こんにちは。税理士の髙荷です。
日本に住む人にとって最も身近な税金と言えば、「消費税」です。
そして、我々の生活に最も影響がある税金も、「消費税」です。
今年(2019年10月)、消費税の増税が実施されるため、我々国民の負担が益々大きくなるのですが、そんな中にあって、増税の影響を受けないものも存在します。
それは、消費税の「非課税の対象となるもの」です。
消費税は、物やサービスなどの取引行為に対して課される税金ですが、一定の取引行為に対しては消費税を課税しないという「非課税規定」があります。
今回は、この消費税の非課税規定について、その概要と詳細について解説します。(内容が多岐にわたるため、2つの記事に分けて解説します)
【もう1つの記事は、こちらです】
我々が、普段の生活の中で何気なく行っている行為でも、実は消費税が課税されていなかったというものがあるかもしれませんので、是非、最後までお読みください。
尚、消費税が掛かるか?掛からないか?の総合的な判定方法は、下記の記事で解説しています。
消費税が掛かる取引と掛からない取引の判定方法【課税、非課税、免税及び不課税】
また、非課税取引同様に増税の影響を受けない免税取引については、下記の記事で解説しています。
消費税の非課税規定
消費税の非課税規定は、「限定列挙」という形で定められています。
限定列挙とは、例えば「次に掲げる3つの項目に対してのみ、この法律を適用します」というように、範囲を限定して法律を適用することを言います。
消費税の非課税規定は、全17項目の限定列挙からなり、その内容は次のとおりです。
消費税の非課税取引 | |||
---|---|---|---|
消費税の性格上非課税になるもの | 政策的配慮により非課税になるもの | ||
① | 土地の譲渡及び貸付け | ⑨ | 社会保険医療の給付等 |
② | 有価証券等の譲渡 | ⑩ | 介護保険サービスの提供 |
③ | 支払手段の譲渡 | ⑪ | 社会福祉事業等によるサービスの提供 |
④ | 預貯金の利子及び保険料を対価とする役務の提供等 | ⑫ | 助産 |
⑤ | 日本郵便株式会社などが行う郵便切手類の譲渡、印紙の売渡し場所における印紙の譲渡及び地方公共団体などが行う証紙の譲渡 | ⑬ | 火葬料や埋葬料を対価とする役務の提供 |
⑭ | 一定の身体障害者用物品の譲渡や貸付け | ||
⑥ | 商品券、プリペイドカードなどの物品切手等の譲渡 | ⑮ | 学校教育 |
⑦ | 国等が行う一定の事務に係る役務の提供 | ⑯ | 教科用図書の譲渡 |
⑧ | 外国為替業務に係る役務の提供 | ⑰ | 住宅の貸付け |
消費税の非課税規定は、上記のとおり17項目から構成されるのですが、「非課税とする理由」により2つの区分に分けられます。
どちらであっても、消費税が掛からない取引であることに変わりはないので、特に覚えてもらう必要はないのですが、参考までに解説しておきます。
- 消費税の性格上非課税になるもの
- 消費税は、その名のとおり「消費されるもの」に課される税金なので、「消費」という性質に合わない取引には課税されません。
- 政策的配慮により非課税になるもの
- 社会的・政策的見地から、課税するのが適当でない(これらにまで税金を掛けるのはおかしい)と判断された取引については、課税されません。
今回は、この17項目のうち「政策的配慮により非課税になるもの9項目」を取り上げて解説します。
政策的配慮により非課税になるもの
前章で、消費税の非課税項目を掲載しましたが、そのままでは意味が解らないものもあり、また細かい規定が存在するものもあるため、ここでは、それぞれの項目の内容について解説したいと思います。
但し、中には、本当にごく一部の取引にしか適用されないような細かい規定も存在するため、そのような例外的な規定については割愛しています。
これらの中には、我々の日常生活で利用するものも含まれているので、その点に留意してお読みください。
社会保険医療の給付等
社会保険医療の給付等とは、健康保険法、国民健康保険法などによる医療、労災保険、自賠責保険の対象となる医療などを言い、消費税法上は、社会政策的配慮から非課税取引とされています。
従って、病院等で診察を受けた際に、患者が支払う診察料等に消費税は課税されません。
この「社会保険医療」の範囲は、次のように規定されています。
【社会保険医療の範囲】
社会保険医療 | |||
---|---|---|---|
消費税が非課税のもの | 消費税が課税されるもの | ||
① | 保険医療機関が自ら行う医療サービス及び施設療養 | ① | 自由診療 |
② | 高齢者の医療の確保に関する法律による医療 | ② | 入院時の差額ベッド代 |
③ | 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律、生活保護法等による公費負担医療 | ③ | 金歯など一定の歯の治療 |
④ | 公害医療、労災医療、自賠責 | ④ | 任意の人間ドックや予防接種 |
⑤ | ①~④に類する医療で一定のもの | ⑤ | 美容整形 など |
一般的には、保険が適用される診察や治療が非課税で、保険適用外の治療などに消費税が課税されると思ってもらって良いかと思います。
【消費税分が上乗せされている】
社会保険が適用される医療費(診察費や治療費など)は、確かに消費税の非課税取引となり、消費税は掛からないのですが、実は、これらの医療費には、元々消費税分が「上乗せ」されています。
これは、何も患者から多くの料金をもらうために上乗せされているのではなく、消費税の仕組み上、仕方なく上乗せされているのです。
その仕組みを、簡単に説明します。
上図を見てもらったら分かるのですが、社会保険診療を行っている病院等は、まず業者から医薬品や機材を購入しなければなりません。
医薬品や機材の購入には、当然消費税が掛かりますので、消費税8%を加えて業者に支払います。
一方、患者に対する社会保険診療は「非課税取引」になるため、患者からもらう医療費に消費税は掛かりません。
つまり、病院が支払うお金ともらうお金の関係は、下記のようになります。
- 病院が支払うお金 ⇒ 消費税が掛かる
- 病院がもらうお金 ⇒ 消費税が掛からない(非課税)
そのため、常に病院側は、消費税分(8%分)だけ「損をしている」と言えます。
このままだと、病院そのものを経営することができなくなるため、その救済措置として、患者からもらう医療費に、あらかじめ消費税分を「上乗せ」して請求しているのです。
但し、患者からもらう医療費は、全国一律の料金となっているため、病院側が好きなように消費税を上乗せしているわけではありません。
医療機関に対する例外的な措置として、国が上乗せ分の消費税を決めています。
介護保険サービスの提供
介護保険法に規定する訪問介護や通所介護などの居宅サービス、特養や老健などの施設サービス、そしてグループホームや複合型サービスなどの地域密着型サービスといった、介護保険サービスの利用においては、自己負担額に消費税が掛かることはありません。
介護保険サービスに係る消費税の非課税は、次のように規定されています。
【介護保険サービスの非課税規定】
サービス内容 | 非課税となる主な自己負担額 |
---|---|
ケアプラン作成 |
|
訪問系サービス |
|
通所系サービス |
|
短期入所系サービス |
|
施設系サービス |
|
複合系サービス |
|
尚、食事介助や排泄介助などの介護保険サービスへの対価だけでなく、それらと同時に提供されるサービスについても、「日常生活に要する費用」として非課税の扱いになります。
例えば、デイサービスやデイケアなどの通所系サービスを利用すると、食事代やおむつ代が掛かりますが、これらの支払いの際にも消費税は課税されません
社会福祉事業等によるサービスの提供
社会福祉事業等によるサービスの提供は、規定されている範囲が広いため、代表的な規定のみを紹介します。
【社会福祉事業等による消費税の非課税規定】
社会福祉事業等により消費税が非課税となるサービスは、次の内容になります。
社会福祉法に規定する第一種社会福祉事業、第二種福祉事業、更生保護事業法に規定する更生保護事業などの社会福祉事業等によるサービスの提供。
具体的な例を挙げると、次の事業が該当します。
- 生活保護法に規定する救護施設、更生施設等を経営する事業
- 児童福祉法に規定する乳児院、母子生活支援施設、児童養護施設、助産施設、保育所等を経営する事業
- 老人福祉法に規定する養護老人ホーム等を経営する事業
- 児童福祉法、老人福祉法、身体障害者福祉法等に規定する児童自立生活援助事業、老人デイサービス事業、介助犬訓練事業などの事業
- 更生保護事業法に規定する更生保護事業
社会福祉事業等による非課税は、前述した介護サービスの非課税と同じようなものとして捉えられがちですが、基となる法令が異なるため、2つに分けられています。
介護サービスは、基本的に「介護保険法」に基づくサービスであり、社会福祉事業の方は、上記のように介護保険法以外の法令に基づくサービスとなっています。
助産
「助産」と一言で言っても、助産の何が非課税なのか分からないと思います。
助産に係る消費税の非課税規定は、このようになっています。
【助産に係る消費税の非課税規定】
助産に係る消費税の非課税は、医師、助産師その他医療に関する施設の開設者による助産に係る資産の譲渡等とされており、具体的には、次の行為が非課税となります。
- 妊娠しているか否かの検査
- 妊娠していることが判明した時以降の検診、入院
- 分娩の介助
- 出産の日以後2月以内に行われる母体の回復検診
- 新生児に係る検診及び入院
上記に掲げる助産に関する費用について、消費税が非課税となります。
火葬料や埋葬料
この規定では、墓地、埋葬等に関する法律に規定する埋葬料又は火葬料の対価が非課税とされています。
従って、名目が埋葬・火葬であっても「墓地、埋葬等に関する法律」に従った埋葬・火葬でなければ、その対価は非課税となりません。
【火葬料や埋葬料に係る消費税の非課税規定】
墓地、埋葬等に関する法律に規定する埋葬・火葬とは、次に該当するものを言います。
- 埋葬
- 死体(妊娠4ヶ月以上の死胎を含む)を土中に葬ること
- 火葬
- 死体を葬るためにこれを焼くこと
尚、埋葬・火葬の際には、市区町村の許可が必要となります。
この許可を受けるための手数料は、埋葬料・火葬料には該当しませんが、「国等が行う手数料」に該当するため、消費税は非課税となります。
この埋葬料・火葬料に係る非課税規定ですが、消費税が非課税となるのは、あくまでも「埋葬料と火葬料のみ」であり、葬式費用そのものが非課税になるわけではないので、注意してください。(埋葬料・火葬料以外で、葬儀会社に支払う葬儀費用には消費税が掛かります)
一定の身体障害者用物品
身体障害者用物品とは、義肢、盲人安全つえ、義眼、点字器、人工喉頭、車椅子その他の物品で、身体障害者の使用に供するための特殊な性状、構造又は機能を有する物品として厚生労働大臣が財務大臣と協議して指定するものを言います。
従って、これらの譲渡、貸付け及び製作の請負並びに修理に係る料金には、消費税が掛かりません。
また、自動車のうち、次に掲げる要件に該当するものは「身体障害者用物品」として、消費税の非課税の対象となります。
【身体障害者用物品に該当する自動車】
乗用自動車のうち非課税となるものは、身体障害者の使用に供するものとして特殊な性状、構造又は機能を有する次の自動車です。
- 身体障害者による運転に支障がないよう、道路交通法第91条の規定により付される運転免許の条件の趣旨に従い、その身体障害者の身体の状態に応じて、手動装置、左足用アクセル、足踏式方向指示器、右駐車ブレーキレバー、足動装置、運転用改造座席の補助手段が講じられている自動車
- 車いす及び電動車椅子(以下、「車椅子等」と言います)を使用する者を、車椅子等とともに搬送できるよう、車椅子等昇降装置を装備し、且つ車椅子等の固定等に必要な手段を施した自動車(乗車定員11人以上の普通自動車については、車椅子等を使用する者を専ら搬送するものに限ります。)
上記1.又は2.に該当する自動車であれば、その譲渡、貸付け及び製作の請負と、次に掲げる修理が非課税となります。
- 上記1.の補助手段にかかる修理
- 補助手段の装置自体の譲渡は非課税とはなりません。
- 上記2.の車椅子等昇降装置及び必要な手段に係る修理
尚、他者から委託を受けて一般自動車を非課税対象となる自動車に改造する行為は、制作の請負に該当し、非課税となります。
また、改造代金のみならず、改造をした自動車の譲渡代金が非課税となりますが、例えば、いったん一般自動車を購入し、その後改造を行う場合には、当初の一般自動車の購入は課税となり、改造代金についてのみ非課税となります。
学校教育及び教科用図書の譲渡
続いては、前掲した「消費税の非課税取引」に規定する、⑮学校教育と⑯教科用図書の譲渡の2つについて、まとめて解説します。
学校教育に関連する消費税の非課税規定は、次の表のようになります。(この中に、教科用図書の譲渡も含まれます
【学校教育に係る消費税の非課税規定】
学校教育の範囲 | |||
---|---|---|---|
消費税が非課税のもの | 消費税が課税されるもの | ||
次の①~④に掲げる学校の、受験料、授業料、入学金、施設設備費及び教科書代 | 左記①~④に該当しない学校にあっては、受験料、授業料、入学金、施設設備費及び教科書代であっても非課税とはならない
(進学塾、予備校、学習塾、そろばん塾など) |
||
① | 幼稚園、小学校、中学校、高等学校、高等専門学校、大学など | ||
② | 専修学校 | ||
③ | 各種学校(修業年限1年以上その他一定の要件を具備するもの) | ||
④ | 海上技術学校、海技大学校、航空大学校、水産大学校、職業能力開発大学校など |
- 上記①~④に掲げる学校は、学校教育法第1条の規定及び各省の設置基準によったものです。
- 上記①~④に掲げる学校であっても、受験料、授業料、入学金、施設設備費及び教科書代以外のものについては、消費税が課税されます。
住宅の貸付け
前回の記事で、消費税の非課税に関する解説の1番目として「土地の譲渡及び貸付け」について解説しました。
土地については、「譲渡」と「貸付け」の2つが非課税の対象でしたが、建物については「貸付け」のみが非課税の対象であり、且つ建物であっても「住宅」に限定されます。
ここでは、この「住宅」の定義と、その貸付けに係る「家賃」の範囲について解説します。
【消費税の非課税の対象となる住宅】
消費税の非課税の対象となる住宅とは、人が住むための家屋(居住用の家屋)又は家屋のうち人が住むために使用される部分(居住用の部分)を言います。
従って、店舗(事務所)共用住宅など、一部が居住用として使用される家屋については、住宅部分のみが非課税とされます。
その場合には、使用床面積等の比率で、住宅部分と店舗部分とを合理的に区分することとなります。
具体的には、一戸建住宅のほか、マンション、アパート、社宅、寮、貸間等が「住宅」に含まれます。
居住用割合 消費税 居住用割合 消費税 100% 居住用 非課税 60% 居住用 非課税 40% 事務所用 課税
尚、通常、住宅に付随して(又は住宅と一体となって)貸付けられる次の掲げるものは、「住宅の貸付け」の範囲に含まれます。
- 庭、塀、給排水施設等で住宅の一部と認められるもの
- 家具、じゅうたん、照明設備、冷暖房設備等の住宅の附属設備で、住宅と一体となって貸付けられるもの
- 但し、上記の設備を別の賃貸借の目的物として賃料を別に定めている場合には、その設備の貸付けについては消費税が課税されます。
また、駐車場等の施設については、次のように取り扱います。
- 駐車場の貸付けは、次のいずれにも該当する場合、非課税となります。
- 一戸当たり1台分以上の駐車スペースが確保されており、かつ、自動車の保有の有無にかかわらず割り当てられている等の場合
- 家賃とは別に駐車場使用料等を収受していない場合
- プール、アスレチック、温泉などの施設を備えた住宅については、居住者のみが使用でき、家賃とは別に利用料等を収受していない場合、非課税となります。
【消費税の非課税の対象となる貸付けの範囲】
消費税が非課税となる住宅の貸付けは、賃貸借契約において、人の居住用として貸付けることが明らかにされているものに限られ、次のような貸付けは除かれます。
- 貸付期間が1ヶ月未満の場合
- 旅館業法第2条第1項に規定する、旅館業に係る施設の貸付けに該当する場合
- 例えば、旅館、ホテル、貸別荘、リゾートマンション、ウイークリーマンション等は、その利用期間が1ヶ月以上となる場合であっても、非課税とはなりません。
【消費税の非課税の対象となる家賃の範囲】
消費税が非課税となる住宅の貸付の家賃の範囲は、次のとおりです。
- 家賃の範囲
- 家賃には、月決め等の家賃のほか、敷金、保証金、一時金等のうち返還しない部分を含みます。
- 共同住宅における共用部分に係る費用(エレベーターの運行費用、廊下等の光熱費、集会所の維持費等)を入居者が応分に負担する、いわゆる共益費も家賃に含まれます。
- 入居者から家賃とは別に収受する専有部分の電気、ガス、水道等の利用料は、非課税とされる家賃には含まれません。
- 光熱費を実費として預り、家主側がまとめて支払うような場合は非課税にはなりません。
- 「電気代込」などのように、定額で家賃に含まれているものについては、非課税になります。
- 「まかない」などのサービスが伴う下宿、有料老人ホーム等の場合、まかないなどのサービス部分は課税となり、部屋代部分は非課税となります。
- 用途変更の場合
- 当初、住宅として貸付けた建物について、後に、住宅以外の用途に契約変更した場合には、契約変更後のその建物の貸付け家賃には消費税が掛かります。
- 社宅の取扱い
- 事業者が自ら使用しないで社宅として従業員に転貸する場合であっても、契約において従業員等が居住の用に供することが明らかであれば非課税とされます。
社宅の取扱い 会社 従業員 会社が家主に支払う家賃 非課税 従業員が会社に支払う家賃 非課税
最後に、土地と建物に係る消費税の非課税規定を整理します。
土地と建物の消費税の取扱い | ||||
---|---|---|---|---|
土地 | 建物 | |||
譲渡 | 非課税 | 譲渡 | 住宅 | 課税 |
住宅以外 | ||||
貸付け | 非課税 | 貸付け | 住宅 | 非課税 |
住宅以外 | 課税 | |||
土地付き建物 | ||||
譲渡 | 住宅の土地部分 | 非課税 | ||
住宅以外の土地部分 | ||||
建物部分(住宅) | 課税 | |||
建物部分(住宅以外) | ||||
貸付け | 住宅の土地部分 | 非課税 | ||
住宅以外の土地部分 | 課税 | |||
建物部分(住宅) | 非課税 | |||
建物部分(住宅以外) | 課税 |
- 建物の譲渡については、消費税法の他の規定により、消費税が掛からない場合もあります。
以上で、消費税の非課税取引のうち、政策的配慮により非課税になるもの9項目の解説を終わります。