算する
- 贈与財産の合計額から、特別控除額(2,500万円)を控除する
- 前年以前に、既にこの特別控除額を控除している場合は、残額が控除額となる
- 特別控除額で控除しきれなかった贈与財産の合計額に、20%の税率を乗じる
それでは、具体的な数字を使って贈与税を計算します。
例)相続時精算課税による贈与税の計算
- 贈与者 … 父(相続時精算課税)
- 贈与者 … 母(暦年課税)
- 受贈者 … 子
尚、年齢等の要件は、満たしているものとします。
【平成28年】
- 父から2,000万円贈与
贈与税 = 2,000万円 - 2,500万円 = 0円 ∴ゼロ
(特別控除残額 500万円)
【平成29年】
- 父から500万円贈与
- 母から110万円贈与
父の贈与税 = 500万円 - 500万円 = 0円 ∴ゼロ
(特別控除残額 0円)
母の贈与税 = 110万円 - 110万円 = 0円 ∴ゼロ
(母からの贈与は暦年課税)
【平成30年】
- 父から1,000万円贈与
- 贈与税 = 1,000万円 - 0円 = 1,000万円 × 20% = 200万円 ∴200万円
相続時精算課税による相続財産に加算する金額
相続時精算課税は、贈与者が死亡したときの相続税の財産に、その贈与者から貰った贈与財産の金額を相続財産に加算することになります。
考え方としては、生前贈与加算と同じような考え方になります。
先ほどの例で説明すると、このようになります。
例)相続時精算課税による相続財産に加算する金額
- 贈与者 … 父(相続時精算課税)
- 贈与者 … 母(暦年課税)
- 受贈者 … 子
尚、年齢等の要件は、満たしているものとします。
【平成28年】
- 父から2,000万円贈与
贈与税 = 2,000万円 - 2,500万円 = 0円 ∴ゼロ
(特別控除残額 500万円)
【平成29年】
- 父から500万円贈与
- 母から110万円贈与
父の贈与税 = 500万円 - 500万円 = 0円 ∴ゼロ
(特別控除残額 0円)
母の贈与税 = 110万円 - 110万円 = 0円 ∴ゼロ
(母からの贈与は暦年課税)
【平成30年】
- 父から1,000万円贈与
- 贈与税 = 1,000万円 - 0円 = 1,000万円 × 20% = 200万円 ∴200万円
【後年】
- 父が死亡 相続財産 1億円
- 相続財産に加算する贈与財産(上記の黄色マーカー)
2,000万円 + 500万円 + 1,000万円 = 3,500万円- 最終的な相続財産
1億円 + 3,500万円 = 1億3,500万円尚、納付済みの贈与税200万円は、相続税から控除することができます。
また、加算される贈与税の金額は、贈与時の価格(贈与時の時価)になります。
相続時精算課税の注意点
続いては、相続時精算課税の注意点について解説します。
相続時精算課税を適用すると、暦年課税に変更できない
相続時精算課税は、自動継続であり、途中解約もできません。
一度、相続時精算課税を採用してしまうと、一生その制度を使わなければならないことになります。
暦年課税の場合は、110万円までしか非課税となりませんが、確実に財産を減らして節税することができます。
一方、相続時精算課税は、2,500万まで非課税になりますが、結局は全額相続税に加算されることになるため、将来の相続税を減らす効果は一切ありません。
相続時精算課税を適用するためには、贈与税の申告が必要
相続時精算課税を適用した場合には、必ず贈与税の申告をする必要があります。
- 贈与税がゼロであっても、申告は必要です
- 贈与を受ける都度、申告しなければなりません
- 贈与がない年については、申告不要です
さらに、相続時精算課税適用後、初めて申告をする場合と、2回目以降の申告では添付書類が変わります。
初めて申告をする場合には、次の書類を贈与税の申告書に添付する必要があります。
- 相続時精算課税選択届出書
- 受贈者が贈与者の直系卑属(子や孫)である推定相続人である場合
- 受贈者の戸籍の謄本又は抄本その他の書類で、次の内容を証する書類
- 受贈者の氏名、生年月日
- 受贈者が贈与者の推定相続人である子又は孫であること
- 受贈者の戸籍の附票の写しその他の書類で、受贈者が20歳に達した時以後の住所又は居所を証する書類
- 贈与者の住民票の写しその他の書類(贈与者の戸籍の附票の写しなど)で、次の内容を証する書類
- 贈与者の氏名、生年月日
- 贈与者が60歳に達した時以後の住所又は居所
- 受贈者の戸籍の謄本又は抄本その他の書類で、次の内容を証する書類
2回目以降の贈与税の申告においては、上記の添付書類は必要ありません。(申告書のみ提出します)
【参考 相続時精算課税選択届出書】
相続時精算課税は納税の先送りである
相続時精算課税は、一時的に贈与税が掛からないというメリットがあります。
しかし、結局は贈与財産の全額が相続税に加算されることになるため、将来の相続税を減らす効果は一切ありません。
贈与時に払う税金を、相続時まで先送りしたのと同じことになるのです。
そのため、相続時精算課税は、一般的には下記のような人にお薦めの制度と言えます。
- 将来、相続税が掛からない人(掛からない可能性が高い人)
相続時精算課税についてのまとめ
最後に、相続時精算課税についての内容と特徴などをまとめます。
【贈与税の相続時精算課税のまとめ】
特徴 | 内容 |
---|---|
贈与者 | 60歳以上の父母、又は祖父母 |
受贈者 | 基本的には20歳以上の子供、又は孫 |
贈与財産 | 制限なし |
課税期間 | 暦年(1/1~12/31) |
特別控除(非課税枠) | 累計2,500万円 |
納税者 | 受贈者 |
申告 | 贈与の都度必要 |
申告(納付)期限 | 3月15日 |
注意点 | 暦年課税への変更不可 |
節税効果 | 将来相続税が掛からない人には有効 |
相続時精算課税は、贈与税の負担なし、又は少ない負担で、多額の財産を贈与できるというメリットがあります。
しかし、現実的な節税効果があまりないこと、暦年課税への変更ができないこと、申告等の手続が煩雑なことなど、デメリットも少なからずあります。
そのため、2,500万円の非課税枠だけに囚われずに、十分な検討をしたうえで適用することをお勧めします。
生活費や教育費の贈与は贈与税の対象とならない
ここまで、贈与税の暦年課税と相続時精算課税について解説してきました。
しかし財産の性質や、贈与の目的によっては、金額に関わらず贈与税が掛からないものもあります。
- 生活費や教育費のために贈与された財産のうち、通常必要と認められるもの
- 結婚費用や出産費用の一部
これらに該当すれば、金額に関わらず子供や孫に大きなお金を贈与することができます。
非課税になる生活費・教育費などの範囲
【非課税になる生活費】
生活費は、通常の生活をするのに必要な費用をいいます。
また、治療費や養育費その他これらに準ずるものを含みます。
具体的には、以下のような贈与が非課税とされています。(生活費として通常必要と認められる範囲内に限ります)
- 子供の生活費の仕送り
- 一人暮らしをしている子供の家賃
- 結婚資金(新婚後の家具・家電の購入費や結婚式・披露宴の費用に充てている場合)
- 出産費用(出産のための検査費用、入院費用、治療費用、不妊治療の費用、ベビー用品代など)
【非課税になる教育費】
教育費は、教育を受けさせるための学資、教材費、文具費等で義務教育費に限られません。
その他通学のための交通費、学級費、修学旅行参加費、海外留学のための学校費用や渡航費も、通常必要と認められる範囲内であれば非課税となります。
【非課税になるポイント】
これらの贈与が非課税になるポイントは、次の点になります。
必要な都度、必要なだけ贈与する
上記の各費用を、必要な都度、必要なだけ渡すことが重要になります。
例えば、分割払いの3年間の学費であれば、3年分を受贈者に一括で渡すのではなく、学校への支払いが必要なタイミングで、必要な分を贈与者から直接学校へ支払うといった具合になります。
逆に、数年間分の生活費や教育費を一括して贈与した場合は注意が必要です。
生活費・教育費として使わなかった分が預貯金として残っている場合などには、その金額に贈与税が課税される可能性があります。
【扶養義務者以外からの贈与】
これらの贈与は、基本的に扶養義務者からの贈与が対象になります。
しかし、扶養義務者以外の親族や他人からの贈与でも、お祝儀や弔慰金、入学祝、結婚祝い、出産祝いなども、社会常識の範囲内であれば非課税とされています。
尚、扶養義務者とは、配偶者、直系血族、兄弟姉妹、三親等内の親族で生計を一にする者を言います。
尚、贈与税について適用できる特例制度については、下記の記事でまとめていますので、併せて参考にしてください。
夫婦間で贈与があった場合の配偶者控除の特例【おしどり贈与の特例】
住宅取得等資金の贈与税の非課税制度【非課税額と適用要件など】
以上で、贈与税の仕組みと計算方法についての解説を終わります。