こんにちは、税理士の髙荷です。
さて、以前の記事で「競馬で儲けたお金に係る税金」を取り上げて解説しました。
通常、競馬などのギャンブルで得た収入は、所得税法上「一時所得」に分類されます。
一時所得とは、「臨時的に得たラッキーな収入」のことです。
一般の人が競馬で儲けたお金は、100%一時所得になります。
有名な「ハズレ馬券が経費になるか否か」で争われた裁判のように、雑所得にはなりませんので注意してくださいね。
競馬などのギャンブルで儲けたお金は一時所得になる代表的なものですが、もう1つ、一時所得の中で我々の生活に関係深いものがあります。
それは、「生命保険の保険金収入」です。
保険金収入とは、次のようなケースで受け取るお金を言います。
- 満期保険金
- 契約満期時に受け取る保険金(保険の対象者が生存している場合)
- 解約返戻金(かいやくへんれいきん)
- 契約の解約時に受け取る一時金
- 死亡保険金
- 万が一死亡した場合に遺族などが受け取る保険金
これらの保険金収入は税金の対象となり、場合によっては税金が掛かってくることも考えられます。
そこで今回は、これらの生命保険契約に基づく保険金収入の税制上の取扱いについて解説したいと思います。
保険金収入のパターンによって、「税金の対象となる・ならない」や「対象となる税金の種類」が変わりますので、これを機に確認してください。
尚、前述した競馬に係る税金の取扱いや一時所得の計算方法などについては下記の記事で解説していますので、こちらも併せて参考にしてください。
ハズレ馬券は経費!?競馬に係る税金と一時所得の計算方法について解説します
一時所得と雑所得の違いや税金の計算方法について分かりやすく解説します
ネットの情報は間違いだらけ!?カジノの税金と一時所得の計算方法について
生命保険契約の用語について
生命保険契約に基づく保険金収入の税金について解説する前に、生命保険契約に関わる「専門用語」を把握しておく必要があります。
具体的には、「契約者」・「被保険者」及び「保険金受取人」の3つの名義と「保険料」・「保険金」及び「解約返戻金」の3つの用語の定義を確認します。
これらの専門用語の定義が解っていないと、次から解説する内容も理解しづらくなりますので、ちょっとだけお付き合いください。
【生命保険契約の名義】
契約者(※1) | 保険会社と契約を結び、保険料を支払う人を言います。 |
---|---|
被保険者 | 生命保険が掛けられている人(保険の対象者)を言います。 |
保険金受取人 | 保険金を受け取る人を言います。(※2) |
- (※1)税務上は、「契約者 = 保険料の支払者」となります。
- (※2)解約返戻金の受取人は、「契約者」です。
【生命保険契約の用語】
保険料 | 毎月又は毎年など定期的に保険会社に支払うお金です。 |
---|---|
保険金 | 被保険者の死亡又は満期によって受け取るお金を言います。 |
解約返戻金 | 解約までに支払った保険料の払戻金を指します。 |
一般的に、解約返戻金 < 支払った保険料になりますが、保険商品によっては、解約返戻金 ≧ 支払った保険料になることもあります。(詳しくは、保険会社に聞いてくださいね)
さらに、解約返戻金は「保険金」ではなく、今まで支払った保険料の払戻金なので、契約者が受け取ります。
【重要!!】
もし、「契約者」と「保険料の支払者」が異なる場合には、税務上は、「保険料の支払者 = 契約者」となります。
例えば、保険の契約者が「長男」でも、実際に保険料を支払っているのが「お父さん」であれば、その保険の契約者は、税務上「お父さん」とみなされます。
実は、生命保険に係る税金の取扱いでは、この「契約者 ≠ 保険料の支払者」の取扱いがとても重要になりますので、覚えておいて損はないと思います。
【生命保険の給付金について】
生命保険契約から支払われるものには、保険金のほか「給付金」と呼ばれるものがあります。
一般的に、「保険金」は1回だけ支払われるものを指し、「給付金」は入院時や手術時など複数回支払われる可能性のあるものを指します。
そして、この給付金については金額の多寡に関わらず、税金の対象外(税金が掛からないもの)として規定されています。
税金の対象外となる代表的な給付金は、以下のとおりです。
- 入院給付金
- 手術給付金
- 通院給付金
- 疾病(災害)療養給付金
- 障害保険金(給付金)
- 特定損傷給付金
- がん診断給付金
- 特定疾病(三大疾病)保険金
- 先進医療給付金
- 高度障害保険金(給付金)
- リビング・ニーズ特約保険金
- 介護保険金(一時金・年金) など
〔根拠となる条文〕
所得税法施行令第三十条第一号(非課税とされる保険金、損害賠償金等 一部抜粋)
生命保険契約又は旧簡易生命保険契約の規定による廃止前の簡易生命保険法に基づく給付金及び損害保険契約又は生命保険契約に類する共済に係る契約に基づく共済金で、身体の傷害に基因して支払を受けるもの並びに心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金(その損害に基因して勤務又は業務に従事することができなかつたことによる給与又は収益の補償として受けるものを含む。)
具体的には、不慮の事故や病気などにより受け取る「給付金」には税金が掛からない、と考えてもらったら良いでしょう。
但し、生存給付金付定期保険などの「生存給付金」は、上記に該当しないため税金の対象になりますよ。(後述する一時所得として、所得税・個人住民税の対象となります)
満期保険金に係る税金について
それでは、具体的な保険金収入に係る税金の内容について解説していきます。
まずは、「満期保険金」に係る税金の取扱いですが、そのポイントは、次のようになります。
【満期保険金に係る税金のポイント】
契約者(= 保険料支払者)と保険金受取人が同じかどうか?
契約者(= 保険料支払者)と保険金受取人の形態により、次のように取り扱います。
【満期保険金の取扱い】
契約者 | 被保険者 | 保険金受取人 | 対象となる税金 | |
---|---|---|---|---|
① | 父 | - | 父 | 所得税・個人住民税 |
② | 父 | - | 父以外 | 贈与税 |
- 被保険者の名義は問いません。
- 契約者(= 保険料支払者)… 父
- 保険金受取人 … 父
一時所得として、所得税及び個人住民税の対象となります。
〔一時所得の計算方法〕
(満期保険金 - 支払済みの保険料 - 50万円)× 1/2
「満期保険金 ≦ 支払済みの保険料」であれば、その時点で税金は掛かりませんので計算不要ですよ。
一時所得に係る税金の計算方法については、お手数ですが、下記の記事を参照してください。
尚、満期保険金を、一時金ではなく「年金形式」で受け取る場合には、「公的年金等以外の雑所得」に該当します。
公的年金等以外の雑所得の計算方法は、次のようになります。
〔公的年金等以外の雑所得の計算方法〕
受取年金額 - 必要経費(受取年金額に対応する部分の支払済み保険料)
- 契約者(= 保険料支払者)… 父
- 保険金受取人 … 父以外
贈与税の対象となります。
〔贈与額の計算方法〕
- 満期保険金を「一時金」で受け取った場合
- 満期保険金の全額が贈与税の対象となります。
- 満期保険金を「年金形式」で受け取った場合
- 初年度のみ、年金の受取開始時点の年金評価額に対して贈与税が課税されます。
- 2年目以降は、初年度の年金評価額から運用により増えた部分に対して所得税・個人住民税(雑所得)が課税されます。
年金形式の贈与額(年金評価額)の計算は、とても複雑です。
「解約返戻金の金額」・「一時金受取時の金額」・「予定利率等を基に算出された金額」のうち、最も高い金額を評価額とします。
因みに、2年目以降の所得税・個人住民税の計算はさらに複雑になりますので、「初年度は贈与税」、「その後は所得税・個人住民税」が掛かると覚えておけば十分でしょう。
尚、贈与税が掛かるかどうかは実際に計算をしてみないと分かりませんので、こちらの記事を参考に、贈与税が掛かるかどうかを試算してみてください。
解約返戻金に係る税金について
続いては、解約返戻金に係る税金の取扱いについて解説します。
解約返戻金のポイントは、次の2点です。
【解約返戻金に係る税金のポイント】
- 解約返戻金の受取人は、契約者である。
- 契約者と保険料支払者が同じかどうか?
解約返戻金に係る税金のポイントは、契約者と保険料支払者が同じかどうかになり、具体的には、次のようになります。
【解約返戻金に係る税金(1)】
〔契約者 = 保険料支払者のパターン〕
一時所得として、所得税及び個人住民税の対象となります。
〔一時所得の計算方法〕
(解約返戻金 - 支払済みの保険料 - 50万円)× 1/2
満期保険金と同じく、「解約返戻金 ≦ 支払済みの保険料」であれば、その時点で税金は掛かりませんので計算不要ですよ。
また、「年金形式」で受け取った場合の取扱いも、満期保険金と同じになります。
【解約返戻金に係る税金(2)】
〔契約者 ≠ 保険料支払者のパターン〕
贈与税の対象となります。
〔贈与額の計算方法〕
解約返戻金相当額が贈与額とみなされます。
保険料支払者から契約者への贈与とみなされるため、贈与税の対象となるのは「契約者(受取人)」です。
解約返戻金を「年金形式」で受け取った場合の取扱いは、満期保険金と同じです。
解約返戻金の税務上の取扱いは概ね満期保険金と同じですが、満期保険金が「契約者(= 保険料支払者)と保険金受取人が同じかどうか?」をポイントとするのに対して、解約返戻金は「契約者と保険料支払者が同じかどうか?」がポイントになりますので、注意してください。
死亡保険金に係る税金について
最後に、死亡保険金に係る税金について解説して終わりたいと思います。
死亡保険金は、対象となる税金が1つ増えるため、前述した2つの保険金収入よりも少し複雑になります。
【死亡保険金に係る税金のポイント】
生命保険の契約形態によって、対象となる税金が変わります。
死亡保険金の場合には、所得税・個人住民税、贈与税にプラスして「相続税」が加わり、保険の契約形態によってどの税金の対象となるかが異なってきます。
【死亡保険金の取扱い】
契約者 | 被保険者 | 保険金受取人 | 対象となる税金 | |
---|---|---|---|---|
① | 父 | 父 | 子 | 相続税 |
② | 父 | 父 | 孫(※1) | 相続税 |
③ | 母 | 父 | 子 | 贈与税 |
④ | 子 | 父 | 子(※2) | 所得税・個人住民税 |
- (※1)孫は、法定相続人ではありません。
- (※2)契約者である子と保険金受取人である子は、同一人物です。
それでは、①~④のパターンごとに解説していきます。
【死亡保険金に係る税金 パターン①】
- 契約者(= 保険料支払者)… 父
- 保険者 … 父
- 保険金受取人 … 子
相続税の対象となり、生命保険金の非課税限度額が利用できます。
〔相続額の計算方法〕
死亡保険金 - 非課税限度額(500万円 × 法定相続人の数)
死亡保険金から非課税限度額を引いた金額が、相続により取得した死亡保険金となります。
尚、相続税の計算方法や法定相続人の定義については、お手数ですが、下記の記事を参照してください。
【死亡保険金に係る税金 パターン②】
- 契約者(= 保険料支払者)… 父
- 保険者 … 父
- 保険金受取人 … 孫(法定相続人以外)
相続税の対象となり、生命保険金の非課税限度額は利用できません。
〔相続額の計算方法〕
死亡保険金相当額
法定相続人以外の人が死亡保険金を受取った場合には、非課税限度額は利用できません。
さらに、法定相続人以外の人が受け取った相続財産は、相続税の「2割加算」の対象にもなります。
【死亡保険金に係る税金 パターン③】
- 契約者(= 保険料支払者)… 母
- 保険者 … 父
- 保険金受取人 … 子
贈与税の対象となります。
〔贈与額の計算方法〕
死亡保険金相当額が贈与額とみなされます。
保険料支払者(母)から保険金受取者(子)への贈与とみなされるため、贈与税の対象となるのは「子(保険金受取人)」です。
死亡保険金を「年金形式」で受け取った場合の取扱いは、満期保険金と同じです。(相続税についても同様です)
【死亡保険金に係る税金 パターン④】
- 契約者(= 保険料支払者)… 子
- 保険者 … 父
- 保険金受取人 … 子(契約者と同一人物)
一時所得として、所得税及び個人住民税の対象となります。
〔一時所得の計算方法〕
(死亡保険金 - 支払済みの保険料 - 50万円)× 1/2
「死亡保険金 ≦ 支払済みの保険料」であれば、その時点で税金は掛かりませんので計算不要ですよ。
また、「年金形式」で受け取った場合の取扱いも、満期保険金と同じになります。
一般的に、死亡保険金を受取る場合には、相続財産として受け取るのが最も税額が少なくなると言われています。
そのため、「契約者 = 被保険者」として「保険金受取人を法定相続人」とするのが、税金の面を考えれば最良かもしれませんが、税金だけでなく、ご家族の事情や今後の生活のことなども考慮に入れて、総合的に判断されることをおすすめします。
以上で、満期保険金・解約返戻金及び死亡保険金に係る税金についての解説を終わります。