こんにちは、税理士の高荷です。
法人・個人を問わず事業者にとっては、「税務調査 = 怖いもの」というイメージがあるかもしれません。
一週間後の税務調査が心配で、夜も眠れない…
という事業者も、中にはいるでしょう。
それは、おそらく「税務調査 = 取り調べ」のように感じてしまうからだと思います。
まぁ、そのような雰囲気にしてしまう税務署の職員(調査官)にも問題があるのですが、実際のところ、税務調査は会社や経営者・事業者の取り調べではありません。
あくまでも、税務署に提出された申告書等の内容が正しいかどうかを「確認」するための作業です。
従って、必要以上に身構える必要はありませんし、税務署や調査官を恐れる必要も全くありません。
但し、そのためには税務調査についての正しい知識と理解が必要になります。
そこで今回は、税務調査を受ける前の基礎知識について解説したいと思います。
何度も税務調査を受けたことがある事業者も、税務調査の経験がない事業者も、まずはこの記事を参考に、税務調査に対する正しい対処の仕方を習得してください。
尚、今回の内容は、税務署(国税)の税務調査に関する内容です。
地方税の税務調査については、下記の記事を参考にしてください。
ポイントは償却資産税?地方税における税務調査の仕組みと注意点を解説します
税務調査が断れない理由
まず、税務調査の基礎知識として覚えていただきたいのは、「税務調査は断ることができない」という点です。
会社経営者や個人事業者のほとんどは、「税務調査は断れない」と、なんとなく分かっていると思います。
ただ、「何故、断れないのか?」まで理解している方は少ないでしょう。
中には、「税務署から連絡があっても、断ったらエエやん」と考えている方もいらっしゃるかもしれません。
残念ながら、税務調査を拒否することはできません。
そして、それは下記の法律に基づいて、決められています。
(当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権)
第七十四条の二
国税庁、国税局若しくは税務署(以下「国税庁等」という。)又は税関の当該職員(税関の当該職員にあつては、消費税に関する調査(第百三十一条第一項(質問、検査又は領置等)に規定する犯則事件の調査を除く。以下この章において同じ。)を行う場合に限る。)は、所得税、法人税、地方法人税又は消費税に関する調査について必要があるときは、次の各号に掲げる調査の区分に応じ、当該各号に定める者に質問し、その者の事業に関する帳簿書類その他の物件(税関の当該職員が行う調査にあつては、課税貨物(消費税法第二条第一項第十一号(定義)に規定する課税貨物をいう。第四号イにおいて同じ。)又はその帳簿書類その他の物件とする。)を検査し、又は当該物件(その写しを含む。次条から第七十四条の六まで(当該職員の質問検査権)において同じ。)の提示若しくは提出を求めることができる。
(出典 国税通則法第74条の2 質問検査権 原文まま)
一般的に、「税務調査」と呼ばれるものは、上記国税通則法に定める「質問検査権」に基づいて行われます。(正確に言うと、「税務調査」という法律用語は存在しません)
上記に掲げた国税通則法第74条の2(質問検査権)の内容を掻い摘んで要約すると、次のようになります。
【質問検査権(税務調査)の内容】
税務署等の職員(調査官)は、法人税等に関する調査について必要があると認められる場合に、次の行為等を行うことができます。
- 事業者に質問する
- 事業者に帳簿書類の提示、提出を求める
- 事業者の帳簿書類などを検査する など
これらの内容に則って税務調査が行われるわけですが、実は、これだけでは税務調査が断れない理由にはなりません。
質問検査権は、税務署等の調査官の「権利」を認めているだけの規定なので、事業者側がそれを拒否することができない根拠にはなりえないのです。
そこで登場するのが、事業者側に課せられる「受忍義務」です。
この受忍義務とは、「税務調査を受ける事業者には、それに応じる義務がある」とする規定で、以下の法律により規定されています。
第百二十八条
次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 第二十三条第三項(更正の請求)に規定する更正請求書に偽りの記載をして税務署長に提出した者
二 第七十四条の二、第七十四条の三(第二項を除く。)若しくは第七十四条の四から第七十四条の六まで(当該職員の質問検査権)の規定による当該職員の質問に対して答弁せず、若しくは偽りの答弁をし、又はこれらの規定による検査、採取、移動の禁止若しくは封かんの実施を拒み、妨げ、若しくは忌避した者
三 第七十四条の二から第七十四条の六までの規定による物件の提示又は提出の要求に対し、正当な理由がなくこれに応じず、又は偽りの記載若しくは記録をした帳簿書類その他の物件(その写しを含む。)を提示し、若しくは提出した者
(出典 国税通則法第128条 受忍義務)
上記の国税通則法第128条(受忍義務)の内容を簡潔に示すと、次のようになります。
【受忍義務(調査を受ける義務)の内容】
税務調査に際して、事業者が次の行為等を行った場合には、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられます。
- 税務調査に協力しない
- 正当な理由もなく拒否する
- 偽物の帳簿等を提示する
- 嘘の回答をする
- 黙秘する など
このように、法律によって定められた「税務署側の権利」と「事業者側の義務」によって、税務調査は断ることができないとされているのです。
【税務調査を断ることができない理由】
- 税務署側の権利
- 国税通則法第74条の2に定める「質問検査権」
- 事業者側の義務
- 国税通則法第128条に定める「受忍義務」
事前連絡なしの税務調査
通常、税務調査が行われる場合には、税務署から顧問税理士に対して事前連絡があります。
しかし、事前連絡なしで、いきなり会社や店舗に調査官が訪れるケースもあり得ます。
今から税務調査をしたいのですが…
このような税務調査を、「無予告調査」と呼びます。(「アポなし調査」とも呼ばれたりします)
無予告調査は、一般的に「現金商売」の会社に入りやすいと言われており、税務調査のうち1割~2割程度が無予告調査だとも言われています。
私も、過去に何度か無予告調査の対応をしたことがありますが、その全てが焼肉屋、居酒屋、パチンコ屋など現金商売の会社でした。(但し、現金を取り扱っていない会社にも、入るときは入ります)
また、この「無予告調査」ですが、法律的にも認められている調査です。(国税通則法第74条の10で規定されています)
ここでは、法律の条文ではなく、国税庁のサイトから引用した文章を掲載します。
【実地の調査が行われる場合には必ず事前通知がなされるのですか?】
実地の調査を行う場合には、原則として、調査の対象となる納税者の方に対して、調査開始前に相当の時間的余裕を置いて、電話等により、実地の調査を行う旨、調査を開始する日時・場所や調査の対象となる税目・課税期間、調査の目的などを通知します。
ただし、法令の規定に従い、申告内容、過去の調査結果、事業内容などから、事前通知をすると、違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれ、又は、その他、調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると判断した場合には、事前通知をしないこともあります。
なお、事前通知が行われない場合でも、運用上、調査の対象となる税目・課税期間や調査の目的などについては、臨場後速やかに説明することとしています。
(出典 国税庁 税務調査手続に関するFAQ 一般納税者向け)
このように、原則としては事前通知を行うことになっていますが、「一定の場合には事前通知をしないこともある」と述べています。
ですから、「事前通知なしの税務調査もあり得る」ということを、頭に入れておいてください。
【事前連絡なしの税務調査はある?】
事前連絡なしの税務調査(無予告調査)もあり得ます
無予告調査は、法律によって認められている行為です。
一般的には、現金商売の会社に入りやすいと言われていますが、必ずしもそうとは限りません。
無予告調査に入られた時の対処法
では最後に、無予告調査に入られた時の対処方法について解説します。
前述したとおり、税務調査が行われることが決定された場合、それを拒否することはできません。
従って、事前連絡のある・なしに拘わらず、税務調査は必ず実施されます。
但し、「拒否」することはできませんが、「変更」することは可能です。
【税務調査の変更は可能】
税務署側が提示してきた日時に、必ず税務調査を受ける必要はありません
もし、税務署側が指定した日時に予定が入っている場合などには、調査の日時を変更することができるのです。
従って、無予告調査により、突然税務署の調査官が会社や店舗に現れても、直ぐに調査に応じる必要はないということになります。
【税務署】
今から税務調査をしたいので、ご協力をお願いします。
【社長】
今日は予定があるので、他の日にしてください。
このように主張するのは、税務調査の拒否ではなく、日時の変更になるため問題ありません。
また、事業者側だけではなく、税務署側の都合により、調査の日程が変更になることもあります。
私が過去に経験したのは、税務調査の前日に調査官の身内に不幸があったので、調査の日程を変更して欲しいというものでした。
ですから、「税務調査の日程は調整可能」と覚えておくと良いかと思います。
それでは、突然無予告調査に入られた場合に、どのような対応をしたら良いのか、そのポイントを解説します。
【無予告調査の具体的な対応方法】
- 身分を確認する
- 最初に、本当に税務署の職員(調査官)かどうか、身分を確認します。
- 調査官の方から身分証明書等を提示し身分を明かすのが普通ですが、もし口頭でしか身分を明かさないようであれば、身分証明書の提示をお願いしましょう。
- 会社内に入れない
- 一部では、応接室等に通して待ってもらうという方法を推奨しているサイトもありますが、社内や事務所内、店舗内には入れない方が良いでしょう。
- その方が無用なトラブルを防ぐことができますし、「税理士に連絡しますので、少々お待ちください」などと言い、エントランス前で対応してください。
- 税理士が立ち会わない税務調査は、事業者側が圧倒的に不利になるため、必ず顧問税理士に連絡してください。
- 予定がある旨を伝える
- 税務調査に立ち会うのは、経営者や事業者本人と税理士です。
- 丸々1日何も予定がない経営者や税理士は稀だと思いますので、「今日は予定が入っているので、別の日にしてほしい」旨を伝えましょう。
- 但し、もしその日に調査を受けられるのであれば、その日でも構いませんが。
- 調査の日時を調整する
- 上記のように予定がある旨を伝えたら、改めて税務調査の日時を決めます。
このような対応を取ることで、アポなしの税務調査にも対応できます。
そして、次の点も心得ておくと、より落ち着いてスムーズに対応できると思います。
【税務調査に関する重要なポイント】
通常行われる税務調査は、「任意調査」です
任意調査とは、「強制力のない調査」のことを意味します。
つまり、事業者側は税務調査を断ることはできませんが、税務署側も事業者の承諾なしに勝手に調査を行うことはできないのです。
因みに、調査官等が「裁判所の礼状」を持って訪問してきた場合には「強制調査(捜査)」となるため、事業者側の意思は無視されます。
いわゆる「マルサ」と呼ばれるものですが、一般的な中小企業や個人事業者は、まず対象になりません。
無予告調査に関しては、上記のような対応を行うことにより、無用なトラブルを回避し、落ち着いて税務調査に臨むことができます。
但し、繰り返しになりますが、次の点には十分注意してください。
税務調査自体を拒否してしまうと、懲役刑や罰金刑が科せられます。
そのため、「本当は税務調査に協力したいけど、今日は予定があって都合が悪い」ということを強調した断り方(日程変更の仕方)をするようにしてください。
本当は、調査に協力したいんです。
でも、どうしても外せない予定があってダメなんです。
もし、心配なようであれば、無予告調査があった場合の対処法を、顧問税理士と事前に打ち合わせておくことをおすすめします。
以上で、税務調査に関する基礎知識についての解説を終わります。