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関税の税率(関税率)
実は、関税を計算するにあたって最も煩雑で、最も難解なのが、この税率になります。
日本の関税の計算において使用する関税率には、以下の種類があります。
関税の計算に適用する税率(以下、「一般税率」と呼びます)
【国定税率】
- 基本税率
- 関税定率法により、輸入貨物のすべてについて定められている税率
- 長期的な適用を想定して定められており、関税の税率の基本をなすもの
- 暫定税率
- 関税暫定措置法による税率で、一時的に基本税率によりがたい事情がある場合に、特定の貨物につき一定期間に限り適用する税率
- 常に基本税率に優先して適用される
- 特恵税率
- 開発途上国・地域からの輸入品に対し、これらの国・地域を支援する目的で適用される税率で、先 進国からの輸入品に対する税率より低く設定されている
- 経済が開発途上にあり、特恵の供与を希 望し、わが国が適当であると認めた国や地域に対して、原産地証明書の提出等の条件を満たした場合に適用される
- 入国者の携帯品、別送品に対する簡易税率
- 日本に入国する旅行者、乗組員が携帯、または別送して輸入するものに対して適用される税率
- 関税と消費税を統合した簡単なわかりやすい税率
- 少額輸入貨物に対する簡易税率
- 関税の課税価格が20万円以下の貨物(携帯品・別送品を除く)に対して適用される税率
- 関税を計算しやすいように、一般税率に比べて簡単な税率となっている
【条約に基づいて定められている税率】
- 協定税率(WTO協定税率)
- WTO加盟国・地域に対して、特定品目について一定率以下の関税しか課さないことを約束(譲許)している税率で、WTO譲許税率とも呼ばれる
- 国定税率よりも低い場合に、WTO加盟国・地域及び二国間通商条約(EPAを除く)で最恵国待遇を約束している国等からの産品に対して適用される
- 経済連携協定に基づく税率(EPA税率)
- 経済連携協定(EPA)を締結している相手国からの産品を対象とし、それぞれの協定に基づいて適用される税率
- 国定税率や協定税率よりも低い場合に、原産地規則等の条件を満たすことにより適 用される
【税率適用の順位】
原則として、以下の順序で適用されます。
- 特恵税率
- 協定税率
- 暫定税率
- 基本税率
但し、特恵税率は対象国・地域の対象となる原産品である場合に限られ、協定税率は暫定税率又は基本税率より低い場合に適用されます。
このように、意味がよく分からない税率になっています。
さらに、上記に記載した内容は、一般税率の表面部分に過ぎません。(前述したように、関税は奥が深いのです)
そこで、これらの一般税率を一覧にした「実行関税率表」という税率表があります。
基本的には、この税率表を使って適用する一般税率を調べることになります。
【財務省貿易統計 輸入統計品目表(実行関税率表)】
この一般税率を、課税価格に乗じることで、関税が計算できます。
【一般の輸入貨物の場合】
CIF価格 × 一般税率 = 関税
- CIF価格 = 貨物の代金 + 運賃 + 保険料
- CIF価格 ⇒ 1,000円未満切捨て
- 関税 ⇒ 100円未満切捨て
【個人輸入の輸入貨物の場合】
海外小売価格(商品代金)× 0.6 × 一般税率 = 関税
- 海外小売価格(商品代金)× 0.6 ⇒ 1,000円未満切捨て
- 関税 ⇒ 100円未満切捨て
但し、実行関税率表を実際に見てもらえれば判りますが、かなり広範に渡ります。
さらに、実行関税率表の分類方法は材質、形状などを基準に独自の方法が採られています。
そのため、この表から輸入した商品の一般税率を判断するのは、容易ではないことを付け加えておきます。
チェック!税関の事前教示制度
実行関税率表で適用税率を調べたけれど、どうしても分からない!
そんな時には、「関税の事前教示制度」が利用できます。
関税の事前教示制度とは、輸入者が、税関に対して輸入を予定している貨物についての照会を行い、回答を受けることができる制度です。
具体的には、貨物の関税分類(税番)、関税率、原産地等について、事前に回答を受けることができます。
この事前教示は、以下の方法が選択できます。
- 口頭(電話や税関窓口での照会)
- Eメール
- 文書
この3つの方法で回答を受け取ることができますが、原則的には文書で回答を受け取ることとされています。
文書(事前教示に関する照会書)による照会では、事前教示回答書(3年間有効)が交付されます。
この回答書は、輸入申告の際に優先して適用されます。
つまり、輸入申告の際の税関の審査において、担当職員の見解と回答書の見解に相違があった場合には、事前教示を受けた回答書の方が優先されるということです。
なお、文書による回答以外の回答は、基本的に参考情報として扱われる程度の意味しか持ちません。(Eメールの場合には、一定の要件を満たせば、文書回答と同様の効力を持ちます)
そのため、可能な限りは文書での回答を受けることをお勧めします。
但し、参考程度の情報で良いのであれば、口頭やEメールでも差し支えありません。
関税の事前教示制度の照会及び問い合わせは、下記の電話番号から行うことができます。
【問い合わせ先】事前教示照会先電話番号一覧表
- 函館税関 … 0138-40-4716
- 東京税関 … 03-3529-0700
- 横浜税関 … 045-212-6156
- 名古屋税関 … 052-654-4139
- 大阪税関 … 06-6576-3371
- 神戸税関 … 078-333-3118
- 門司税関 … 050-3530-8373
- 長崎税関 … 095-828-8669
- 沖縄地区税関 … 098-862-8692
少額輸入貨物に対する簡易税率
前章の「関税の計算に適用する税率」の国定税率の5番目に「少額輸入貨物に対する簡易税率」という項目があります。
おそらく、インターネット等で海外から商品を購入する場合には、この少額輸入貨物に対する簡易税率が適用されることが多いと思われます。
そこで、この章では「少額輸入貨物に対する簡易税率」について、詳しく解説したいと思います。
少額輸入貨物に係る免税制度
少額輸入貨物に対する簡易税率は、このような制度になっています。
【少額輸入貨物に対する簡易税率】
- 関税の課税価格が20万円以下の貨物(携帯品・別送品を除く)に対して適用される税率
- 関税額を計算しやすいように、一般税率に比べて簡単な税率
後で説明しますが、20万円以下の少額な輸入品については、簡易な税率で関税が計算できるという計算方式になります。
この少額輸入貨物については、納税者と税関双方の事務負担の軽減を図るため、免税制度が設けられています。
具体的には、このように規定されています。
課税価格の合計額が1万円以下の輸入品には、関税が掛からないという規定です。
因みに、輸入品に係る消費税(地方消費税)も、免除になります。
尚、輸入品に係る消費税(地方消費税)については、こちらの記事でまとめています。
輸入消費税の仕組みと計算方法【納税義務、納税方法、免税まで】
但し、次の注意点があります。
- 酒税やたばこ税等が課せられる場合は、それらの税金は免税となりません
- 日本の産業に対する影響等を考慮して、関税を免除しないと定められた物品があります
- 関税が免除されない主な物品は、次に掲げるものです
- 米(個人的に食するものであれば免税適用)
- 革製のカバン
- ハンドバッグ
- 手袋等
- 編物製衣類(Tシャツ、セーター等)
- スキー靴
- 革靴及び本底が革製の履物類等
- 関税が免除されない主な物品は、次に掲げるものです
尚、免税の条件となっている「1万円以下」の意味は、次のとおりになります。
- 1つの申告に係る輸入貨物の課税価格の合計額が1万円以下
- 1つの仕入書(インボイス)に係る貨物を分割して申告した場合には、その仕入書に記載された全ての貨物の課税価格の合計額が1万円以下
- 郵便物については、1つの梱包に包装された輸入貨物の課税価格の合計額が1万円以下
- 同一差出人から同一名宛人に、同一時期に分割して郵送されたものは、分割された全ての郵便物の課税価格の合計額が1万円以下
個人輸入の場合の免税
少額輸入貨物に対する免税制度は、「課税価格」が1万円以下かどうかで判定します。
一般的な輸入貨物の課税価格は、CIF価格です。
しかし、個人輸入の場合の課税価格は、以下の金額になります。
海外小売価格(商品代金)× 0.6 = 課税価格
そのため、個人輸入に係る少額輸入貨物の免税は、海外小売価格(商品代金)16,666円(10,000円÷0.6)までということになります。
個人輸入の免税になる課税価格 = 海外小売価格16,666円まで
少額輸入貨物の簡易税率
少額輸入貨物に対する簡易税率は、このような制度になっています。
【少額輸入貨物に対する簡易税率】
- 関税の課税価格が20万円以下の貨物(携帯品・別送品を除く)に対して適用される税率
- 関税額を計算しやすいように、一般税率に比べて簡単な税率
この制度をもう少し詳しく説明すると、下のようになります。
- 課税価格の合計額が20万円以下の輸入貨物には、国際宅配便及び国際郵便物を含む
- 輸入者が輸入貨物の全部について、簡易税率を使わないことを希望した場合には、一般税率が適用される
この少額輸入貨物に係る簡易税率は、より迅速な計算を行うために、膨大な数の一般税率を適用するのではなく、大きく7つに区分した簡易税率表を使って関税を計算する方法です
少額輸入貨物に係る簡易税率を使った関税の計算方法は、次のとおりです。
【一般の輸入貨物の場合】
CIF価格(20万円以下)× 簡易税率 = 関税
- CIF価格 = 貨物の代金 + 運賃 + 保険料
- CIF価格 ⇒ 1,000円未満切捨て
- 関税 ⇒ 100円未満切捨て
【個人輸入の輸入貨物の場合】
海外小売価格(20万円以下)× 0.6 × 簡易税率 = 関税
- 海外小売価格(20万円以下)× 0.6 ⇒ 1,000円未満切捨て
- 関税 ⇒ 100円未満切捨て
尚、課税価格の合計額が20万円以下の貨物とは、具体的には次のとおりになります。
- 1つの申告に係る輸入貨物の課税価格の合計額が20万円以下
- 1つの仕入書(インボイス)に係る貨物を分割して申告した場合には、その仕入書に記載された全ての貨物の課税価格の合計額が20万円以下
- 郵便物については、1つの梱包に包装された輸入貨物の課税価格の合計額が20万円以下
- 同一差出人から同一名宛人に、同一時期に分割して郵送されたものは、分割された全ての郵便物の課税価格の合計額が20万円以下
- 課税価格の合計額が20万円以下の判定は、関税無税品及び関税免税品の課税価格を含む
最後に、少額輸入貨物に係る簡易税率表を掲載します。
番号 | 品目(品目例) | 関税率 |
---|---|---|
1 | アルコール飲料
|
|
2 |
|
20% |
3 |
|
15% |
4 |
|
10% |
5 |
|
3% |
6 |
|
無税 |
7 |
前各号に掲げる品目以外のもの |
5% |
但し、次のものについては、簡易税率によらず一般税率が適用されます。
- 関税が無税又は免除されるもの
- 犯罪に係る貨物
- 日本の産業に対する影響等を考慮して、簡易税率によることを適当としない貨物(下表)
主な品目例 |
---|
|
一般税率と簡易税率の判定
最後に、輸入品に係る関税と税率の判定方法を解説します。
輸入した貨物(商品)に関税が掛かるかどうか、及び一般税率と簡易税率のどちらを適用するかの判定は、次の表に沿って判定します。
【輸入品に係る関税と税率の判定方法】
課税価格の合計額が1万円以下 (個人輸入の場合は、海外小売価格16,666円以下) |
||
YES ⇓ |
NO ⇓ |
|
免税 | 課税価格の合計額が20万円以下 (個人輸入の場合は、海外小売価格333,333円以下) |
|
YES ⇓ |
NO ⇓ |
|
簡易税率 | 一般税率 |
チェック!携帯品・別送品の免税について
日本への入国の際の携帯品や別送品については、原則として関税等の税金が課されます。
しかし、これらの携帯品や別送品のうち個人的に使用するものに限り、 一定の範囲内で関税等の税金が免除されます。
【携帯品・別送品の免税範囲】
次に掲げるもので、個人的に使用されるもの。
- 旅行に直接必要な衣類・化粧品等の身の回り品
- 職業用具
- 引越荷物(必要と認められる範囲内)
- 次の一覧表に掲げる範囲
品名 数量・価格 備考 酒 類 3本 1本760mlのもの 香水 2オンス オーデコロン、オードトワレは除く 米 年間100kg以内 所定の届出書を税関に提出 た
ば
こ紙巻たばこ 400本 【加熱式たばこの免税数量の例】
- アイコス(IQOS):400本
- グロー(glo):400本
- プルーム・テック(Ploom TECH):100個
尚、2021年10月1日からは、次のようになります。
- 紙巻たばこ 200本
- 葉巻たばこ 50本
- 加熱式たばこ 個装等10個
- その他のたばこ 250g
葉巻たばこ 100本 加熱式たばこ 個装等20個 その他 500g そ
の
他1万円以下 全て 1品目ごとの購入金額が1万円以下 その他 20万円 20万円を超える場合は、20万円以内は免税、超える部分は課税
1個で20万円を超えるものは、全額課税
尚、輸入に係るたばこ税については、こちらの記事でまとめているので、参考にしてください。
【輸入の反対、輸出に係る消費税についてまとめた記事】
輸出に係る消費税の還付の仕組み【本当に輸出企業は消費税の還付金で得をしているのか?】
以上で、関税の仕組みと税率・計算方法についての解説を終わります。