こんにちは。税理士の高荷です。
仮想通貨が世に注目され始めてから、もう数年が過ぎようとしています。
既にインターネット上では、仮想通貨の情報が溢れかえっている状況です。
仮想通貨の取引は、主に個人でしている人が多いと思いますが、大幅な利益が出た場合には税負担がかなり大きくなります。
これはたくさんのサイトで書かれている事なので、ご存知の人も多いと思います。
そこで、法人化を利用した仮想通貨の節税を薦めるサイト(ブログ)などが注目されています。
しかし、仮想通貨の節税のために法人を利用することは、メリットもありますがデメリットもあります。
私個人としては、デメリットの方が大きいと感じています。
仮想通貨を法人で運用するには、多方面からの十分な検討が必要です。
そこで今回は、法人化前に検討して欲しい、税金に関わる3つの事項について解説します。
法人で仮想通貨を運用するメリットは確かにある
まずは、法人で仮想通貨を運用する場合の、税制上のメリットを解説します。
こちらが本題ではないので、簡単に触れるだけにします。
仮想通貨を法人で運用する場合の、税制上のメリット
- 法人の方が最高税率が低い
個人の場合では最高税率55%、法人の場合は最高でも約30%です。- 経費にできるものが増える(プラス、節税方法が多い)
法人であれば給料・減価償却費などが計上できるほか、事業に関する経費は基本的にすべて算入できるため、個人で運用する場合に比べて利益を減らすことができます。- 繰越欠損金が使える(赤字を繰り越せる)
法人の場合は、赤字であれば欠損金(赤字分)を最大10年間繰り越せます。また、黒字の場合は、過去の欠損金(赤字分)と相殺することも可能です。
仮想通貨の税制に関するサイトでは、当然メリットと合わせてデメリットも書かれています。
しかし「メリットの方を強調している」サイトが多いように見受けられます。
確かに、現在の法律では法人(会社)を作ることは簡単です。
簡単だからと言って「じゃあ法人でやろうか」と、あまり深く考えずに法人化するのは、
尚、次からの解説は「元々個人で運用していた仮想通貨を、新規に法人で運用する場合」
を想定しています。具体的には、次のようなケースです。
- 個人が、新規に法人を設立して運用する
- 既存の法人に、個人の仮想通貨を移行して運用する
尚、株式会社の設立方法については、こちらの記事でまとめています。
法人で仮想通貨を運用する場合の、重要な問題点
法人で仮想通貨を運用する場合に想定される問題点はいくつかありますが、その中でも真剣に検討してもらいたい問題点を3つ取り上げます。
以下、それぞれについて説明します。
本当に仮想通貨の帳簿をつけられるのか?
法人税法は、法人に対して「帳簿の作成及び保存」を義務付けています。
正確には「青色申告者」に対して義務付けていますが、法人で青色申告をしない理由は見当たらないため、ここでは「法人に対して」としています。
さて「帳簿の作成」と言われても、「何をすればいいのか分からない」という人のために、もう少し噛み砕いて言いうと、このようになります。
さらに、加えて次のことも必要です。
通常の法人であれば、会計ソフト等を使ってパソコンで帳簿を作成していると思います。
会計ソフト等を使って自分で帳簿を作成している人や、法人の経理を担当している人には分かると思いますが、この帳簿の作成は結構な手間が掛かります。
仮想通貨の取引が年に1、2回だけなら、なんてことありません。
しかし、考えてみて下さい。
仮想通貨をわざわざ法人で運用する目的は、節税のためです。
節税するのは利益が出ているからです。
利益が出ているということは「ある程度の取引量があり」「複数の仮想通貨を運用し」「複数の口座(取引所)を利用している」ことが考えられます。
大きく利益を上げるためにFXで取引しているかもしれません。
そうなると、これら毎月・毎週若しくは毎日行う取引の全てについて、帳簿を作成し証拠資料を残す必要があります。
どうでしょうか?
さらに、もう一つ帳簿の作成で問題になる点があります。
この原価計算は、会社の利益を計算するにあたって非常に重要ですが、同時に非常に複雑でもあります。
利益を計算するためには『売上 - 原価 = 利益』で計算します。
この『原価』を計算するのが原価計算です。
具体的に、下の例で説明します。
仮想通貨の原価計算(基礎)
仮想通貨の原価計算は、原則として「移動平均法」という方法を用いて計算します。
例外として「総平均法」という方法も、継続して使うことを要件に認められていますが、今回は、原則的方法の「移動平均法」を使って説明します。
移動平均法とは、購入の都度、原価を計算する方法です。簡単な計算例を用いて、移動平均法で原価を計算してみます。
尚、計算にはBTC(ビットコインの通貨単位)を使います。
例1)一番簡単な例
- 4月1日 2BTCを200円で購入
- 4月5日 1BTCを150円で売却
【原価及び利益計算】
- 売上=150円
- 原価=100円(200円÷2BTC)
- 利益=50円(150円-100円)
例2)2回取引がある場合
- 4月1日 0.1BTCを120円で購入
- 4月2日 0.2BTCを210円で購入
- 4月3日 0.2BTCを300円で売却(①)残0.1BTC
- 4月4日 0.3BTCを370円で購入
- 4月5日 0.1BTCを150円で売却(②)残0.3BTC
【原価及び利益計算】
①の場合
- 売上=300円
- 原価=220円
- (120円+210円)÷(0.1BTC+0.2BTC)×0.2BTC
- 利益=80円(300円-220円)
①の売却後残りの0.1BTCの原価
- 残り0.1BTC=110円
- (120円+210円)÷(0.1BTC+0.2BTC)×0.1BTC
②の場合
- 売上=150円
- 原価=120円
- (110円+370円)÷(0.1BTC+0.3BTC)×0.1BTC
- 利益=30円(150円-120円)
②の売却後残りの0.3BTCの原価
- 残り0.3BTC=360円
- (110円+370円)÷(0.1BTC+0.3BTC)×0.3BTC
以降、取引が発生すれば、同じ計算の繰り返し。
今回は移動平均法で計算しましたが、総平均法でも計算することが可能です。
総平均法の方が計算が簡単ですが、移動平均法と比べて「正確な利益が計算できない可能性がある」ため、ここでは割愛しています。
いかがでしょうか?
たったこれだけの取引でも、充分複雑で面倒です。
しかも、実際の仮想通貨の取引は、こんな単純なものではありません。
基本的には、この計算を全ての取引に対して行わないといけません。
仮想通貨の取引を自動で計算してくれるソフトもあるようですが、海外の取引所には対応していなかったり、バグがあった場合に取り返しのつかないことになったり、完全に信用できるかと言えば疑問が残ります。
そもそも原価計算の仕組みが分かっていないと、正しい利益が出ているのかどうかすら分からないという根本的な問題もあります。
これらを全て解決したうえで、法人として運用が可能かどうか判断する必要があります。
法人で仮想通貨を運用する場合の問題点1つ目。
個人の仮想通貨を会社へ移行すること
2つ目の問題点は、法人を設立するにしろ、既存の法人を利用するにしろ、個人の資産(仮想通貨)を法人に移す必要がある、という点です。
文章で「資産を移す」と書けば簡単そうですが、実際には次の取引として扱います。
この場合には、個人から法人へ仮想通貨を売却した時点で、個人の利確(利益確定)になります。
ということは、個人側の含み益が大きい時に法人へ売却すると、(売却時だけですが)個人側で課税されることになり、個人で税金を負担することになってしまいます。
それやったら、安い金額で売ればエエんちゃう?
その点についても、税法は対応しています。
次にまとめたので、ご覧ください。
個人から法人へ資産を移転する場合
個人から法人へ資産(仮想通貨)を移転(売却)する場合には、以下のような注意点があります。
- 売却価格は、売却時の時価である
- 時価よりも、著しく低い価格で売却した場合
- 個人側=時価で売却したとみなされて、課税される
- 法人側=時価との差額が、受贈益(利益)となる
- 著しく低い価格とは、概ね時価の1/2以下の価格を言い、例えば、時価の2/3の金額で売却した場合でも「相当の理由」が無い限り2.と同様の措置が取られると思われます。
- タダで法人へ贈与した場合
- 上記2.と同様、時価で売却したものとみなされる
- ※法人の株主が、個人の親族等の場合には「みなし贈与」として、株主にも課税される可能性があります。
その他に「法人に対して貸し付ける」という方法もありますが、貸付の場合は「所有権自体は個人」のままです。
貸付けの場合には、「個人の口座を法人で運用する」ことになるのではないかと思います。
その場合には、税務署から、明らかな租税回避行為と取られる可能性があります。
また、法人で口座を開設し、その口座へ資金を移動(貸付)することもできますが、契約書を整備し利息を取っていたとしても、売却と取られる可能性も無いとは言えません。
貸付の方法をとる前に、関連する法律・税制を確認・検討することをおすすめします。
いずれにしても、法人と個人の資金(口座)をきっちりと別のモノとして管理することが望ましいでしょう。
2つ目の問題点。
将来どうなるか分からない
3つ目の問題点として挙げられるのは『仮想通貨の将来』の問題です。
これが最大の問題点と言えるかもしれません。
ここで言う『仮想通貨の将来』とは、以下の2つの事です。
- 仮想通貨の投資手段としての将来
- 仮想通貨の税制上の将来
現在は、ある種のブームと言ってもよい仮想通貨ですが、その投資手段としての将来が保証されているわけではでありません。
ネット上の記事を見ると『将来性は大いにある』とする記事が多いように思えます。
確かに、仮想通貨の技術(ブロックチェーンなど)は、大いに将来性があると思います。
そういった記事を書かれている方々も、仮想通貨の技術に対する将来性について述べている人が大半であり、投資手段としての将来性には懐疑的な人もいます。
それらの人達は、仮想通貨や世界経済の専門家だと思いますので、信じるに足る根拠や理由もしかっりと書かれています。
しかし、実際のところは誰にも分かりません。
又、仮想通貨そのものに将来性があるかどうかも大きな問題ですが、仮想通貨の税制面に焦点を当ててても、その将来性は不確実です。
仮想通貨に関する各種法整備も進んではいますが、現在進行形であることは否めません。
現在、仮想通貨を個人で取引する場合は、所得税法に従い、雑所得として所得税が課されることになります。
今まで述べてきた『仮想通貨を法人で運用する』最大の理由もここにあります。
現行の税制では、仮想通貨で大きな利益が出た場合に、個人の税負担が大きすぎるためです。
この税制上の取り扱いに関しても、将来どうなるか分かりません。
私見では、ほぼ確実に税制上の改正等はあると思いますが、それが納税者にとって妥協できるモノであるか不利なモノになるかは、今後の「仮想通貨そのものの将来」とも関わってきます。
(税金は「納税者にとって有利」には絶対にならないため「妥協」という表現にしています)
世界的に仮想通貨が発展の一途をたどり、世界経済に欠かせないものになる(又は、なりうる)と政府が判断すれば、経済市場の活性化等のため「ある程度納税者が妥協できる」税制になる可能性はあると思いますし、その逆であれば「不利な税制」になる可能性もあります。
従いまして、今後の法律(税制)次第では「法人で仮想通貨を運用するメリットがなくなる」可能性も、大いにあり得るということです。
これが、3つ目の問題点です。
以上の3点が、仮想通貨を法人(法人化)で運用する前に検討してもらいたいことになります。
一税理士として
最後に、このような内容のブログを書いた一税理士としてお話ししたいと思います。
今まで述べてきたような点を検討されても「やっぱり法人(法人化)で運用する」という方はいらっしゃると思います。
今回のブログの内容は「仮想通貨を法人(法人化)で運用するな!」ということではなく「法人(法人化)で運用する前に、検討してもらいたいこと」です。
ですから、法人(法人化)で運用する・しないは、各人が決めることであって、当ブログでは何も言うつもりはありませんが、もし法人(法人化)で運用する場合、おそらくほとんどの人は税理士に依頼すると思います。
依頼された内容にもよりますが、もし仮想通貨に関する処理(経理・税務全般)を丸投げされたとしたら、私ならお断りします。
私は開業したての弱小税理士なので、仕事が欲しいのはヤマヤマです。
ですが、やっぱり「仮想通貨処理の丸投げの依頼」が来れば、現状ではお断りします。(ちなみに、法人ではなく個人でも「仮想通貨処理の丸投げ依頼」はお断りします)
理由としては、次の点が挙げられます。
- 仕事の内容と報酬が釣り合わない可能性が高いこと
- 仕事量的に一人では捌ききれない可能性が高いこと
- 税制(法律)が大幅に変わる可能性があること など
何より上記のような理由で、お客様にご迷惑をお掛けするようなことがあってはならないからです。
もし、私の事務所が将来大きくなって、人員も増えて「仮想通貨の処理の丸投げ」にも対応できる体制になりましたら、喜んでお引き受けいたします。
「仮想通貨処理の丸投げ」以外のお仕事の依頼は、もちろんお引き受けいたしますので、当ブログ内の「お問合せ」よりご連絡ください。